トドメの合図
短剣の剣先が、ストーンリザードの額へと触れる。
その瞬間──
リタとレオンは絶句する。
何度攻撃を与えても壊せなかった、あんなにも頑強だった石の装甲が──
激しい破裂音とともに、短剣が額を貫く。
石の装甲は嘘のように呆気なく砕け、そこからストーンリザードの顔中にビキビキと亀裂が走る。
それでも短剣は速度を落とさず、ストーンリザードの体内を時速10kmで進み続ける。
装甲を破壊し、肉を裂き、胃へと向かって魔物の体をえぐり抜ける。
耳を覆いたくなるほどの甲高い鳴き声がセリアの森にこだまする。魔物の断末魔の悲鳴が、大気を震わす。
全長10mを超える怪物が全身を大きく揺らして、暴れ、痛みにもがき続けるその姿は、この世のものとは思えない光景だった。
「ふふっ、痛いだろう? すぐに楽にしてやる」
悶絶するストーンリザードの西側で、リタとレオンの2人が同時に地面を蹴る。
リタは光の粒子とともに滑空し、レオンはその四つ足で地を駆ける。
リタは剣を構え、目の前で起きている状況を整理する。
……信じられない。
何故あんなにも容易く装甲を破壊できたのかはわからないが、あれは間違いなく能力によるものだ。
ヘンテコ。
日常生活で役立つ程度の能力のはずだ。
ギフトを駆使しても崩せなかったあの体を何故……
けれど、そこから追撃をかけないところを見るに、あれは一撃限りの技だ。もうストーンリザードへの攻撃手段をアインスは持ち得ない。
だから、これはボクたちに『トドメを刺せ』という合図。
装甲に亀裂が入ったなら、ボクの攻撃なら十分倒せる。
しかしボクの少し先を走るレオン……スピードなら彼の方が上だ。
最初の攻撃は持っていかれるが、一撃で仕留めることなんてできやしない。
「……いける」
一方、レオンは最高速度で駆けながら思考する。
許さない、許さない、ユルサナイ。
俺でも壊せなかったあの装甲を、ヘンテコごときが破壊した。
ヘンテコは世界の塵だ。人権なんて持たない、生きる資格もない弱者。
俺は……それ以下だというのか?
──コロセ。
一際大きく、頭に声が響く。
もう後戻りはできない。これが最後のチャンスだ。
俺が仕留める。他の誰でもない、この俺が。
後ろからはリタが追ってくるが、間違いなく俺の方が先にストーンリザードの元へとたどり着く。
最初の攻撃は俺が取れる。しかし、一撃で仕留めることはできないだろう。
その間にリタはやってくる。パワーはやつの方が上だ。
二撃……二撃で仕留める必要がある。リタの攻撃がストーンリザードに届く前に、二撃目を入れる。俺のスピードなら十分にやれる。
もしも──
もしもリタにラストアタックを奪われるなら俺は──
「……コロス!!」
そして、リタとレオンは2人同時に思考する。
ラストアタックは──
ボクが──
俺が──




