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足手まとい

 シュバルツ王国の武器法により、民間の銃器所持は認められていない。

 つまり拳銃を真っ当に得られる手段なんて存在しないはず。

 いや、そもそも……近代兵器が魔物に通じない以上、あれを魔物討伐に携帯している意味はない。

 銃は、生き物を殺すか威嚇するためにある。つまりあの拳銃は魔物ではなくギフト保持者を相手取るために用意されたものだ。

 そこまでして捕獲しなければいけない存在……リタ。

 一体、何者なのよ──ツヴァイは自分たちが巻き込まれている事の重大さに気づく。


「支給品だ」


 ウドが再び引き金に指をかける。

 その後ろでは、既にロルフがヤンの元へと辿り着いていた。

 今まさに攻撃を仕掛けようとしたそのとき──


「時間通りじゃーん」


 呑気なヤンの声。

 そしてその背後の林から、勢いよく何かが飛び出してきた。

 巨大な生き物──先ほどまでの討伐を経験している冒険者たちの誰もがそれをストーンリザードだと錯覚した。

 しかしすぐに誤りに気づく。

 あらわれた『巨大な熊』はその手をロルフに向けて振るう。


「──チィッ!!」


 舌打ちし、すんでのところでかわすロルフ。

 その熊は目測でも体長4mはゆうに超えており、世界最大級のヒグマやホッキョクグマをも上回る。

 魔物──ロルフの脳裏にその可能性がよぎる。

 しかし熊はロルフに対して攻撃を試みた後、すぐ近くにいるヤンには目もくれない。

 明確にロルフ1人を狙って攻撃を仕掛けてきたのだ。

 魔物を操る能力か、あるいは生物を召喚する能力。その2通りしか考えられない。


 ウドが、リタとフィアに手をかざす。次いで、そこから赤い電気が放出される。

 するとウドの手元に黒い渦のようなものがあらわれた。


「な、何これ? ……ひゃあ!?」


 リタは悲鳴をあげる。

 突然、その渦に体が吸い寄せられたのだ。

 リタとフィアの2人は抗うこともできず、渦の中へと引きずり込まれる。


 ツヴァイが叫ぶ。


「フィア!」


 次の瞬間、同じ黒い渦が、今度は熊の背中の上にあらわれる。

 そして、そこからツルで拘束されたままのリタとフィアが出現し、熊の背中に落とされる。


「うわぁぁ!?」


 入り口と出口の役割に分かれた2つの黒い渦。

 入り口側の渦には木から伸びたツルが繋がっており、それは出口側の渦から伸びてフィアたちを拘束したままだ。

 あの黒い渦は『ワープゲート』のような役割を果たしているのだとわかる。

 5秒経過後、渦は赤色の電気とともに消え去り、ゲート間を通過していたツルは切断される。


 そのまま、ヤンとウドも熊の背に飛び乗る。


「さぁて、ズラかるぜ! ウド!」

「ふう。危ない橋だった」


 4人を乗せた巨大熊が走り出す。


「──逃がすか!」


 ロルフが駆け出し、ツヴァイもその背を追いかけようとするが、一瞬立ち止まり、躊躇うように仲間の方を振り返る。


「私たちのことはいい! フィアを追いかけろ!」

「……ツヴァイ、頼んだ」


 仲間の言葉にツヴァイはコクリと頷き、すぐに駆け出す。


 フィアは走る熊の体に揺られながら思考する。


 ……僕のせいだ。

 僕が勝手なことをしたから、仲間が危険な目に遭っている。

 考えろ、僕にできることはないか?


 フィアは地面に目を向ける。


「ま、まただ……」


 地面に落ちている草木が腐っている。

 いや、よく見ると周囲の樹木もだ。

 これはさっきの魔物討伐でも見た光景──何がどうなっている。

 今この場で能力を発動したのはツヴァイ、ヤン、ウドの3人。

 いや、おそらく何らかの方法で拘束を解いたロルフもだ。電気を発していなかったから常時発動型で間違いないだろう。

 そして、先ほどの討伐で『腐っている草木』を見た付近は、ルーカスとヤンが能力を発動させた場所だ。

 それなら──原因はヤンのギフトに間違いない。

 そしてもう1つの疑問。

 この熊を操っているのは誰だ?

 当初、こいつがあらわれたときは消去法でウドのギフトだと思った。

 しかしウドのギフトは先ほどの『黒い渦』──ワープゲートのように人や物体を移動させる能力に間違いない。

 なら、この熊は?

 ロルフの言っていた『王子』、そしてウドは拳銃を『支給品』と呼んだ。

 敵はこの2人だけじゃない?

 そこで思考にノイズがかかる。


 僕は……僕は何を考えてるんだ。

 僕なんかがどうにかできる状況じゃない。

 僕には何もできない。


 僕は……ナンバーズの足手まといだ。

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