情報収集
フィアが目を覚ますと、既に他の3人は起床しているようだった。
アインスはスマホで情報収集、ツヴァイは朝食の準備、ドライは……布団でゴロゴロしている。
ツヴァイがトーストを焼きながら、フィアに声をかける。
「よく眠ってたわね」
「うーん……疲れちゃって」
「そりゃそうよ。あんだけ動いたんだから。もうちょっと休んでていいわよ」
「そんなわけにはいかないよ。僕も情報が欲しい」
フィアは立ち上がり、アインスの隣にちょこんと座る。ピト、と肩を触れさせてスマホを覗きこむ。
「君はいちいち挙動が可愛いな」
「か、可愛い? それよりアインス、『ストーンリザード』ってどんな魔物?」
「ああ。詳しく話そうか──」
ストーンリザード。
セリアの森で発見されたばかりの新種の魔物。だから、そう名づけられたのも最近の話だ。
体長は中型で約2m。四つ足で歩くトカゲのような見た目をしており、しかしその皮膚には岩のように頑強で厚い装甲が張られている。
足はそれほど速くない。攻撃手段はいたってシンプル、『噛みつく』か『丸呑み』の2つだけだ。つまりその四つ足は移動だけのものであり、攻撃は『口』のみで行われる。
「能力開発省のホームページで、ドローンで写した映像が公開されてるよ」
「えっ?」
フィアはスマホの映像を眺めながら疑問を抱く。
そこには冒険者と思しき人物が4人、何もない空間に向かって武器を振るっている様子が映されていた。
「な、何やってるんだろう?」
「そうか、フィアは知らないのか。……魔物には近代兵器が通用しない。弓は効くから『どこまでを近代兵器とするか』については今も研究中だが、厳密には少し違っていて、『科学技術の影響を受けない』が正しい。つまり魔物はカメラに写らない」
「そ、そうなの!?」
「ああ。だから魔物の情報というのは、ほとんどが『冒険者がその目で見て集めた情報』に過ぎないんだ。映像の地面をよく見てごらん」
フィアが映像を注視すると、冒険者たちの視線の先──その地面がわずかだが削れていくことに気づく。
「も、もしかして……」
「そう。そこに魔物がいるんだ。これは冒険者とストーンリザードの交戦中の映像だ」
「こ、これじゃ分析なんてとても……」
「そんなことはない。よく見るんだ。姿は確認できないが、地面の削れる箇所を注視していれば魔物の動きの速度くらいなら分析できる。あまり速くはないね。フィア、他にも映像から得られる情報はあるか?」
試すように、アインスはフィアに視線を向ける。
「えっと……そうだね。冒険者の攻撃は弾かれてるように見える」
手持ちの剣で斬りかかるも、何もない空間にぶつかって跳ね返っているのがわかる。おそらくあそこにストーンリザードがいて、その頑強な装甲に弾かれているのだ。
「その通り。けれど、まったく効いていないというわけではなさそうだ」
「えっ、なんでわかるの?」
「考えてもみろ。この冒険者たちは何度も繰り返し攻撃を仕掛けている。一度攻撃して『まったく手応えがない』なら別の作戦に切り替えるはずだ。もしかすると、装甲にヒビくらいはできているかもしれない」
「なるほど……頑張れば剣でもダメージを与えられる」
攻撃力の高いツヴァイの剣撃なら尚のこと有効打となるだろう。
その情報に、フィアはほっと息をつく。
「続きを見てくれ」
アインスが促す。
映像をしばらく眺めていると、冒険者の1人が何もない空間に向けて手をかざした。そして、そこから赤色の電気が放出された。
ギフトだ。
次の瞬間、手をかざした先で大きな炎が巻き起こった。炎はしばらく燃え上がり、5秒経つと消え去った。
そして4人の冒険者はハイタッチした。
「討伐が完了したな。ギフトの正確な概要はわからないが、なんらかの発動条件を満たして炎攻撃を起こした」
「い、一撃だ……」
「石は熱を溜めやすく、中身は蒸し焼き状態になる。つまり?」
「……弱点は炎」
「その通り。私たちには使えないけどね」
ちなみに、とアインスは続ける。
「この4人は討伐に出た3日前から帰ってきてないらしい。ストーンリザードの体長や見た目といった特徴は、それ以前、初めてこの魔物に出会った冒険者が逃げ帰ってきた際の情報だ」
「じ、じゃあこのギルドは……」
「おそらくこの後死んだ。別のストーンリザードに殺されたんだろう。その光景は映像には収められなかったみたいだけど」
「そんな……弱点の炎を操るギフトを持っているのに……?」
「そう。ギフトの発動条件を満たせなかったか……あるいはまだこの魔物には秘密が隠されている。ここから先は自分たちの目で確かめるしかないね」
「それで複数のギルドが合わさった討伐隊が組まれることになったんだね……」
「そういうこと。今回の魔物討伐、そう簡単にはいかないはずだ」




