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最後にものを言うのは……

「あ?」


 ブラウが(いぶか)しげな顔をする。

 その隙にレイスは膝を折って素早くしゃがみこみ、首元に回されていたブラウの腕から抜け出す。

 自分とブラウとを水浸しにすることで体を滑らせて。

 そう、ヘンテコを発動させたのはレイスだった。


 パチン、と高い音が響く。

 レイスの平手がブラウの頬を叩く。


「訂正しなさい! 弱さは罪なんかじゃない。そして──」


 レイスは続ける。


「この子は、私に似て美しい」

「そうか。もう死んでいいぞ」


 ギフトを発動させようとしたとき、ブラウは何かに気づき、咄嗟に後ろに跳ぶ。

 さきほどまでブラウの顔があったその場所をドライの弓が通過する。


「チッ。危ねぇな」

「フィア! 今のうちにレイスさんを!」


 アインスの叫び声に反応して、フィアが走る。レイスの腕を掴んで、ドライの元へと駆け出す。


「ブラウ! 君の相手はこっちだろ。どうした? 私はまだ全然負ける気がしていないよ」

「気の強い女ばかりだな。まったく……」


 赤い電気が弾けて、消える。

 次の瞬間、アインスの体中から血が噴き出す。


「……うぁぁああ!」


 思わず、悲鳴をあげて倒れる。

 傷はすべて浅い。だが10箇所以上を同時に切られ、全身に激痛が走る。

 地面に転がったまま、自分を抱きしめるように体を丸めて、痛みに耐えるアインス。


「ハハッ! 少しは可愛くなったな」

「……ふふっ。ならもっと化粧してほしいな」

「まだ減らず口を叩けるか」


 アインスは話しながら、前方の地面を確認する。

 目を凝らすと、土が少しだけ変色していることがわかる。


「……ビンゴだ」


 前方だけじゃない。ブラウの立っている位置からここまで、うっすらと土の色は濃くなっている。


 アインスは思考する。

 今、レイスのヘンテコによりブラウの体は濡れている。濡れた体で動けば、当然水は地面へと落ちる。

 この濡れた土は彼が動いた跡なのだ。

 やはりテレポートなんかじゃない……それどころか高速移動ですらない。

 ブラウは『普通にゆっくり歩いてここまで来て、攻撃を仕掛けた』ということになる。

 そしてそれを誰も認識できない。


 考えられるギフトは、もう1つしかない。


「……」


 アインスは迷う。

 これを仲間に伝えるべきか?

 こんな恐ろしい能力を話してしまえば、恐怖を与えてしまうかもしれない。恐怖に屈した者は、もう闘えないからだ。


 レイスを救出したフィアとドライの方に視線を向ける。

 ドライは自分の羽織(はお)っていた上着をレイスに渡して、その体に着せようとする。

 フィアもブラウに背中を向けて、自分の小さな体でレイスの露出した肌を隠す。

 その光景は、見方を変えればあまりに無防備すぎるともいえる。


「ハハッ! 何をしてる。お前ら、自分の命よりもその女の貞操(ていそう)の方が大事なのか?」


 笑うブラウに、ドライが返す。


「……大事。時に命より大切なもの……それは尊厳。彼女が誰よりも美しく生きようとしてることは伝わった。わたしたちはそれに心を打たれたから彼女の尊厳を守る……ただそれだけ」


 ブラウは吐き捨てる。


「くだらない」


 いや、くだらなくなんてない。

 たとえ自分がその場にいたとしても、きっと同じことをしていたはずだ。


 アインスは微笑む。


 ……大丈夫。私の仲間にそんな臆病者はいない。

 思えば、私とブラウは対極だ。

 私は『仲間が弱くてもいい』なんて思ったことは一度もない。

 強く生きてほしい。

 たとえ力がなくても、精神だけはどうか強くあってほしい。

 この残酷な世界に負けないように──



「みんな、聞け!」



 アインスは叫ぶ。

 全員の視線が彼女に向けられる。



「ブラウのギフトは──」



 確信を持って、言う。



「──『時を止める能力』だ」



 最初の能力発動時、ブラウの体は赤い電気を発してただ消えただけ。しかし離れた場所にいるツヴァイが攻撃を受けた。


 二度目の能力発動時は、ブラウの体が移動した。まるでテレポートのように。しかし気づいたときにはレイスの服が切り刻まれていた。


 三度目は、レイスとともに移動した。


 これらすべてを成し得るには、赤い電気を発して消えるまでに『ブラウにだけ与えられた時間』が存在する以外には考えられない。

 ブラウ以外には認識すらできない時間。

 ブラウ以外のすべての時間が奪われる世界。

 すなわち──時間停止の能力。


 アインスから能力を告げられたドライとフィアは一瞬身を固めるが、すぐに気を引き締めなおす。


「……アインス、勝つ方法はある?」


 アインスは答える。


「ある」


 絶対に勝てない能力なんて存在しない。

 完全無欠に思える能力にも穴はある。


 例えば、持続型の制限。

 例えば、『時を止める』ことの定義。


 そして何より……すべての能力者の弱点は『奇襲』だ。そもそも能力を発動させなければ攻撃は仕掛けられる。

 レイスの平手を受けたことも、ドライの弓をかわしたことも、それを証明している。


 ……勝つ。

 最後は、勝つ。

 最後にものを言うのは頭脳だ。

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