ストーンリザードvsリタvsレオンvsツヴァイ②
ツヴァイは怯むストーンリザードの元に駆ける。
ストーンリザードは咄嗟に前足を伸ばし攻撃を仕掛けるが、彼女はそれを跳躍してかわし、そのまま地面を抉った『前足の上』をひた走り胴体へとたどり着く。
……攻撃が通じるとは思っていない。しかし『実際の手応え』を知っておくに越したことはない。
胴体から頭上へと移動し、そして大剣を振るう。
「──流道斬」
その目に剣先をぶつける。予想通り、甲高い音とともに剣は弾かれる。
まったくダメージを与えられていない。その手応えでツヴァイは確信する。
──単純な攻撃は絶対に通らない。
ストーンリザードは先ほどレオンを払い飛ばしたのと同じように頭を大きく振る。
ツヴァイは咄嗟に左手をつき、しゃがみ込む。
左手、両膝、両足のつま先をストーンリザードの体に接触させた体勢だ。肘を曲げ、足は内股に。空手という武術において『三戦立ち』と呼ばれる、安定感に特化した立ち方と近いシルエットをツヴァイは本能で導き出した。
その接地面に流れ込んでくるストーンリザードの『振り払おうとする力』に対して、同等の『抵抗する力』を流し、相殺する。
5ヶ所の接地面はストーンリザードの体にピタリと貼りつき、ツヴァイはそこから払い飛ばされない。
その光景を見て、リタは絶句し、レオンは怒りに顔を歪める。
あり得ないことが起きている。自分たちがなす術もなかったストーンリザードの攻撃を、目の前のヘンテコ保持者は容易く無力化しているのだ。
ツヴァイは小さく呟く。
「……7、8、9…………」
10秒。
ヘンテコの発動を終えてから10秒だ。
これで再び能力を使用できる。
ストーンリザードの頭部に密着しながら、左手に意識を向ける。
「──ヘンテコ発動」
能力を使おうとするが、左手からは紫の電気が発しない。
「くっ……やっぱりダメね」
『石の装甲』を収納しようと試みたが、これはストーンリザードの体の一部という判定らしい。生き物に対して『なんでも収納』は使えない。
「こうなったら……何度でも攻撃してやるわよ!」
立ち上がり、再び目を狙って剣を振りかぶる。
しかしその瞬間、ストーンリザードが大きく首を振ったことでツヴァイは体勢を崩す。
背中へと転がり滑り、そのまま魔物の後方へと飛ばされる。
「ぐっ……!」
無事に着地できる体勢じゃない。首、あるいは頭を強打する可能性が高いと判断したツヴァイは即座に左手でマントを掴み、ヘンテコを発動させる。
紫の電気を発したままツヴァイは地面へと叩きつけられ、バウンドする。
絶対防御──マントに対して能力を使ったことで衝撃を完全に殺したのだ。
しかしツヴァイが立ち上がったそのときには、ストーンリザードは尻尾を大きくしならせ、振りかぶっていた。
リタ、レオン、ツヴァイの3人は同時に先ほどルーカスが受けた攻撃を思い出す。
まだツヴァイの左手からは電気が放出されており、マントも消えていない。5秒経過するまで無敵状態は継続する──あの攻撃はなんとか防ぎ切ることができるだろう。
しかしルーカスのように突き飛ばされ、木に叩きつけられる頃には5秒経過しているかもしれない。そうなれば、大ダメージは免れない。
「危ない!」
リタが咄嗟にツヴァイの元へと駆け出す。
対して、レオンは口角を上げる。
……これであの金髪女は確実に死ぬ。もしも救助に向かったリタが一緒に攻撃に巻き込まれるようならそれに越したことはない。
ルーカスのときのようにストーンリザードが獲物にトドメを刺そうとする隙をついて、今度こそ俺がやつを仕留める。
ツヴァイの目が見開かれる。
ルーカスを仕留めた尻尾攻撃。あれはいわゆる『ムチ動作』と呼ばれる一撃だ。
生き物の尻尾は、根元から先端へかけて細くなっている。しなりを作ることで、根元での波打つ運動エネルギーが先端へと伝達するにしたがって運動部分の質量が減るため、攻撃速度が加速していく原理だ。
リタは必死にツヴァイの元へと駆け寄ろうとするが、もう間に合わないことを察する。
「っ……逃げてください!」
しかしツヴァイは逃げるどころか、あろうことかストーンリザードの尻尾へと走り出す。
自殺行為だ──リタは絶句する。
ツヴァイは大剣を構える。
「ナメんじゃないわよ!」
運動エネルギーが先端へと伝達するにつれて加算されるなら……そうなる前を叩けばいい。
小さく息を吸う。
神経を研ぎ澄まし、足元から力を正しく流していく。
「あたしはヘンテコ──」
そして迫り来る尻尾に向けて、ツヴァイは大剣を振り抜く。
「──あんたたちとは、くぐり抜けてきた死線の数が違うのよっ!!」
大剣と尻尾が触れた瞬間、爆発音がこだまする。
絶対防御が発動している今、反動によるダメージは一切考慮しなくてもいい。
わずかにツヴァイの剣が上回った。
まだ本来の威力にまで達していなかったストーンリザードの尻尾は、頑強な石の装甲に守られ壊れることはないものの、勢いよく弾き飛ばされる。
リタは思わず声を漏らす。
「う、嘘…………強すぎる」




