弱さという罪
最初に動いたのはフィアだ。
「姉さんを……離せ……」
蹴られたお腹を押さえて、ゆっくりと立ち上がる。
「この女の弟か? 全然似てないな」
「ど、どうしてこんなことをするんだ?」
「力があるから。欲しいものを手に入れて好きなままにできる力が」
「……違う! 力があるからって、どうしてこんなことができるんだ! 人をイジめて、人が傷つく姿を見て、心は痛まないの!?」
ブラウは目を細めて、フィアを見る。
ゲオルクやカールの戦闘を眺めていて、他のやつらの能力の正体は割れた。
しかし、こいつ……このガキの能力だけは最後までわからなかった。
ヘンテコは間違いなく発動させていたはずだが、何が起きたのかわからなかった。ただ単発型であるという情報しか得られなかったのだ。
……意図的に隠されている?
だが、恐れることはない。どこまでいってもヘンテコは所詮ヘンテコなのだから。
それにこいつは、他の3人と違って『闘う者』の目をしていない。
「俺の仲間や家族が同じ目に遭わされたら心を痛めるだろうな。助けた後、その加害者が生まれてきたことを後悔するくらい苦しめて殺すだろう」
「ど、どうしてその気持ちを僕たちに向けられないの……?」
「コスパが悪いからだ。人間は平等じゃない。不幸になるやつら全員に心を痛めていたら保たないだろ」
「それなら放っておいてくれたらいいじゃないかっ! どうして近づいてきて攻撃するんだ!」
「なぁおい。俺もお前に質問があるんだが、どうして今すぐにでも姉さんを取り返さないんだ? どうしてまだ救出できてないんだ? 俺という加害者が何故まだ生きている? 俺がお前の立場なら、そうはならない。俺は仲間だけなら助けてやれるが、お前は仲間であろうとそうでなかろうと助けられない。そんなやつが偉そうに俺に説教か?」
「っ……」
「いいかガキ、覚えとけ。『弱さ』は罪だ」
ブラウは吐き捨てる。
「お前には何も変えられない」
フィアの目から次第に涙がこぼれる。
……何も言い返せなかった。
何かを言い返す資格が、自分にはないと思ってしまった。
次の瞬間、紫色の光が2人の目に刺さる。




