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ヘンテコ発動!

 ツヴァイがアインスに視線を向ける。アインスは、観念したようにため息をつく。


「……条件次第だよ」

「それでこそナンバーズのリーダーよ!」

「条件次第って言ってるだろ!」


 抱きつこうとしたツヴァイを制し、アインスは少年を見つめて呟く。


「私たちはお互いをコードネームで呼び合ってる。君はそうだな……ひとまず『フィア』と呼ぶことにしよう」

「フィア……ですか。ありがとうございます」

「なんでお礼?」


 雑につけられただけの名前を喜ぶフィアを見て、アインスは驚く。


「純粋な子だな」

「アインス、騙されちゃダメよ。こいつは人畜(じんちく)無害の皮を被った天然(あお)り野郎なんだから」

「この子が? ふふっ、そんなわけないだろ」

「あたしを受け止めたとき『重い』って言ったのよ!」

「仕方ないよ、フィアはこんな細い身体つきなんだから。可愛らしいじゃないか。なぁ、フィア?」

「ご、ごめんなさい……アインスさんみたいに太くなれるように頑張ります」

「ふふっ。殺すぞクソガキ」

「はたから見てる分には結構面白いわね……」


 コホン、とアインスが咳払いする。


「さて、まずはフィアのヘンテコを教えてもらおうか」

「ぼ、僕のヘンテコですか?」

「仲間の能力くらい知っておかないとギフト保持者には敵いっこないからね。そうだね、公平に私の能力から見せておこうか」


 そう言って、アインスは自分の靴を脱いで片方をフィアの手元に投げ渡す。

 そしてもう片方の靴を自分の手に持つ。


「──ヘンテコ発動」


 次の瞬間、靴を持つアインスの手から黄色の電気が発生する。

 すると靴は彼女の手を離れ、ひとりでに動き出し、宙に浮いたままフィアの持つもう片方の靴へと飛んでいく。


「えっ? ええっ!?」


 やがてフィアの持つ靴へとたどり着き、力を失ったように地面に落ちる。


「これが私のヘンテコ『マッチングペア』……あらゆる物の片割れを探し出す能力。私の触れた側が『能動側』として、その片割れが『受動側』、能動側の物体はペアである受動側の物体が世界のどこにいても必ずその場所まで移動し、密着した時点で能力は解除される。靴下を片方だけ無くしたときとかに便利だね」

「す、すごい……」

「……この能力を聞いた人は大抵バカにするんだけど、なんだか新鮮な反応だな」


 フィアは口を開けたまま、間の抜けた表情で地面に落ちた靴を見つめる。

 その様子を見て、ツヴァイがニヤリと悪戯(いたずら)に笑う。


「フィア、大丈夫? そんなにばっちぃの持たされて」

「あ、いや、それはなんとか我慢できます」

「……ふふっ。今度話を逸らしたら2人とも殺すからね」


 アインスはフィアの手からパシンと靴を取り返す。


「す、すみません。実は自分と姉さん以外の能力を滅多に目にしないものだから面食らってしまって」

「こんなものに驚いてちゃダメだよ。ギフトはもっと比べ物にならない……私たちのようなヘンテコ保持者を一瞬で殺せてしまうような能力だって存在するのだから」

「は、はい……」


 ツヴァイが口を挟む。


「ま、ここまで来たらあたしも見せておくわね。もっとシンプルな能力だからすぐに終わるわ」


 ツヴァイが胸の前に手を出し、そこから紫色の電気が放出される。

 すると何もなかったはずの空間から『何か』が現れ、彼女の手に握られる。

 冷たく光るそれはツヴァイの体躯(たいく)には似つかわしくない巨大な両刃剣だ。


「ヘンテコ『なんでも収納』……物を1つだけ収納できる能力。収納したい物に手で5秒間触れ続けることが条件よ。重い物を持ち運ぶときとかに便利ね。基本はこうやって武器を収納してるわ」


