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破壊

 レオンがストーンリザードの『正面』に立つ。


「ククッ。テメェは正面への攻撃手段しかねぇだろうが。おら、かかってきやがれ」


 ズシン、とストーンリザードが一歩踏み出す。

 そして次の瞬間、目の前の餌を食らうべく体全体で飛びついた。


「……ッ! 速ぇ!」


 明らかに、他の個体とは違う。

 だが──


「バーカ、それでも俺の方が速ぇよ」


 地面を蹴り、右方向に飛び退()く。

 1秒前までレオンが立っていた場所にストーンリザードの頭があり、地面を大きくかじり取っていた。

 レオンはすぐさま後ろ足を飛び退いた方向とは反対向きに蹴り出し、右手を前方へと振り出す。


「わざわざ弱点を俺の攻撃が届く位置まで下ろしてくれてありがとよ」


 そして、爪を突き出す。


「──王の鉤爪ッ!!」


 弱点である左の『目』を狙って。


 ギョロリと、ストーンリザードの目がレオンの方へと動く。

 次の瞬間、レオンの体に悪寒が走る。

 それは霊的付与により与えられた『野生の勘』だったのかもしれない。もう僅かに反応が遅れていたら、間違いなく殺されていただろう。


 気づくとストーンリザードの『左前足』がレオンの脇へと迫っていた。

 それは明確な攻撃の意思を持って振り抜かれる。人間が羽虫(はむし)を叩き潰すように。

 ギリギリで反射してかわすレオンだが、その攻撃は彼の右肩を掠める。


「っ……ぐぁぁああ!!」


 掠めただけにも関わらず、レオンは痛みに絶叫しながら大きく叩き飛ばされる。

 レオンは気づく。これほどの巨体を持つ魔物にとっては、人間なんてものはまさしく虫ケラに等しいのだと。

 いや、それよりも──痛みの走る右肩を押さえながら思考する。


 こいつ……他の個体と違って攻撃手段が『捕食』だけじゃない。

 前足を器用に扱えるなら、危険域は『正面』だけじゃなく『前方全体』へと切り替わる。

 俺の速さを持ってしても、そう何度もかわせるものではない。

 だが……怪我を負っただけの甲斐はある。


 レオンの視界の端に、鉄パイプを持ったルーカスが映る。

 そう、レオンは囮役を買って出たのだ。


「ククッ。メインディッシュは残しとけよ、ルーカス」


 ストーンリザードの背後で、ルーカスは鉄パイプを振りかぶり跳躍する。


「もっちろんだよ、レオン。ラストアタックは君のものだ!」


 そして、その背面へと鉄パイプを当てるべく振り出す。


 ──決まった。弱点の炎で大ダメージを与え、その隙にレオンが両目を破壊できる。

 視界を奪ったなら、あとは2人がかりで攻撃を仕掛ければ倒せる。

 これが僕たちのコンビネーションだ。

 ルーカスが勝利を確信した、そのときだった。


 グチャリ、と肉の潰れる音がルーカスの耳に届く。

 何が起きたのか把握する間もなく、ルーカスの左半身は大打撃を受け、その体は突き飛ばされ勢いよく樹木へと叩きつけられる。

 背骨の砕ける音と、激痛。あとほんの少し能力を発動させるのが早ければ、単発型の絶対防御でダメージは防げたかもしれない。

 視界がぐらつく。

 朦朧(もうろう)とした意識の中で、ルーカスは先ほど起きたことをようやく認識する。


 ──『尻尾』だ。あの巨大な尻尾が(むち)のようにしなり、僕の体を破壊した。

 バカな……それならストーンリザードの周りに『安全圏なんて存在しない』じゃないか。


 ズシン、ズシンと、ストーンリザードは足を動かし、後方を振り返る。

 ボイラーのような鼻息がルーカスの恐怖を煽る。目の前に、おぞましい怪物の顔がやって来た。


「レ、レオ……ン……」


 レオンは全速力でルーカスの元へと駆け出す。

 ストーンリザードの口が開かれる。


「レオン……君は……王になる人間……」


 魔物の口から、滝のような唾液が地面へとこぼれ落ちる。


 レオンは叫んだ。


「ルゥカァァァァス────!!」


 バキ、という樹木の折れる音にかき消された。

 ルーカスの上半身が噛みちぎられる音は。


 強靭な顎と、鋭利な牙は、人間の体を噛みちぎることなど造作もない。

 残された下半身の断面から血が(あふ)れ、地面に血溜まりを作る。ビクンビクンと数回の痙攣(けいれん)を経て、今まで『ルーカスだったもの』はその動きを止めた。

 ストーンリザードの喉が膨れ上がり、ごくりと『それ』を飲み込む。

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