空から少女が降ってきた!?
──空から少女が降ってきた。
その光景を表現するのに、少年はそれ以上の言葉を持ち合わせていなかった。
文字通り、降ってきたのだ。
サンブルクで暮らす内気な少年は、そのとき、ボロボロの身体を引きずって路地裏を歩いていたところだった。
すると頭上から甲高い悲鳴が聞こえてきた。
驚いて見上げると、1人の少女が自分を目掛けて降ってくる。
その首に下げられたスマートフォンからは、なにか紫色の電気が発せられていた。
「ぎゃあぁ!?」
悲鳴が重なる。少年は咄嗟に少女を受け止めたが、そこで2人とも違和感に気づく。
「あ、あれ……?」
衝撃がない。
いや、衝撃だけじゃない。
意図せずお姫様抱っこのような形で彼女の身体を抱えることになった両腕に、まったく重量を感じない。
……体重が存在しない?
しかしその事実に、少女自身も驚いている様子だ。
これは……間違いなく能力によるものだ。
少年は少女の恰好に目を向ける。歳は同じくらい、泥のついたシャツにあちこちが破けたデニム生地のズボン。衛生的とは言い難いその服装とのコントラストが、後ろで結んだ長く美しい金髪を目立たせている。
目つきはあまりよくないが、顔のつくりには幼さが残る。そして……左頬には国章の焼き印。
彼女がヘンテコ保持者であることは明らかだ。
少年がそこまで考えたところで──
「……って、うわっ!」
突然、少女の体重が元に戻る。
少年が支えきれず腕を引っ込めてしまったため、少女は地面にお尻をつく。
痛そうに打った箇所を手で押さえながら少年を睨みつける。
「いったぁ! 何すんのよ!」
「い、いや……重かったから」
「なんですって!?」
「ご、ごめんなさい……ちゃんと耐えるべきでした」
「あァ!?」
少女は、少年の胸ぐらを掴む。
「ひっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 殴らないで!」
それに対して、異常なほどに怯える少年。よく見ると体中のあちこちに傷やアザがある。少女は「はぁぁ」と大袈裟にため息をつき、掴んでいた手を離す。
「……べつに殴らないわよ。あんたもヘンテコ保持者ってワケ? 焼き印があるから聞くまでもないけど」
「う、うん……君もそうだよね」
「ツヴァイよ。あたしはツヴァイ」
「え、えっと僕は──」
名乗ろうとした少年の口をツヴァイの手が制する。
「あたしのは偽名。あんたも迂闊に本名を名乗らないで」
「ど、どうして……?」
「はぁぁぁ……本当に何も知らないのね。ギフトの発動条件は様々……中には相手の名前を知ることで発動するものもある。ヘンテコ保持者は迂闊に本名を明かさないのが常識よ」
強力なギフトがひとたび発動すれば、ヘンテコでは太刀打ちできないからだ。
「『ツヴァイ』はコードネームみたいなもの。あたしが所属してるギルドのね」
「……ギルド? ねぇ、さっきのはツヴァイさんのヘンテコ?」
少年が疑問を口にすると、ツヴァイは訝しげな表情を浮かべる。
ツヴァイはそんな能力にまったく身に覚えがなかった。
彼女も、あれは目の前にいる少年のヘンテコだと思い込んでいたのだ。
そんなツヴァイに、少年が矢継ぎ早に質問をする。
「そもそもどうして空から降ってきたの? 僕の上に落ちてきたのは偶然? 一体何してたの?」
「あ〜〜うっさいわね! まとめて質問してきてんじゃないわよ!」
「ご、ごめんなさい……」
「はぁ……ギフトにしろヘンテコにしろ、能力の概要を知られるのは命取りになる。悪いけど、その質問に答えられるほどあんたのことを信用していないわ」
「そっかぁ……ごめんなさい」
「そ、そんな顔すんじゃないわよ」
ところで、とツヴァイは続ける。
「あんた傷だらけじゃない。何かあったの?」
「……」
ツヴァイの質問に、少年は先ほどまでの出来事を思い返す。