 フィアが先ほどと同じように驚いていると、ドライに背中をツンツンとつつかれる。


「……わたしの能力、目に見えない」


 バチバチ、と彼女の耳あたりに黄色い電気が走る。


「ヘンテコ『聴覚強化』……耳がちょっとだけ良くなる能力。発動中はすごく疲れるから長い間は無理」


 3人が能力の紹介を終える。


 ヘンテコ。

 それは日常生活で役立つ程度のくだらない能力。


 例えば、『紙を真っ直ぐに切れる能力』

 例えば、『ライター程度の火を起こす能力』

 例えば、『猫の鳴き真似がうまくなる能力』


 本来であれば一笑(いっしょう)()するような能力にいちいち驚くフィアの姿に、3人はどこか気恥ずかしさを感じる。


「さて、次はフィアの番だ。君のヘンテコを見せてくれ」

「は、はい。えっと……笑わないでくれますか?」

「当たり前だよ。同じヘンテコなんだから」

「わかりました。僕の能力は──」


 フィアはおもむろにポケットからスマホを取り出し、3人の前に掲げる。

 そして、その手を離す。

 重力に従い、地面に向けて落下していくスマホ。そして彼の右手とスマホの両方から紫色の電気が弾ける。

 次の瞬間、フィアの身体が即座に動き、伸ばした右手がスマホをキャッチする。地面に触れるギリギリのタイミングだ。


「何してるんだ?」

「え、えっと……これが僕の能力です」

「は?」

「だ、だからこれが僕の能力です」


 3人は顔を見合わせる。


「僕のヘンテコは……『落としそうになったスマホを必ずキャッチできる能力』です」


「……」

「……」

「……」


 しばらくの沈黙の後、気遣うように3人が話し始める。


「へ、へぇ〜便利な能力ね! あたしなんてよく落とすからこうして首から下げてるし!」

「あ、ああ。どおりで傷ひとつないスマホで羨ましいと思った」

「……寝転んでるとき、顔の上に落とさなくて済む。あれ痛い」


 フィアは涙目で返事する。


「気を遣わないでください……僕の能力はヘンテコの中でもとくに役立ちませんから……」


 ツヴァイとドライが2人でフィアを慰める中、アインスだけが顎に手を添えてなにかを思考し始める。


「で、でもまったく役立たないってワケじゃないわよ! さいわい、あんたの能力はあたしと同じ単発型。『ヘンテコは単発型というだけで当たり能力』とまで言われてるんだから」

「単発型……?」

「もしかしてあんた、それも知らない?」

「ご、ごめんなさい」


 ツヴァイは語り始める。


「いい? ギフトにしろヘンテコにしろ、能力には大きく分けて3種類の『型』があるの」


 1つ、『単発型』

 能力の発動時間を自分の意思でコントロールできず、能力の内容で時間が定められていない限りは『5秒』経過すると解除される。発動時に紫色の電気を発するのが特徴。


 2つ、『持続型』

 能力の発動時間を自分の意思でコントロールできる。発動も解除も自在だが、発動中は体力を消費するなどの制限や代償がある。発動時に黄色の電気を発するのが特徴。


 3つ、『常時発動型』

 常に能力を発動している。そのため電気を発するなどの特徴がない。


「な、なるほど……だから電気の色が違ったんだ。僕のヘンテコは単発型。でも、どうして単発型だと当たり能力なの?」

「そうね、それは後で実際に『見せて』あげるわ。それより先に……アインス」


 ツヴァイは、アインスへと視線を移す。


「ん? あ、ああ、なんだ?」

「なんだ? じゃないわよ。フィアのお姉さんを助けるかどうかは条件次第って言ってたけど、どうすんのよ?」

「ああ、そのことだけど……」


 アインスは神妙な顔をする。


「フィア。私たちはこのサンブルクに新しい仲間を見つけにきたって言ったのは覚えてるか?」

「は、はい」

「君のお姉さんを助ける代わりに、正式に私たちの仲間になってくれ。つまり非公認ギルド『ナンバーズ』の一員となり、共に旅をすることが条件だ」


 ツヴァイが声をあげる。


「はっ……はぁ〜!? 何言ってんのアインス!? あたしたちが仲間にしたい能力は決まってたはずでしょ!?」

「そうなんだけど……気が変わった。私はフィアが欲しい。どうだ、フィア?」


 アインスはフィアの方に向き直る。


「お姉さんを助けても、助けなくても、君はお姉さんとはお別れすることになる。私たちは君しか仲間にしないし、ことが終えたらすぐにサンブルクを離れる。それでも君は……お姉さんを助けたい?」


 突然の勧誘にフィアは驚く。

 アインスの提示する条件。

 何の交換条件も無しに助けてもらおうなんて虫がよすぎる話だと理解していたが、しかしそれがまさか『自分を仲間に引き入れること』なんて想像だにしていなかった。

 どうして僕なんかを──フィアは戸惑う。

 そして、レイスとの別れ。

 危険な冒険に出る勇気も、大好きな姉と別れる覚悟も、幼い彼にはまだ備わっていない。

 しかしそれでも迷う余地なんてなかった。


「……はい。それでも助けたいです」


 このまま何もしなければ、レイスは残忍な男の手によって弄ばれるからだ。


「わかった。契約成立だ」


 フィアの頭に手を乗せて、アインスは微笑む。


「奴隷を手に入れるという目的を達成したエーデルブラウは明日にでもこの町を離れるはず……決戦は明日だ。明日、エーデルブラウを襲撃し、レイスさんを助ける」


 アインスの言葉を聞いて、ツヴァイは問いかける。


「アインス、作戦はあるの?」

「それは今から考える。その前に、ツヴァイとドライは町でエーデルブラウの情報を集めてきてくれ。ドライのヘンテコは情報収集に適しているからね。まぁ、さすがにギフトの内容まではわからないだろうけど」

「わかったわ! あんたたちはどうするの?」

「私たちは色々と実験しなきゃいけないことがある。……フィアのヘンテコについてね」

「ああ〜はいはい。いつものやつね」


 呆れるツヴァイ。

 ドライが「……能力オタク」と呟く。


「そうと決まれば、ドライ、さっそく町に繰り出すわよ!」

「……了解」


 走り去る2人を見送ったアインスは、フィアへと視線を戻す。


「さて、私と色々試してみようか」

「試す?」

「強くなるための第一歩は、自分の能力を知ることだよ。君はそのヘンテコをどこまで把握している? 発動条件は? 範囲は? キャッチの定義は? 知らなきゃいけないことは山ほどある」

「こ、この能力を分析して何か意味があるんでしょうか?」

「フィア。どれだけくだらないものに見えても、意味のない能力なんて世界に1つも存在しないんだ。人間と同じで、1つ1つがどれも特別なもの。自分のヘンテコを否定してはいけないよ」

「は、はい」

「それじゃあ確かめようか。君の能力の『価値』を──」

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