シナジー効果
そこからは各ギルドごとに素材回収を始め、リタは泣き腫らした目で黙々と作業を進めていた。
「リタさん、ごめんなさい」
「……なんで謝るの?」
「リタさんの事情はわからないけど、きっと僕たちがいなければ──」
「違うよ。きっとナンバーズがいなくても、ボクにはまだ実力が足りなかった。仮にラストアタックを取れていても、今のままのボクだとこの先仲間を守れなかった」
「……そっか」
「優しいんだね、フィアくん」
2人のやり取りを見ていたツヴァイがただならぬ雰囲気を感じ取り、慌ててフィアの耳たぶをつまむ。
「フィ、フィア! あんた作業サボってんじゃないわよ!」
「い、いてて……」
「リタ! あんたもちょっと顔が良いからってうちの隊員に色目使わないでくれるかしら!」
「い、色目……?」
「ふんっ! フィアはあたしの弟子なんだから、あたしより強くない人間は近づけないわよ!」
「そ、それは前途多難ですね……あはは」
そうこうしているとドライが戻ってくる。
「あら? あの厨二病はもう大丈夫なの?」
「……復活した」
「じゃあもう1回いじってくるわ」
「……ひどい」
そう言って、ツヴァイはその場を去っていく。
ドライがフィアに視線を向ける。
「……どうだった? 初めての魔物討伐」
「うん……怖かったけど、それ以上に悔しかった。僕は何もできなかったから」
「……フィアの能力で倒した」
「でもそれは僕が『そういう能力を持っていた』というだけで、自分で考えて使えなきゃ僕はただの『武器』と同じだよ」
「……初戦はそんなもの。ナンバーズの闘い方は学べた?」
「うん。情報を引き出して、自分の武器と掛け合わせて確実に勝てる理論を導き出す」
もうひとつ、とドライは言う。
「……ナンバーズというギルドについて話しておく。これはアインスとツヴァイも気づいていないこと」
「えっ、あの2人も?」
「……今回の魔物討伐、どうして成功したと思う?」
「そ、それは……アインスが勝利の理論を見つけてくれたから……」
「……でもアインスは最初諦めようとした。主には勝てないって。冒険者を見殺しにしようとした」
「あっ、そういえば」
「……だけどツヴァイがアインスの考えに反抗した。信念を曲げず、1人で立ち向かおうとした」
「そ、それが功を奏したってこと?」
「……でもツヴァイは自己犠牲に走ろうとして、それをアインスが止めた。止めるために新たな理論を生み出した」
「そ、それがこの結果を生んだ?」
「……あの2人がそれぞれ想定していた結果よりも『更に良い結果』が生まれた」
「ほ、本当だ。アインスもツヴァイもこの結果を狙って出したわけじゃない」
「……『シナジー効果』」
「しなじー?」
「……元々はビジネス用語。対立意見をぶつけ合ったとき、どちらか一方を押し通すでもなく、どちらかが譲歩するでもなく、互いの妥協案を探すでもない。2つの意見を真髄にぶつけ合えたとき、『双方が想定していたよりも更に納得のいく、まったく新しい1つの結果』へと進化する」
「そ、それが今回の結果……あの2人はそれを無意識にやってるってこと?」
「……そう。だから、わたしはあくまでも『バランサー』に過ぎない」
ドライは確信を持って言う。
「……このナンバーズというギルドの強さは、あの2人の対立する信念がぶつかり合うことで生まれてる」
フィアはサンブルクでの出来事を思い出す。
あのときもアインスは『洗脳系能力者を探していて』『僕を助けることには反対』だった。
けれどツヴァイが『僕を連行し、助けようとした』ことで、『敵を一撃で仕留められる武器を手に入れた』というまったく新しい結果が生まれている。
「シナジー効果……あの2人はよく喧嘩してるけど、思い返してみると確かに『信念をぶつけ合ってる』かも……」
「……でもフィアが仲間になったことでこのバランスは崩れる。ナンバーズは変化していく……変化せざるを得ない」
「ぼ、僕がバランスを崩してしまう?」
「……どちらの信念に惹かれるか、それともまったく別の信念を持つか」
「僕の信念……」
「……どちらに導かれていくか……人は好意を持った相手の影響を自然と受けていくもの」
ドライはフィアに歩み寄り、その顔を見上げる。
無垢な瞳を向けて、言った。
「……フィアは、アインスとツヴァイのどっちが好き?」




