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思考掌握

「認めよう。俺の仲間がやられたのは偶然じゃなかった。負けるべくして負けている。このギフトの正体にたどり着いたのはお前らが初めてだ」

「それはどうも」

「そして、能力を知って絶望しないのも予想外だ」

「ふふっ。あいにく絶望とはお友達でね」

「そうか。俺は会ったことがないから、どんなやつか知らない」

「紹介してあげようか?」

「いいや、俺とあいつは巡り合わない運命なのさ」


 バチバチと赤い電気が放たれる。


「ドライ!」

「……了解」


 ドライは即座に弓を放つ。時間が止められてしまう前に……しかし。


「えっ」


 飛んでいった弓が消える。

 そして気づくと、アインスの目の前にはドライが立っていた。

 右手に弓を握って、その先端はアインスの腹を貫通していた。


「かっ……は……」


 流れ落ちた血が、地面を赤く染めている。


「……アインス!」

「だ……大丈夫…………大丈夫だ、ドライ」

「……ア、アインス……わたしは……」

「大丈夫……君の手を使って刺すなんて器用なことはできない。刺したあと、君の手に握らせただけだ……君は何もしていない」


 ブラウの笑い声が響く。


「ハハハッ! 仲間割れかぁ?」


 時間停止能力。

 言い換えれば、あらゆる物体の運動エネルギーを停止する能力だ。

 しかし停止した世界でもこうして人を動かすことや攻撃を仕掛けることができる。

 つまり停止するのは『能力発動時の運動エネルギー』だけ……『停止した時間内に発生した運動エネルギー』に関しては通常どおり動くのだ。だから能力解除後には既に血が地面を濡らしていた。

 ただし、そもそも停止した世界で運動エネルギーを発生させられるのは能力者のブラウだけだ。

 それ以外の人間は、時間停止の世界を認識すらできないのだから。


「ドライ……作戦がある」


 ドライは目に涙を溜めながらも強く頷く。

 奇襲攻撃はもう警戒されてしまっている。そして持続型の制限に関してはわからないが、見たところ体力は消費していないようだ。ブラウは涼しい顔をして立っている。

 それなら、時間停止能力の特性そのものを攻略するしかない。


 一方、ブラウは好奇の目をアインスに向ける。

 ヘンテコ保持者にもここまでやれるやつがいる。

 こいつの知略は役に立ちそうだが、しかしヘンテコを仲間にしたとなればエーデルブラウの名は地に落ちる。

 惜しい。殺すには惜しいが、この脅威が他のギルドの手に渡るくらいなら処理しておくべきだ。

 それに、ただでは殺さない。ゆっくりと痛みつけて絶望を与え、屈服し、命乞いの末に殺さなければいけない。

 殺すことなど簡単だ……心臓をひと突きするだけでいい。しかしそれでは俺の正しさは証明されない。

 ……俺に啖呵(たんか)を切ったこと、後悔させてやる。


 その思考を、アインスは読み切っていた。

 いや、読んだのではない。ブラウの思考をそう指定したのだ。

 性格を探り、彼のプライドを刺激し、言葉巧みに挑発することですぐには殺さない状況を作り上げた。

 二度目の能力発動時点で既に『時間停止能力』の可能性を視野に入れていたアインスは、こうせざるを得なかった。

 思考を掌握(しょうあく)する力においては、アインスは完全にブラウを上回っていた。


「もうボロボロだな。次はそろそろ足を切り落として立てなくしようか? それともあの女のように服を切り捨てようか? さぁ、どうすればお前は泣き叫ぶ」

「ああ……初めてツヴァイの手料理を食べたときは泣き叫んだな。2日間は手足が痺れて動けなくなったんだ」

「前言撤回だ。まだまだ元気そうじゃないか」

「ふふっ……まぁ聞きなよ。それからというものツヴァイは料理を勉強し始めてね、絶対に私を見返したかったそうだ。今ではナンバーズの立派な調理担当だよ」

「……何の話をしている?」


 アインスは笑う。


「彼女は執念深いんだ」


 ブラウの背後で金色の髪が揺れ動く。

 血に濡れたツヴァイは、しかしダメージを感じさせないほど美しい軌道でその大剣を繰り出す。


「馬鹿が。見えていないと思ったか?」


 ブラウは振り返り、細身の剣で受け止める。剣の(みね)にもう片方の手を添えてしっかりと防いだ──はずだった。


「なっ……!?」


 剣速はそれほど速くない。なのに、両手に鈍い衝撃が走る。

 剣は刀と違い、斬ることでなく『叩く』ことに重きを置いている。力の流れをコントロールすることに長けたツヴァイの斬撃は、ブラウの体を強く叩き飛ばす。


「クソっ……!」


 受け身をとりながら、ツヴァイに視線を向ける。

 彼女は即座に地面を蹴り、ブラウとの最短距離を駆ける。脚のしなりをうまく使い、加速的に。

 獲物を狩る獣のように、ただ殺すことに特化したような動きだ。


 このとき、ブラウは初めて恐怖を覚える。

 こいつは危険だ。

 咄嗟にギフトを発動させる。赤色の電気が放たれた、そのとき──


「ツヴァイ、ヘンテコを使え!」


 アインスの叫び声があがる。

 ツヴァイはすぐに反応し、手をかざす。紫の電気が走り、先ほどゲオルクから奪い取った大剣が現れる。


 そして──時が止まった。

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