非公認ギルド『ナンバーズ』
経緯を聞き終えたツヴァイは険しい顔で少年に問いかける。
「で、あんたはこれからどうするの?」
「ど、どうするって……」
「メソメソ泣いて、それで終わり?」
「だ、だって僕はヘンテコで……何もできないよ」
「……お姉さんの気持ちを踏みにじるのね。呆れたわ。あんたは正真正銘、本物の奴隷よ」
ツヴァイは少年の腕を掴む。
「来なさい。あんたに最後のチャンスをあげる」
そう言って、ツヴァイは路地裏を駆け出す。体力のない少年も腕を引っ張られるがままに、必死に走る。
そうして10分ほどした頃だろうか、ツヴァイは立ち止まる。
大通りからは随分と離れた、薄暗い路。
彼女の視線の先──ゴミ袋や酒瓶が溢れかえったダストボックスの上に誰かが腰がけている。いや、よく見るとその奥にもう1人、路地に佇んでいる小柄な人影もある。
「さっきはよくもやってくれたわね、アインス!」
ツヴァイが『アインス』と呼んだのは、どうやらダストボックスの上にいる黒髪の少女らしい。長い前髪をセンターで分けて、清楚な見た目ではあるが、どこか引き締まらない飄々とした雰囲気を醸しており、左右の太ももには双剣が差してある。
「おかえりツヴァイ。もしかして、その男の子が君の──」
「んなワケないでしょ! あんたのせいであたしは大変な目に遭ったのよ!?」
「ふふっ。そう言わないでよ。空の旅なんてなかなか経験できるものじゃないだろ?」
クスクスと笑うアインス。
2人の会話についていけず狼狽える少年の元に、水色のショートヘアの少女が気配もなく近づいていた。
「……お兄さん、ツヴァイの恋人?」
「わっ! び、びっくりした……えーと、ツヴァイさんとはさっき出会ったばかりで……」
「こら、ドライ! あんたまで!」
『ドライ』と呼ばれた少女に目を向ける。歳は少年よりも少し下、顔つきは幼く、無表情で何を考えているかわからない。
そして背には、弓矢が抱えられている。
アインスもドライも共に左頬に焼き印があり、ヘンテコ保持者だとわかる。
「え、えっと……貴方たちは?」
少年が問いかけると、アインスがダストボックスから飛び降り、彼の前に立つ。
「私たちは非公認ギルド『ナンバーズ』。このサンブルクには、新しい仲間を見つけにきた」
「ひ、非公認?」
「まぁ自分たちで勝手にそう呼んでいるだけだよ。ヘンテコは冒険者にはなれないからね。君はサンブルクの住人?」
「は、はい」
そこまで話したところで、ツヴァイがことの経緯を語り始める。
「──という流れよ」
話を聞き終えたアインスは、顎に手を添えて問いかける。
「で、ツヴァイはその少年をどうして連れてきたんだ?」
「はぁ? 今の流れでわかんないワケ?」
「いや、大方想像はついてるけど」
「決まってるでしょ。あたしたちでお姉さんを助けるのよ」
はぁ、とアインスがため息をつく。
「ツヴァイ、相手は王国最強と囁かれるエーデルブラウだぞ」
「関係ないわよ! 可哀想な人を助けるのがあたしたちナンバーズでしょ?」
「その『可哀想な人』が世界にどれだけいる。目的を見誤るな。仲間を見つけにきただけのこの町でそんなリスクを冒すわけにはいかない」
「前から思ってたけど、アインス、あんたちょっと冷たすぎるんじゃない?」
「熱血系よりは多くの命を救えるよ。冷静に行動しなければ、世界は変えられない」
「今目の前で困ってる人を救えない人間に、いつか世界を変えられるはずないでしょ!」
ドライが「……うるさい」と2人の争いを制する。
そして少年の方を振り返る。
「……まず大事なのは、この人の気持ち。貴方はどうしたいの?」
少年は、恐る恐る言葉を紡ぐ。
「ぼ……僕には皆さんの言ってることが理解できません。さ、さっきからまるで『その気になればエーデルブラウに勝てる』と言ってるみたいじゃないですか」
「理解できてるじゃない。そう言ってるのよ」
「ぼ、僕たちはヘンテコですよ!?」
「能力は使い方次第よ。絶対に勝てない敵なんて存在しない。たとえそれがあたしたちのような弱者であっても」
ツヴァイがそう言い切り、ドライが少年の肩に手を置いて、尋ねる。
「……この際、信じる信じないは関係ない。仮に『勝てる』として、貴方はどうしたいの?」
「ぼ、僕は……」
少年は、震える手を強く握る。
「僕は……姉さんを助けたいです」