強い方が前
「──そうだ。奪い合え」
その様子を眺めながら、アインスは不気味に笑う。
「君たちのその『ラストアタックへの執着』は最初から計算に入っている」
ストーンリザードを倒すには、あの装甲が砕けた『額』に攻撃を当てなければいけない。
しかしその破壊箇所は今、アインスのいる『南側』を向いている。これでは不十分だ。
あの魔物は、最も接近してきた人間を襲う習性がある。その人間の方向を向き、真正面から攻撃を仕掛けることを優先する。
迫り来るリタとレオンの方向──西側へと体の向きを変えていくストーンリザード。
額が、西へと向く。
ナンバーズの誇る『攻撃手』が待ち構える『西側』へと──
アインスは東側にいるドライへと視線を向ける。
「さぁ、ドライ。君の頭脳なら理解できるはずだ。私たちがやろうとしていることを」
アインスの視線を確認したドライは、ストーンリザードの主を見る。
方向を変えて、今はこちらに背中を向けているようだ。
その奥からリタとレオンがストーンリザードへと向かう姿がある。
そして、その更に奥には──
ドライは状況と作戦のすべてを把握し、たった一言だけ呟く。
「……了解、リーダー」
木々の隙間から煌々と光る西日を背に、2つのシルエットが浮かび上がる。
「行くわよ、フィア!」
「う、うん」
2人は互いの手をギュッと握り合う。フィアは左手を、ツヴァイは右手を繋いでいる状態だ。
前方にはリタとレオン、その奥にはストーンリザード。更にその奥ではドライがこちらの様子を伺っている姿がある。
ドライは、ツヴァイのいる角度からはストーンリザードの体が邪魔をして見えない。フィアの角度からなら魔物の巨体の『右側』にかろうじて見える。
「ね、ねぇツヴァイ……」
「何よ? まさか女の子と手繋いで緊張してんじゃないわよね?」
「い、いやツヴァイの手汗がびちゃびちゃすぎて大丈夫かなって」
「ちちち違うわよっ! これは走ってきたからよ! あんた相手に緊張なんてしないんだから!」
「ヌルヌルしててなんかヤダな……」
「あんたデリカシー死んでんの?」
フィアの視界の奥で、ドライがポケットからスマホを取り出す姿を確認する。
「来るよ、ツヴァイ」
「わかったわ」
ツヴァイは左手の大剣を構える。
「ねぇ、ツヴァイ」
「さっきから何よ、うっさいわね!」
「いや、その……手逆じゃない? こういうのって普通男の子が前なんじゃ……」
繋いだ手は、ツヴァイが前でフィアが後ろになっている。
ツヴァイは「ふん」と鼻を鳴らす。
「あんた旧石器時代からやって来たワケ? 性別なんて関係ないわよ」
そして不敵に笑った。
「『強い方』が前よ!」
ドライがスマホを地面に向けて落とす。
「行くよ、ツヴァイ」
「ええ」
ツヴァイとフィアの2人は同時に叫んだ。
「「ヘンテコ発動!」」




