王都到着!
それから1時間ほど歩いて、ナンバーズの4人は巨大な門へとたどり着く。門と言っても扉はなく、ただのシンボルである。
かつてメルヴィンの市街地を取り囲むように設けられた税関壁には、いくつもの関税門があったという。やがて税関壁の取り壊しとともに多くの門が姿を消したが、ここだけはメルヴィンのシンボルとして残された。
門の上には4頭馬車に引かれる女神の像が飾られている。
行き交う人々──その多くは観光客であるが、中には武器を身につけた冒険者の姿も散見される。これだけ人が多ければ、いちいち通行人の顔を注視する者などいない。フードを深くかぶるだけでヘンテコ保持者だとは気づかれないのだ。
「こんなにたくさんの人……はじめて見た」
フィアは感嘆の声を漏らす。
数だけに圧倒されたわけじゃない。ヘンテコ保持者だらけの奴隷の町で育った彼にとって、冒険者が行き交うこの街の活気は異様に思えた。
人は下を向いて歩くもの──そう思い込んでいたのだ。
「これがギフト保持者の『当たり前』よ。飢えを耐える必要もなければ、暴力を恐れる必要もない。誰も『今日を生き延びることができるか』なんて考えてないわ。生きることは、あいつらにとっては当たり前のことなのよ」
ツヴァイが苦々しく言うと、ドライがフィアを振り返る。
「……フィアはこれまで、色んな感情を抑制して、思想を強制されて生きてきた。わたしたちとの冒険は、きっと貴方の価値観を壊すことになる」
ドライの言葉に、アインスが続く。
「それでいいんだ。国に与えられた価値観なんて壊してしまえばいい。いろんな世界を垣間見て、そのとき君が感じたことを反芻して君自身の思想を形成していけばいいんだ」
「僕自身の思想……」
「それが私たちの望まないものでもいい。信念が違っても、共通の目的さえあれば利害関係でいられる。でも『利害の一致』で割り切ってしまうのは悲しいから『せっかくなら面白おかしく旅をしよう』というギルドがナンバーズだよ。実際には喧嘩ばかりだけどね、誰かさんのせいで」
「なによ冷淡女」
「うるさい熱血バカ」
睨み合う2人。
フィアは慌てるが、ドライは表情ひとつ変えない。
「ふ、不思議な関係性だね」
「……2人の喧嘩は慣れなきゃダメ」
「な、なんだかドライが一番大人に見えてきたよ」
「……みんな子ども」
アインスとツヴァイの思想は少し違うらしい。
利害の一致……ナンバーズの考え方がそれぞれ独立しているなら、ドライはどういう想いを持っているのだろう?
彼女の表情からはそれが読み取れない。




