奥の手! ヘンテコ《チートスキル》発動!?
ストーンリザードに睨まれたツヴァイは得意げに笑い、鼻を鳴らす。
「ふふん。そんなに睨んだって、あんたはもう勝てないわよ」
すっかりいつもの調子に戻ったツヴァイだが、しかしその目は油断なく敵から離さない。
「さて、まずは簡単な仕事を済ませようかしら!」
もう攻撃は必要ない。あの装甲を物理的に壊そうだなんて思わなくていい。
当初、ストーンリザードの主が現れたとき、誰もがその頑強な装甲に『長期戦』を予想した。
だからこそリタとレオンは先ほどの戦法を取ったのだ。
時間をかけなければ……何度も攻撃を仕掛けなければあの装甲は壊せない。そう思い込んでいた。
しかし今は違う。
ツヴァイは短剣を握る手の人差し指だけを立てて、クイクイと曲げて魔物を煽る。
「──来なさい。瞬殺よ」
ストーンリザードが動き出す。
目の前の獲物を食らうべく飛び込む。
その『大きな口』を開いて。
そうだ、この魔物は『真正面』にいる人間には必ず『噛みつく』か『丸呑み』の2択しかない。
ツヴァイはスイッチが切り替わったように真剣な表情になり、バックステップで攻撃をかわしつつ、ストーンリザードの口に向けて短剣を投げつける。
ガギン、と歯と歯のぶつかる音が響き、1秒前までツヴァイが立っていた場所にストーンリザードの頭がやってくる。その巨大な口で短剣だけを呑み込んだようだ。
ツヴァイはそのまま後方を振り返り、アインスが待つ場所へと疾走する。
「よし、食わせたわよ!」
ストーンリザードはなんでも食べる。そして異物を取り込んでも吐き出さない。これは他の個体を解剖してわかったことだ。
あの短剣は、すぐに胃まで届く。
ツヴァイはアインスの元へと辿り着き、ハイタッチする。
「頼んだわよ! 冷淡女!」
「ああ。任せろ、熱血バカ」
そしてツヴァイはルートを切り替えて、ストーンリザードから西側──リタ、レオン、そしてフィアのいる場所へと走っていく。
アインスは余裕の笑みを浮かべながらストーンリザードの方へと1歩踏み出す。
「物理的に壊せないなら『物理法則』を無視してやればいい……」
そして、右手に握る短剣を前方へとかざす。
「今、この世界を支配しているのは『物理法則』じゃない。『能力』と『世界法則』だ」
その右手から、黄色の電気が放出される。
「──ヘンテコ発動」
短剣はアインスの手を離れ、ひとりでに動き出す。ストーンリザードに向かってまっすぐと。
ストーンリザードとアインスとの間は、まだ十分に距離がある。目の前に人間がいなければ、あの魔物が口を開けて攻撃を仕掛けることはない。
「この世界における『チート』とは、ただ『強いこと』じゃない。異世界転生して得た力でもなければ、女神から与えられた力でもない。この世界に刻まれた法則の『虚をつく』能力の使い道のことだ」
マッチングペア……能動側の物体は受動側の物体へと時速10kmで最短距離を進んでいく。
間に障害物があるならそれを避けるように、そして今朝フィアに話していた通り、受動側の物体が遮蔽物に『完全に閉ざされていた』場合は──それを『突き破って』でも。
「能力は絶対だ。このルールは、あらゆる物理法則よりも優先される」
このヘンテコが発動した時点で、アインスが自分の意思で能力を解除しない限りは、能動側の物体は受動側の物体へと必ず時速10kmで進み続ける。
いや、進み続けなければいけない。
何故なら能力で『そう定められている』から。
短剣がストーンリザードの目の前へと迫る。
「ヘンテコ『マッチングペア』……」
アインスは振り返り、ストーンリザードへと背中を向ける。
そして妖艶に笑い、指をパチンと鳴らした。
「チートスキル《約束された破壊》」




