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初戦

 固まるフィアをよそに、討伐隊が動き出す。

 ストーンリザードの元へ真っ先にたどり着いた冒険者がその剣を振るう。ガキンと音を立てて、剣は弾かれる。


「チッ」


 しかしノーダメージというわけではなさそうだ。

 ストーンリザードの咆哮(ほうこう)が、大気を振るわせる。

 そして──四肢と体幹を屈曲(くっきょく)させながら、地面を這うように前方の冒険者へと突っ込んだ。

 トカゲと同じ、原始的な歩行運動だ。ただし決定的に違うのは、その巨大な口が広げられており、中には鋭利な牙が並んでいること。


「──ッ!?」


 腕を噛まれる冒険者。痛みに顔を歪めるが、さいわい武器を持っていない方の左腕だ。


「このぉぉぉ!」


 剣を持つ右腕を後ろに引いてから、勢いよくストーンリザードの目に突き刺す。

 魔物が痛みに口を開いたその隙をついて、左腕を引き抜き、バックステップで間合いを取る冒険者。

 噛まれた箇所から血が溢れている。

 ギルドの仲間が叫ぶ。


「下がれ! すぐに治療する!」


 ツヴァイとドライは、そのやり取りを観察しながら思考する。

 あれほど鋭利な牙を持っていながら、人間の細腕も噛み切れない。顎は貧弱だ。おそらく即死させられることはないが、治癒能力を持たないナンバーズでは致命傷にもなり得る。

 攻撃速度は、想定よりも少し速い。しかしモーションはわかりやすく、全身の屈曲を利用した歩行運動の特性上、あの速度で移動できるのは『真正面』だけ。


「動きは大したことないわね。大きさといい、コモドオオトカゲってトカゲにそっくりよ」

「……動画で見たことある。世界一大きいトカゲ」

「ヘモトなんとかって毒がある分、そっちの方が危険なくらいよ。だから厄介なのは攻撃じゃなくて──」

「……あの防御力」

「矢は貫けないわね」


 林のあちこちから、枝の折れる音や草木を踏み締める音が響く。

 そうだ。攻撃よりも防御よりも、何よりも厄介なのは──やつらが『集団行動』を取ること。

 林の影から姿を現したストーンリザードは、目視できるだけで4匹。

 そのうちの1匹に、冒険者の1人が手をかざす。そこから赤色の電気が放出され、次の瞬間にはストーンリザードの4つ足が地面にグッとめり込む。前に進もうとするも、まるで体の上から圧を受けているようにその動きは鈍い。


「ノロマめ!」


 そのまま斧を手に取り、大きく振りかぶる。そしてストーンリザードの額に目がけて振り落とす。

 激しい衝突音と、破裂音。

 石の装甲に亀裂が入り、斧はめり込んでいた。

 ストーンリザードの赤い目がぎょろりと動き、目の前の冒険者を射抜くように睨みつける。


「こ、これでもダメかよ!?」


 5秒経過すると同時に、ストーンリザードは頭を大きく振り上げ、刺さっていた斧は冒険者とともに跳ね飛ばされる。

 他の3匹も同様、討伐隊が相手取っているが手こずっている様子だ。

 その遥か後方、安全地帯でアインスはフィアに話す。


「初手は彼らに任せて、私たちはここで研究だ。ストーンリザードの特性、そして万が一に備えて冒険者たちのギフトについて」

「今、能力を発動させてたよね」

「おそらく重力を操作するような能力だろう。魔物の動きを止めて、その重力に合わせて斧を振り下ろすことで大打撃を与える。石の装甲くらいなら破壊できるようだ」

「なるほど……能力と相性のいい武器を選んでいるんだね」

「そう。冒険者の『恰好』というのは案外良い情報になる。たとえばフィアはあのレオンって男を見たとき、どんな印象を持った?」

「え、えっと……今時『ククッ』なんて笑い方しててキツいと思った」

「いや、そういうことではなく」

「でもアインスの暗黒微笑も結構キツいから、こういうことはツッコむべきじゃないんだと思って黙ってた」

「じゃあ最後まで黙っとけや」


 コホン、とアインスは咳払いして続ける。


「武器を所持していなかっただろ。つまり能力そのものが『攻撃手段』ということだ。これが一番わかりやすい情報」

「そ、そっか。武器を持っていなければ『攻撃できる能力』……」

「ツヴァイの『なんでも収納』のような例外もあるけど、おおむねその通りだ」


 ストーンリザードが冒険者の1人に飛びかかる。口を大きく開き、今まさにその体に噛みつこうとしたそのとき──


「バァカ」


 冒険者の体から赤色の電気が放出されるとともに、周囲の木を伝っていた無数の『ツル』がうねり、ひとりでに動き出す。それはストーンリザードの方に伸びて、そのまま体にぐるぐるに巻きついていく。

 瞬く間に、ストーンリザードの動きを完全に封じてしまった。


「さぁて。ゆっくり片づけるか」


 ツルを操った冒険者がストーンリザードに歩み寄ろうとした、そのとき──

 近づいてきた別の冒険者が、手に持っていた鉄パイプを振る。それはストーンリザードの装甲を(かす)り、チッと短い音が鳴る。

 次の瞬間、赤色の電気とともに巨大な炎がストーンリザードの体を包んだ。

 やがて炎が消えると、魔物はよろめき地面へと倒れる。

 能力で炎を起こしたであろう青年は、悪戯に笑い、口を開く。


「ダメダメ、こいつらはレオンと僕の獲物なんだから! あ、自己紹介してなかったね。僕は『レーヴェファング』副隊長のルーカス。よろしくね、ハイエナども」


 そしてアインスとフィアに視線を向ける。


「うーん。そんな安全地帯で突っ立ってるだけなんて、これぞハイエナのあるべき姿だねっ。そうやって僕たちの活躍を眺めているといいよ!」


 目まぐるしく盤面が変わっていく。

 残りのストーンリザードは3匹。

 アインスがフィアに向けて呟く。


「ツルを操る能力、あるいは植物であればなんでも対象か。紐状のものを操る能力、なんて可能性もあるね」

「レーヴェファングの副隊長……ルーカスの能力は『炎を起こす』かな? 弱点を突いたから簡単に倒せた」

「いや、その前のアクションが重要だ。石の装甲に鉄をぶつけると、細かく散った鉄の破片が摩擦熱で燃焼して火が発生する。その直後に炎があがった」

「あっ……『火花を大きな炎に変える能力』とか?」

「そういうこと。ただの『火を拡大する能力』であればライターでも用意しているはずだから、対象は必ず『火花』である必要がある」

「こうやって眺めていると、情報は無数に落ちてるね。器用に能力を使ってストーンリザードを倒しちゃった……やっぱりあのギルドの副隊長だけあって強いね」

「いや、あんなくだらない勝ち方に意味はない」

「えっ?」

「まぁ、見てなよ」


 フィアは冒険者たちとストーンリザードの攻防へと視線を戻す。

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