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光《ツヴァイ》の意志

 その言葉を聞いて、ツヴァイの瞳が揺らぐ。


「あ、あいつらはどうなるのよ」

「確実に全滅する。ここはもう死地で、私たちは負けたんだ。最も早く判断できた人間だけが生きて帰ることができる」

「じ、じゃあ……あいつらは……」

「『判断が遅かった』。それ以外に私から言えることはない」


 ツヴァイがアインスの手を払いのける。


「い、嫌よ……あいつらはまだ闘ってるじゃない。全員見捨てて逃げろって言うの……?」


 アインスは真剣な表情で話す。


「ツヴァイ、現実を見ろ。私たちが加勢したところで状況は何も変わらない。彼らが死ぬのは私たちのせいじゃない」


 ツヴァイの目に涙が溜まっていく。


「あ……あたしはあんたみたいに賢くない」

「だから教えてるんだ。もうこの戦況は(くつがえ)らない。ここから逃げ出しても、君を責める人間なんてどこにもいない。何故なら君は何も悪くないからだ」

「ここにいるわよっ!」


 ツヴァイは叫ぶ。


「あ、あいつらを見捨てて逃げ出したら、あたしはあたしを許せないっ! もう……胸を張って生きられない……!」


 そして小枝の上で立ち上がり、地面にいる冒険者たちを見下ろす。

 その瞳に、もう涙はない。むしろ強く、煌々(こうこう)と輝きを放っていた。


 そんなツヴァイの姿に、フィアは目を奪われていた。

 美しい──そう思った。


「あんたたちは逃げて」

「ツヴァイ!」


 ツヴァイは木を蹴り、飛び降りる。

 今まさに目の前の冒険者を食らおうと攻撃を仕掛けるストーンリザードの背に向かって。


「はぁぁぁあああ!!」


 斬撃を繰り出す。

 激しい爆発音とともに、ツヴァイの大剣はストーンリザードの体を真っ二つに叩き斬る。

 重力×流動──体力を温存するために今まで使ってこなかった渾身の攻撃は、頑強な魔物をたった一撃で仕留めた。

 そのまま一直線に主の元へと駆けていく。


「あいつさえ倒せば──」


 今まさにリタとレオンが交戦しているストーンリザードの主。

 アインスの話していた通り、魔物は主さえ倒せば、他の個体は自然とその場から去っていく習性がある。


 主さえ倒せば──


 ドライとフィアはほとんど同時に、反射的に、ツヴァイの後を追うべく木から身を乗り出していた。

 しかし2人よりも早く、真っ先にアインスが飛び降りた。


「あのバカっ! どうしていっつもいっつも私の言うことを聞かないんだ! クソ!!」


 珍しく声を荒げながら。

 着地し、すぐにツヴァイの後を追って走る。

 そして背中越しに叫ぶ。


「ナンバーズ! 能力の使用を許可する! ドライは冒険者たちをサポート、フィアは私についてこい!」


 ドライとフィアは顔を見合わせ、頷く。



「これよりナンバーズ総員で、魔物・ストーンリザードを殲滅(せんめつ)する!」



 アインスのかけ声と同時に、ドライがマントのフードを脱ぎ、木から飛び降りる。その耳からは黄色の電気が放たれていた。


「……ヘンテコ発動」


 遅れて、フィアも木を降りてアインスの後を追う。

 ドライはそれを横目で眺めてから口を開く。


「……主ストーンリザードを中心に、わたしのいる場所が東、太陽の方角が西。北東、315度よりストーンリザード2体接近!」


 その声に振り返った冒険者たちは、ドライの耳の電気を見て驚き、声を荒げる。


「お、おい。お前それ──」

「ヘンテコ!?」

「なんでここにそんなゴミが!」


 ドライは眉をひそめる。


「……死にたくないなら、わたしを怒らせないこと。言う通りにして」


 冒険者はストーンリザードと交戦しながらも口々に叫ぶ。


「なんだと、このカス能力者が!」

「奴隷なら奴隷らしく私たちの囮になりなさいよ!」

「お、おい! お前らアレ見ろ!」


 1人の冒険者が林の奥を指差す。ちょうど、ドライが伝えた北東の方角だ。そこからは2体のストーンリザードが姿をあらわしていた。


「な、なんで……」

「あ、あのヘンテコの言う通りになったぞ」


 森であれば、草木に触れることで魔物は必ず音を立てて移動する。時間経過とともに敵が増え、しかも視界を(さえぎ)る障害物の多いこの戦場──ドライのヘンテコが刺さる。


「……争ってる場合じゃない。わたしは貴方たちに情報を渡す。それをどう活かすかは貴方たち次第」

「っ……偉そうに」

「……南西140度、1体。早く倒して」


 そう、争っている場合ではない。冒険者たちの誰もが理解している──既に状況は最悪で、このままでは討伐隊は全滅してしまうと。


「南西から来るぞ! この女の情報を(もと)に体勢を立て直せ!」


 ドライは動き出す冒険者たちを一瞥(いちべつ)する。

 ……これだけの冒険者の前でヘンテコ保持者であることを明かすのは命の危険が伴う。

 しかし『このヘンテコ保持者がいなければ自分たちは死ぬ』という状況であれば手出しはできない。


 そう、これは脅しだ。


「……自分の運命を他人には握らせない」


 能力の時間は限られている。ドライのヘンテコはそう長くは保たない。それまでに──

 ドライは呟く。


「……みんな、頼んだ」

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