天使と獅子
ストーンリザードの正面にたどり着いたレオンは地を駆け回り、敵を翻弄する。
今までとは違う。『回避から攻撃に転じる』という思考を捨て、ただ『避け続ける』ことに集中すればいい。
速度では魔物の動きを遥かに上回るレオンは、ストーンリザードの正面への噛みつきをなんなくかわす。すぐにバックステップを取り、前足による攻撃も回避する。
「ククッ。どうした、もっと来いよ!」
挑発するレオンに対し、ストーンリザードは体勢を立て直しギョロリと視線を落とす。
狙いを定め、口を大きく開けて巨大な牙を露出させ、再度噛みつこうとした──そのとき。
「燐光剣!」
上空からリタの剣がストーンリザードの頭部を突く。
ガキンと音を立てた剣をすぐに引き、即座に上空へと舞い戻る。
衝撃で頭を地面へと叩きつけられたストーンリザードの目の前で、レオンが笑う。
「テメェの行動パターンはもうわかってんだよ」
体勢を立て直したストーンリザードは、再びレオンへとターゲットを絞る。
「目の前に餌があったらそれしか見えてねぇんだろ。リタの上空からの攻撃に対してテメェは『頭を振る』くらいしか対応できねぇのに、俺が正面でウロチョロしてたらそれどころじゃねぇ」
ストーンリザードが口を開けて飛びつく。
「『避け続ける』だけなら簡単なんだよ!」
レオンが回避すると同時に、上空から光の剣がストーンリザードを襲う。先ほどの一撃とまったく同じ箇所だ。
魔物の頭を通し、地面まで衝撃が響く。リタの燐光剣は間違いなくこの討伐隊で最大の火力だ。効いていないはずがない。
リタはもう一度空を舞い、隙をうかがう。
「能力でもない限り、この世に壊れない物なんて存在しません。その装甲、いつまで保ちますか──」
リタの握る剣がより一層強く、輝きを放つ。
……これはもう根比べだ。
レオンがストーンリザードの視線を引きつけて攻撃を避け続ける限りは、ボクの剣はノーリスクの必中攻撃と化す。
レオンがやられるのが先か、装甲を破壊するのが先か。これはそういう闘いだ。
リタは、ギルド仲間のいる方向に視線を向ける。今もストーンリザードの他の個体と交戦中で、既に何人かの冒険者がやられている様子だ。
ボクの仲間はまだ無事だろうか──リタは焦りを隠せない。
必ずみんなで生き残って、そしてボクがラストアタックを決めて、これから先もずっと一緒に──
剣を握る手に力を込め、ストーンリザードの主をキッと睨みつける。
リタとレオンの戦闘を見つめながら、ツヴァイは一歩踏み出す。
あの2人なら、もしかしたら主に勝てるかもしれない。
あれは根比べだ。レオンがやられるのが先か、装甲を破壊するのが先か。
「……それじゃダメ」
もしかしたら勝てる──そんな偶然の可能性に賭けられるほど、ツヴァイにとって『他人の命』は軽くなかった。
絶対に勝たなければいけない。そしてその方法をツヴァイは既に知っている。
……簡単なことだ。
あたしが『食われて』しまえばいい。
装甲が破壊できないなら、体内から攻撃を仕掛ければいい。
さいわいにもストーンリザードの『真正面』への攻撃手段は『噛みつき』か『丸呑み』しかない。そして噛みつかれるようなら、あたしには単発型の『絶対防御』がある。
もちろん魔物の体内に入るなんてことを実行すれば、あたしは無事では済まないかもしれない。
生きて出られるかもわからない。
しかし確実に『装甲を無視して』攻撃を仕掛けられる。それも敵の攻撃は届かない『安全圏』からだ。
つまり──絶対に勝てる。
「勝利の理論……」
あたしが死んでも、ナンバーズの仲間がいつか世界のヘンテコ保持者を救ってくれる。
「ごめん……ごめんなさい……」
あたしがやらなきゃいけない。
目の前の命を救う。
そのためなら、あたしの命なんて──
そのとき。
ツヴァイの手を誰かが後ろから掴んだ。
振り返ると、そこにはアインスがいた。




