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怪獣

 その後、負傷した冒険者たちは『治癒系能力』を持つ冒険者の治療を受け、中には『物体を修繕する能力』を備えた冒険者もいたようで、同じギルドメンバーの武器を修理していく。


「私の能力は、人差し指で触れた箇所を中心に直径10㎝の円の範囲内の傷しか修理できない。くれぐれも気をつけてね」


 そして討伐隊が出動して3時間ほど、日は西に傾き始めている。セリアの森をどこまで深く潜り込んだだろうか、既に何十体ものストーンリザードと相対しており、徐々に冒険者たちの顔に疲労の色が浮かんでいく。

 そんな中、ツヴァイとドライの呑気な声だけが響いている。


「──でね、よく言うじゃない? 『この漫画3巻からめちゃくちゃ面白いから読んで』って。1巻から面白い漫画を薦めなさいよ!」

「……ワガママ」


 リタはその光景を見て、(ひたい)に汗を浮かべながら呟く。


「あ、あのお2人……一体どんな体力してるんですか……?」


 戦闘に参加しないアインスとフィアも、まだ体力には余裕がある。2人は冷静に会話する。


「ただツヴァイとドライが強いだけじゃない。あの2人は必勝パターンを作業のように繰り返すだけでいいから、大して体力を消耗しないんだ」

「討伐が長く続くほどに『勝利の理論』は効いてくるんだね」

「そう。能力のゴリ押しなんて疲労が激しいし、予期せぬアクシデントも伴うからね」


 一方、ルーカスの表情には焦りの色が浮かんでいた。

 討伐が続くにつれて、自分もレオンも体力を奪われていく。魔物を倒すのに時間を要するようになっている。

 今の討伐数は、ギルド単位で比べれば『レーヴェファング』が最も多い。しかし冒険者単位であれば『白銀の翼』のリタだ。

 あのギルドは、リタ以外にはロクなギフト保持者がいないと噂に聞いている。しかしそれでもリタのギフトは圧倒的すぎる。

 討伐数はさほど重要ではない……大事なのは『ラストアタックを決めること』だ。

 体力を温存すべきだろうか……いや、そんなことをあのレオンが許すはずがない。

 レオンは僕の王だ。

 王は、引かない。

 ならば、早く(ぬし)を見つけなければいけない。このまま雑魚に手間取るほどに、リタが有利になってしまう。

 やつ以外にも『運良く』体力を温存しつつストーンリザードを討伐している金髪と水色髪の2人組もいるようだが、所詮はハイエナ、(ぬし)相手にそんな偶然が通用するはずもない。

 早く、早く主を見つけなければ──


 そのときだった。


 白銀の翼のマントの男と、ツヴァイだけが最初に気づく。

 場の空気が変わった。

 異様にヒリついた空気に、遅れて、他の冒険者たちも身構える。

 ドシン、と地響きが鳴る。その振動は冒険者たちの足元にまで及び、体へと伝導する。

 何羽もの小鳥が樹木から飛び立ち、その場から逃げ出す。決して細くないその木は、次の瞬間にはへし折られる。

 ドシン、ドシン──音は一定のリズムで鳴り響く。徐々に大きく。

 冒険者たちは武器を構える。

 ここまでは誰も予想できていなかった。

 恐ろしいのが…………来る。

 アインスの頬を、冷や汗がつたう。


「なるほど……想定していた最悪のパターンを引いたか」


 『怪獣』と呼ばれる生き物がフィクション世界に現れたのは、実は遠い過去の話じゃない。

 科学技術の発展により『化石』から『恐竜』の当時の姿をストップモーション・アニメーションで現代に再生できるようになり、そこから恐竜映画ブームが到来した。

 怪獣とは恐竜ブームの発展系なのだ。

 そのほとんどが巨大生物であり、凶暴であり、そして人類の敵として描かれる。


 冒険者たちは戦慄する。

 『これ』は……まるで怪獣そのものじゃないか。


 ストーンリザードの(ぬし)は、目測で全長10mは超える巨体をくねらせながら姿を現した。

 歩くだけで森林を破壊し、大地をえぐり、ただの呼吸すらボイラーのように音を立てて人間の鼓膜を震わせる。

 思わず膠着(こうちゃく)する冒険者たちの耳に、更に別の音が届く。足音だ。それも1つじゃない。

 ツヴァイとドライが周囲を見回す。


「クッ……いつの間にか囲まれてるわね」

「……能力を使えば気づけたのに」


 フィアが不安げにアインスに視線を向ける。


「ア、アインス……」

「私たちもただ見ているだけとはいかなそうだ。フィア、私の側を離れるな」

「う、うん」

「ドローン映像に映っていたギルドはこいつに殺されたんだろう」


 発見されたばかりの魔物は、実被害や目撃情報だけを基におおよその危険度が設定される。つまりそれは『推定』でしかなく、実際の脅威と一致するとは限らない。

 これほど巨大な魔物が危険度Cであるはずがない。

 討伐隊の誰かが生存して情報を持ち帰るか、あるいは誰も生き残れず『討伐隊が全滅した』という情報を得て初めて、能力開発省が『更に上の危険度』へと設定し直すことになるだろう。

 危険度B……いや、下手をすればAか。

 アインスは冷静に状況を分析し、仲間に告げる。


「予定変更だ。ラストアタックは諦める。私たちは周りのストーンリザードを倒して退路を確保する。他のギルドが(ぬし)を倒せるならそれでよし、倒せないなら今の素材だけ持って逃げる」

「……了解」

「わかったわ。雑魚を倒すのは任せて」


 フィアは問いかける。


「そ、それでいいの?」

「ああ。君も直感で理解しているはずだ。想像してみろ、怪獣映画で『近代兵器』や『超常能力』を使わずに敵を倒すところを見たことがあるか? あれは能力無しでは絶対に倒せない」

「そ、そうだね……」


 デカさとは、強さに直結する。この原則は揺るがない。

 現に、強力なギフト保持者たちでさえ尻込みしているように見える。中には足がすくんで動けない者もいるようだ。

 ギョロリと赤い目が動き、冒険者たちを見下ろす。そして木々の間から何体ものストーンリザードが姿をあらわす。

 ここにいる人間を皆殺しにする──そんな意思のようなものを感じる。

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