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攻撃の意思

 冒険者たちが素材の回収を終えて、ひとまとまりになって帰路につき始める。

 もう日は暮れた。足元は暗く、安全に歩くのすら難しい。まずは街灯のある整備された小路(こみち)に出る必要がある。

 それまでは各々がスマホのライトを頼りに歩いていくしかない。


「リタさんの能力で照らせないの?」


 フィアがリタに問いかける。


「照らせるけど、さすがに体力を消費しすぎたから森を出るまで維持するのは難しいかな」

「そっかぁ。リタさんが懐中電灯の代わりになると思ったんだけど」

「フィアくん、言葉選びって知ってるかな?」

「ねぇリタさん。リタさんはどうして僕たちがヘンテコ保持者ってわかっても普通に接してくれるの?」

「どうして……? う、うーん」

「戦闘中もツヴァイのことを助けようとしたよね? ヘンテコ保持者は奴隷で、みんなにとって嫌悪の対象のはずなのに」

「ボクにはむしろ、どうしてみんながそこまでヘンテコを嫌悪するのかわからないよ。……あれ? でも昔は違ったような……」

「む、昔?」

「小さい頃、ボクもヘンテコを嫌っていたことがあった気がする……いや、どうだろう……記憶が曖昧だ」


 頭を押さえるリタの姿を見て、フィアは呆然とする。

 ヘンテコを嫌っていた過去がある?

 今は違うのに?

 レオンのギフトは明らかにレオンの性格を変質させていた。でなければ、あんな人間離れした凶暴な闘い方ができるはずがない。

 だとすれば、リタのギフトにも同じような代償があるのかもしれない。

 誰にでも優しく接する善人のことを『天使』と表現されることは多い。もしもリタの性格が徐々に能力に書き換えられてるとしたら──話の辻褄が合う。


 リタは困ったように笑い、フィアに視線を向ける。


「あはは……よくわからないけど、とにかくボクはフィアくんに危害を加えるなんてことはしないから安心して。せっかくこうして知り合えたことだし」

「うん、ありがとう。リタさんと知り合えてよかった」

「あはは、照れるね」


 そんな2人のやり取りを、数歩後ろを歩くナンバーズのメンバーが眺めている。


「あいつら……なんか仲良くなってないかしら?」

「そうだな」

「ほ、放っておいていいの?」

「リタはロルフに逆らえない。今この場は、私たちに手出しすることはできないよ」

「そういうことじゃないわよ! あんな顔も性格もいいやつがあたしたちの仲間を誘惑してるのよ!? ハレンチだわ!」

「ハ、ハレンチ……?」

「あんただってフィアが気に入ったから仲間にしたんでしょ!?」

「ええと……気に入ったって別にそういう意味じゃないし、そもそも私は恋愛とかよくわからないんだけど、リタはフィアをそういう目で見てるのか?」

「あたしの勘に狂いはないわ! ギフト保持者に(ほだ)されたらナンバーズの活動に支障をきたすかもしれないわよ!?」

「なるほど確かに。だとしたら危険だ」


 アインスとツヴァイのどこかズレた会話にドライが口を挟む。


「……考えすぎ」


 無表情のまま言葉を続ける。


「……2人とも、フィアのことわかってるようでわかってない。どれだけリタに心を許しても、フィアがわたしたちの活動に迷惑をかけることはない」

「な、なんでそう言い切れるのよ?」

「……フィアにとって、それほどナンバーズの存在は大きいから」


 何よりも大切な姉を救ってくれた存在。

 自分を変えてくれた存在。

 恩義とは、喜怒哀楽よりも深く人の心に刻まれる感情だ。フィアはそれを当たり前に理解している。


「……2人とも、自分たちのやったことにもう少し自信を持った方がいい」


 2人は顔を見合わせる。


「前から思っていたが……ドライは大人というか、私たちとは違う視点を持ってるな」

「さすがドライ先生よ! 見た目はこんなモチモチで可愛いのに!」

「……モチモチ」


 ツヴァイがドライを後ろから抱きしめて頬ずりする。

 アインスの言葉は正しい。ドライは特別大人というわけではなく、一歩引いた『違う視点』を持っている。

 自分をあくまでもナンバーズの『バランサー』と置くことで、このギルドを俯瞰(ふかん)的に見ているのだ。そうしてアインスとツヴァイという不安定な組み合わせのバランスを微調整し続けている。


 暗がりの先に、わずかな灯りが見える。

 冒険者たちは気を緩める。

 ようやく小路に出れる、と。


 そのときだった。


 先頭を歩いていた男が足を止める。

 振り返り、生き残った討伐隊を眺める。


 そして──


「さぁ、『仕事』の時間だ」


 その目から赤色の電気が放出される。

 真っ先に動いたのはロルフだった。

 一直線にリタの元に駆ける。


「っ……!?」


 しかしその足がピタリと止まる。

 視線を下げると、足にツルが絡みついていた。何重にもグルグル巻きになり、ロルフの動きを静止させる。


 冒険者たちは驚愕する。


 周囲の木々が大きく成長し、意思を持ったようにうねり始める。夜の森そのものが生きているような不気味な現象は、疲れ切った冒険者たちに恐怖を与えるには十分だった。


「みんな気をつけろ!」


 アインスがナンバーズに向けて叫ぶ。

 これは間違いなく先頭の男のギフトだ。

 そして、明確な攻撃の意思である。


「狙いはお前らじゃねぇのよ、ザコ冒険者ども」


 男が笑うと、背後の樹木が揺れ動く。

 そして突然、そこから垂れ下がっていたツルが太く大きく成長し、リタの元へと勢いよく伸びる。

 不意打ちに対し、誰も反応できなかった。


 ただ1人を除いて──

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