優しさの欠片
「アインス……」
アインスは真剣な表情でツヴァイを見つめながら、口を開く。
「ツヴァイ、ダメだ。そのやり方なら私も思いついた。絶対に実行するな」
「……ごめん。あたしがやらなきゃ」
アインスの手を振り払い、ストーンリザードの元に進もうとするツヴァイ。
その体を、今度はアインスが後ろから抱きとめる。
「っ……アインス、離して」
「君が私の言うことを聞かないなら、私も君の言うことを聞かない」
「何よそれ……」
「ツヴァイ、君は優しい。ちょっと嫉妬するくらいに」
「だから……何よそれ」
「だけど、君は自己犠牲が過ぎる。考えてもみろ、今ここで君が死んだら、これから君に救われていくはずの命はどうなる? 優しさには『持続性』という欠片が不可欠だ。自己犠牲は、それが一瞬で失われる行為だ」
ツヴァイは唇を噛む。
「わかってる……わかってるわよっ! でもどうすることもできないのよ……! あたしはバカだから……無力で何も持ってないダメ人間だから、命を投げ打つしかないじゃない!」
「ああ、君は本当にバカだ。その場合の最善手は『命を捨てる』ことじゃない」
「じゃあ何なのよ!」
アインスは迷わず応える。
「『仲間を頼る』」
「っ……!」
「それから、君はダメ人間なんかじゃない。君がいないと私は毎晩コンビニ弁当だ」
「確かにあんたは……あたしがいなきゃ何もできないわね」
「うるさいな」
ツヴァイの体から力が抜ける。
それを確認して、アインスは表情を緩める。
「でも……どうすんのよ。あいつらが共闘したのはいいけど、あのやり方、ハッキリ言って危なっかしすぎるわよ」
「大丈夫だ。私に考えがある」
アインスは強い口調で言う。
「リタでもレオンでも他の誰でもない。君の願いは全て──私が叶えてやる」
ツヴァイは「はぁ」と息を吐き出して、安心したように口元を緩める。その頬は少しだけ紅潮していた。
「わかったわよ。ところであんた……」
「なんだ?」
「さっきから胸当たってんのよ」
「………………当ててるんだ」
「嘘つけ」
慌てて体を離すアインスに、ツヴァイは笑う。
「あたしはあんたの剣。あたしを好きに使って、あのトカゲをぶっ飛ばしなさい」
「ああ、君の戦闘技術はもちろん『勝利の理論』に組み込んでいる」
2人は顔を見合わせ、頷く。
そしてコツンと拳を合わせた。
「勝つわよ、冷淡女」
「当然だ、熱血バカ」




