人類の敵
「ねぇねぇ、リタさん。リタさんってどんな能力なの?」
「そ、そんな簡単に教えられるはずないでしょう!?」
リタの腕に擦り寄って問いかけるフィア、その後方でアインスは額に手を当ててため息をつく。
ツヴァイは唖然としたまま口を開く。
「あ、あいつ……ド直球すぎない?」
討伐隊が動き出して1時間ほど。
セリアの森は、多種類のツル植物が高木の頂を競い合うように繁茂している。太陽の光を求めて伸びたツルが絡まって、カーテンが森を覆っているようだ。
これらが結果的に森の内への日差しや風を遮り、林内の湿度を保っているのだとわかる。
まだ舗装された小道からも外れていないが、聞こえてくるのは僅かな梢のすれる音や、野鳥の鳴き声、そして討伐隊の話し声だけだ。
フィアの声が一際大きく響く。
「ええっ!? でもさっき『協力していきましょう』って言ってたよね……嘘だったの……?」
「ええと、フィアくんでしたっけ。それとこれとは話が──」
「別じゃないよ? 僕、あの言葉が嬉しかったの。リタさんの能力知りたいな」
「ぐ、ぐぬぬ……」
上目遣いで潤んだ瞳を向けるフィア。
その様子をナンバーズが眺めている。
「おい、結構効いてるぞ」
「あいつあざといのよね」
「……偉い人は言った。可愛いは正義」
リタはフィアの表情に怯みつつ言う。
「と、とにかく! ボクの能力は話せません! どうせ討伐が始まったら見れるんですから、自分で考察してください!」
「ケチ。嘘つき。リタさんなんて嫌い」
「ぐぬぬー!」
プイとそっぽを向くフィアに、リタは頭を抱えて悲鳴をあげる。
討伐隊の先頭を歩く男が振り返り、全員に声をかける。
「さぁ、そろそろ林に入ろう。ここからが本番だ」
それを合図に、討伐隊は小道を外れて林へと足を踏み込む。全員が先ほどまでと違う真剣な表情へと変わっていた。ここから先は、いつストーンリザードに襲われてもおかしくないからだ。
各ギルドごとに固まり、慎重に歩みを進めていく。
フィアがアインスに尋ねる。
「ねぇ、こんなところに入り込んでまで魔物を討伐するのはなんで? 人里にやって来ないなら普通の動物と変わらないんじゃ……」
「まさにその人里にやって来て、町を滅ぼしたという事例が過去に何度かあるんだよ。だから魔物はどこに現れても討伐対象だ。やつらは人間を襲い、やがて人間の能動の場を奪っていく。放置しておけばいつか大変なことになる」
「ど、どの魔物も?」
「そうだ。どの魔物もそういう性質を持つ。たとえ草食性の魔物であっても、人間を殺そうとする」
「だから冒険者って職が必要なんだね……」
「そして冒険者が魔物に対抗するには、ギフトという超常能力が不可欠だった」
そうしてヘンテコ保持者は人権を剥奪されていったのだ。
フィアは右ポケットに入っているスマホをぎゅっと握る。
今回、ヘンテコは使えない。しかし命が脅かされることになれば単発型の絶対防御は不可欠だ。
こわい。この制限下で能力の使用を躊躇えば、命を落とす。
そう脅えるフィアの背中がドンと強く叩かれる。
「──わぁ!?」
「何ビビってんのよ」
ツヴァイだった。
「言ったでしょ? あんたにはあたしがついてる」
「ツヴァイ……」
「あたしはあんたの師匠よ。大船に乗った気でいなさい!」
「うん。ありがとう」
2人のやり取りを見ていたドライが口を開く。
「……なるべく魔物と距離を取って、今回はアインスから教わるといい。わたしたちの闘い方」
「アインス、変なこと教えんじゃないわよ。フィアはあたしの弟子なんだからね」
「はいはい。まったく……こわい番犬がついてしまったな」
「泥棒猫は近づかせないわよ」
「……犬も猫も可愛い。喧嘩しない」
ナンバーズよりも先を歩くギルド、その中の1人が仲間に目配せする。それを合図に、ギルドメンバーが武器を構える。
合図を送った冒険者の両目には、赤色の電気が走っていた。
フィア以外の3人の表情が切り替わる。
「来るぞ。魔物が近い」
「えっ、どうしてわかるの?」
「あの冒険者のギフトよ。目から電気出てたでしょ? 目配せを合図に仲間が武器を構えた」
「……なんらかの方法で敵の位置を探知する能力」
「な、なるほど。でもそれなら他のギルドにも教えてくれたらいいのに」
「レオンって男が言ってた通りだよ。これはラストアタックを取り合う闘い。他のギルドよりも優位に立つには情報を与えない方がいい。主と闘う前に負傷でもしてくれたら、自分たちがラストアタックを取れる可能性が高くなるだろ?」
「そう……なんか悲しくなってくるね。でもみんな凄い……その情報を正しく奪い取った」
「これくらいはね。五感で感じ取れるすべてが情報だ。私たちが強敵に太刀打ちするには、どんな些細な情報も見逃してはいけない」
ツヴァイとドライが早歩きで、アインスとフィアよりも前に進んでいく。
ツヴァイは大剣を構え、ドライは背中から弓を1本抜きとる。
「まずは実験ね。ドライ、張り切っていくわよ!」
「……がんばる」
バキバキと、木の枝の折れる音。
次いで、地面を抉るような足音が響く。
魔物の接近に気づいてなかった冒険者たちが一斉に武器をその手に取ろうとする。
誰よりも早く動いたのはドライだ。
放たれた弓が空を裂き、木々の間を通り抜ける。
しかしガッと鈍い音が鳴り、弓は弾かれる。
その向こう──大きな影の中に2つの赤い目が光る。
現れたその魔物は、体長2mと人間よりも少し大きい。しかし誰もが息を呑んだ。そう、単純なサイズだけでその『デカさ』は測れない。何故なら、人類がこんな巨大な『トカゲ』を目にする機会はそうないからだ。
そして爬虫類としてはあり得ない、そのゴツゴツとした装甲……石で覆われた皮膚が禍々しさを際立てている。
魔物を初めて見たフィアは戦慄する。
そして直感で悟る。
ああ……共存なんてできない。できるはずがない。
アレは平気で人を殺す。
動物愛護の精神など通用しない。
まごうことなき人類の敵だ。




