王の鉤爪
立ちすくむ冒険者たちの中で、いつの間にかギフトを発動させていたレオンだけが「ふん」と鼻を鳴らす。
「なんだその目は、トカゲ野郎。勘違いするなよ。『狩る』のは俺の方だ」
その口元から巨大な牙を覗かせて、挑発的に笑う。
「ククッ! テメェらは周りの雑魚を狩ってろ。そうすりゃ、あの『デケェだけのトカゲ』は俺が殺してやる」
そして地面を蹴り、トップスピードで主の元に駆ける。
「着いてこい、ルーカス!」
「へへっ、任せてよレオン!」
それと同時に、冒険者たちは我に帰ったように動き出す。ほとんどの冒険者は周りに群がっているストーンリザードの元へと駆け、武器を取る。
その場は総力戦の様相を呈していた。
1体のストーンリザードがナンバーズの元へと突っ込んでくる。
すかさずアインスは短剣を投げつけ、それは魔物の片目に突き刺さる。
「ドライ!」
「……了解」
ドライが弓を放つ。
正確に、もう片方の目を潰す。
怯むストーンリザード。その隙をついてツヴァイが木の枝へと蹴り上がり、すぐさま魔物の背後へと跳び降りる。
「はぁぁああ!!」
そしてその体に剣を叩きつけ、装甲を破壊。
何度も繰り返してきた必勝パターンだ。
2撃目でストーンリザードを切り裂いたツヴァイは、その目からアインスの短剣を抜き取る。
アインスは短剣を受け取ると、口を開く。
「全員、木の上に移動しよう。極力戦闘は避けるんだ。木を登ってこようとする魔物だけを討ち取る」
「ねぇ、アインス。あいつら……大丈夫なのかしら」
「治癒系能力者もいるんだ。そう簡単にはやられないさ」
「……わかったわ」
ツヴァイ、ドライ、フィアの3人が一際大きな木を見つけて登る傍ら、アインスは周囲を一瞥する。
……嘘だ。あの冒険者たちは苦戦を強いられることになる。
ギフトがあれば、まともにやり合えば負けることはないだろう。
しかしストーンリザードの数は徐々に増えていく。主が咆哮をあげて、この場に仲間を呼んでいるのだ。
統率の取れていない冒険者たちは視界の外から『不意打ち』を受けることになる。何人も命を落としていくことになるだろう。
ドライがヘンテコを使用して的確に指示を出せるなら話は別だが、そういうわけにもいかない。
最優先は、ナンバーズが生き延びることだ。
アインスは主へと視線を向ける。
あれほど巨大な体であれば、木の高さを利用した攻撃は通用しない。ツヴァイとドライの勝利の理論は破綻する。
……誰かが倒してくれるならそれに越したことはないが、困難であればすぐに撤退だ。
誰よりも早く、レオンは主の元に辿り着こうとしていた。
その背中を追いながら、ルーカスは思考する。
……うまくいった。
体力を残したままこの『ラスボス戦』に入り、しかも他の冒険者たちは怖気づいて周りの雑魚狩りをしている。
遅れて、リタが能力を発動させるのを確認した。しかし速度ではレオンが圧倒し、ストーンリザードの弱点を突ける僕もついている。
レオンが負けるなんてあり得ない。これでラストアタックは僕たちのものだ。
レオンは地面を蹴り、跳び上がる。
あの巨大な体躯では歯を刺しこむことは難しい。
それなら──
ネコ科の動物は、普段はその爪を引っ込めて隠し持っている。内側に湾曲したそれは、普段は歩行の助けや樹木を登る際に用いるものだが、時には捕食対象に傷をつけるために行使する。
レオンの爪がより大きく、鋭利に研ぎ澄まされる。
「──王の鉤爪ッ!!」
そして、主ストーンリザードの体へと叩きつけた。
鈍い音が鳴り響く。
レオンとルーカスが同時に口端を吊り上げる。
しかし──
主ストーンリザードに突き立てられた爪先は装甲に傷ひとつ付けられず、静止していた。
「なっ!?」
主ストーンリザードが咆哮をあげ、その首を振る。
ただ『振った』だけだ。しかし並の魔物であれば何のことはないその挙動は、軽々とレオンの体を突き飛ばす。
リタのように空中で動くことのできないレオンは体勢を崩したまま地面に叩きつけられ、勢いのままに転がる。
すぐに立ち上がり、主ストーンリザードを睨みつける。
そのこめかみに青筋が浮かび、怒りに口を震わせる。




