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一難去って……

 国外からやって来た人間のその国の印象というのは、ほとんどが首都を観光して決定づけられるものだろう。

 シュバルツ王国は『緑の国』と呼ばれることもあり、それは街の59%が緑地という王都・メルヴィンを訪れた人間の抱く感想だった。

 1年を通じて比較的乾燥した気候であること、雨が降っても小雨や霧雨が多いことなど、様々な条件が重なって『外へ出る』ことに対して住人が前向きであることは間違いない。そのため、街には緑のあるパブリック・スペースを享受(きょうじゅ)する人々が多く、自然と街路樹(がいろじゅ)の量が増えていき、住宅地であっても鳥の鳴き声が絶え間なく響いている。

 そんな街の片隅にぽつりと建つレンガ調の一軒家に、2人の男がいる。

 1人はソファーに腰かける大柄の男。どこか目の焦点が合わず、なにやらぶつぶつと気が狂ったように独り言を呟いている。

 もう1人は、細身の男。木製の丸型テーブルに肘をつき、スマホで何者かと通話している。


「……ええ。『勇者』は現在『セリアの森』にて魔物討伐に出掛けています。そこに我々の雇った冒険者を忍び込ませており──」


 男は表情ひとつ変えず、淡々と電話口の相手に報告する。


「『捕獲』に関しては間違いないでしょう。問題は『その先』にあります。開発省大臣・オスカー……あの狸は『人間兵器』ロルフ・ローレンスを飼い慣らしており、まともにやり合っては勝ち目が──」


 ロルフの名前に反応し、大柄の男が手で顔を押さえる。そこには額から口元にかけて斜めに、大きな古傷があった。


「お任せください。必ずや任務を果たしてみせましょう──」


 そして、男は言う。


「王位を継承するのは貴方です、王子」


 通話を切り、ソファに座る男へと視線を向ける。

 (うず)く古傷を押さえ、怨念のこもった言葉を発する。


「ロルフ……ローレンス…………やっとお前を殺すときがきた」



 ……



 ……



 ……



 ツヴァイとフィアは周囲の冒険者たちを警戒しつつ、素材回収に(いそ)しむ。


「見て、フィア。主は目も鉱石みたいにできてるわよ」

「他の個体とは違うんだね。わっ、すごく綺麗」


 深い透明感がありながら濃い赤の色彩を放つ鉱石──カットを入れるとルビーのように美しいかもしれない。

 ツヴァイが大剣を振りかぶり、その目へと振り落とす。

 カキン、という甲高い音とともに鉱石は強い光を放った。


「やっぱり硬いわね。討伐隊で分配するのに骨が折れそう」

「すごい光……衝撃を与えると赤く発光するみたいだね」

「目が痛くなるくらい眩しいわ。こんなに光るなら武器としては使えないかも……でも装飾品として高く売れそうだからいっぱい貰っちゃいましょ!」

「全部売っちゃうの? 装飾品にすればツヴァイに似合いそうだけど」

「ほ、ほんと? 嘘じゃない?」

「うん」

「そ、それならちょっとだけ残そうかしら!」

「それがいいよ」

「ふふん〜♪」


 鼻歌を歌いながらいつもよりご機嫌に振るまうツヴァイ。

 何人もの冒険者が命を落としたという事実は、彼女にとっては耐えがたいものだ。これ以上は仲間に迷惑をかけられないという想いが、沈む気持ちを誤魔化そうと無意識下にツヴァイを明るくさせていた。

 そういえば──とフィアがあたりを見回す。


「アインスとドライ、どこ行ったんだろう?」


 フィアの言葉を聞いて、ツヴァイは木陰を指差す。

 振り返ると、木陰に隠れてアインスがしゃがみ込んでいる姿があった。向き合うように、ドライがその様子を眺めている。


「な、何してるんだろう?」

「恥ずかしいのよ」

「恥ずかしい?」

「ほら、さっきの闘いでカッコつけて指パッチンしたりヤバいワードとか飛び出してたでしょ?」

「う、うん」

「後から我に帰って悶えるのよ。いつものことよ」

「さ、最初から言わなきゃいいのに……」

「ノってくるとつい出ちゃうんでしょ。あいつ黒歴史自動生成機なのよね」

「大変だね……」


 アインスは両手で顔を覆い、プルプルと肩を震わせている。ドライはその指の隙間から真っ赤になった顔を覗き込み、ホクホクと満足げな顔をする。


「な、な、なんで私はあんな台詞を恥ずかしげもなく……!」

「……よしよし」


 ドライがアインスの頭を撫でる。


「……これからもいっぱい黒歴史作ってほしい」

「に、二度と作らない!」

「……聴覚強化してたから聞こえてた。『約束された破壊』」

「っっ〜〜〜〜!!」


 バタバタと体を揺らして悶えるアインス。


「……可愛い」



 ツヴァイが順調に素材を回収していく中、フィアが少し気まずそうな顔をしてリタに視線を向ける。

 リタは1人で黙々と装甲の破片を拾う。その泣き腫らした目を見て、フィアは耐えきれずリタの元に歩み寄る。


「リタさん……」

「……フィアくん、みっともない姿を見せてごめん」

「ううん。気にしないで」


 ツヴァイは2人のやり取りを見て、先ほどの出来事を思い返す。

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