討伐隊合流
王都・メルヴィンを南西に少し外れた位置に、セリアの森は存在する。その広さ、実に260ヘクタール。
16世紀に王族の狩猟場として整備され、今では風景を楽しめる場所へと変わり、木々が生い茂る都会付近のオアシスという扱いだ。
すぐ横には車が通り抜ける大通りがあり、森の中にも自転車や歩行者が利用できる小道が網目のように伸びている。
しかし深部に近づくほどに喧騒は減り、観光客の姿は少なくなっていく。ひとたび整備された小道を外れれば、一般的な森と変わらない。行方不明者、自死する者なども稀に現れるくらいだ。
「道を逸れなければ観光地、道を逸れたら危険ゾーンって感じだよ。まぁ現代の山や森なんてのは大体そうだけど」
セリアの森へと続く道を歩きながら、アインスが全員に説明する。
「ただし今はストーンリザードが大量発生しているから冒険者以外は通行止め。発見されたのは深部だけど、小道まで踏み込んでこないとも限らないからね。安全確保のため、討伐が完了するまで一般人はセリアの森に入れない」
フィアが素朴な疑問を口にする。
「何をもって討伐完了になるの? こんな広大な森から1匹残らず討伐した、なんて確証は持てないよね」
「主を殺せば、同種族の魔物は気づかないうちにその土地からいなくなる」
「な、なんで!?」
「さぁ? 去っていっただけなのか、消えてなくなったのかもわからない。理解不能だろ? 能力の存在といい、まるでゲームだ。だから自分たちは高次元の存在──神に遊ばれているのだと主張する宗教まで存在する」
「あっ……そういえばエーデルブラウのゲオルクもそんなこと言ってた気がする」
「まぁ、私たちにとってはどうでもいい話だよ。リアルだろうがゲームだろうが、私たちの目的はこの『ヘンテコにとって理不尽な死にゲー』を『正常な難易度』に戻すこと。そして金がなければ即ゲームオーバーだ」
「だから魔物討伐は失敗できない……だよね」
「そういうこと。ほら、入口が見えてきたよ」
アインスの指差す先──セリアの森への入り口は、およそフィアが想像していたものとは違っていた。スマホでなんでも見れる時代とはいえ、サンブルク以外での記憶がない彼にとって森といえば童話の世界が馴染み深い。魔女の住まう場所、光の差し込まない鬱蒼とした場所、日常では出会わない人や現象と遭遇する象徴的な場所といった印象を抱いていたのだ。
そんな異界の入り口としてはふさわしくない、あまりに整備が施された小道と、『セリアの森』と書かれた立て看板。
その周りに数台の車と人だかりができている。ざっと40人ほどはいそうだ。ほとんどの人間が、剣や防具といった装備を身につけている。
「もう討伐隊が集まり始めてるみたいだね。あの先は車では入れないようだ」
「逆にあそこまでは車で来てるんだ?」
「まともに稼いでる冒険者なら基本は車移動だよ。言うまでもないことだけど、私たちは小説や漫画のようなファンタジー世界を生きてるわけじゃない。あくまでも『現代』に『魔物』と『能力』が生まれただけさ」
「本当に不思議な世界だね……」
何人かの冒険者がこちらに気づき、手招きする。ナンバーズの4人はマントのフードをより深くかぶり、討伐隊の元へと接近する。
敵は魔物だけじゃない。ここからは少しの油断が命取りになるのだ。
「なんだお前ら、歩いて来たのか?」
冒険者の1人が声をかけてくる。
「ああ。あいにく無名の貧乏ギルドでね」
アインスはそう応えて、冒険者たちを見回す。
誰も彼もこちらに不審の目を向けている。当然だ、ナンバーズは全員がマントで顔を隠しているのだから。
危険度C級の魔物討伐だけあって、有名なベテランギルドというものはいない。しかし何人かの見知った顔があった。
新進気鋭、エーデルブラウとともに若き才能としてネットに取り上げられている2組の冒険者ギルドだ。
そのうちの1組……冒険者ギルド『白銀の翼』のギルドマスターがこちらに歩み寄ってくる。
「初めまして。ボクは『白銀の翼』ギルドマスターの『リタ』。リタ・リーデルシュタインです。どうぞお見知り置きを」




