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エーデルブラウ襲撃作戦


……


……



「フィア、ギフト保持者を倒すのにもっとも現実的で効率の良い方法はなんだと思う?」


 昨夜──日が沈み、街灯のない暗がりの路地でアインスは問いかけた。


「わ、わかりません」

「簡単なことだよ。ギフトを発動させなければいい。ギフトを使う前に倒してしまう単純な『奇襲』こそがあいつらの弱点だ」


 ギフト保持者はあくまでも『能力者』であり『超人』ではない。能力が使えなければ、ヘンテコとなんら違いはないのだ。



……


……



 アインスは真っ直ぐにフィアの姉──レイスの元へと飛びつく。

 ゲオルクが真っ先に反応して腕を伸ばそうとするも、まだ武器である大剣を(さや)に収めたままの彼は、アインスの持つ双剣を見て、その動きを止める。

 良い判断といえる。そのまま手を伸ばしていれば、アインスは彼の腕を容赦なく斬りつけていたからだ。

 無事にレイスの身体を抱え、その勢いのまま後方から馬車を飛び降りる。


「あ、貴方は──?」


 戸惑うレイスに、アインスは叫ぶ。


「自分の足で走って! もう時間がない!」


 言われるがままに、馬車に背を向けてレイスは走る。


「逃がすかよ!」


 カールが振り返り、怒号をあげる。

 2秒、1秒──

 アインスは心の中で時間を数える。



……


……



「──5秒。勝負は5秒だ。この間に私がレイスさんを救出する」

「ど、どうして5秒なんですか?」


 アインスに代わり、ツヴァイが口を開いた。


「あたしのヘンテコよ。『物を1つだけ収納できる能力』……当然、収納した物を手元に出すこともできる。ただし、それを完全に出すには『5秒』の時間がかかるの。単発型の発動時間は5秒間だから、この時間が過ぎるまではその物質を動かせないというデメリットがある。5秒間は『出現させた空間に貼りつけられた状態』になってしまうのよ」

「な、なるほど」

「不便でしょ? でも今回はそのデメリットを利用する。あたしが崖の上から手を伸ばして、あらかじめ収納しておいた『国王像』を出現させる。ちょうどエーデルブラウの馬車の真上に現れるようにね」

「でも5秒間は空間に貼りつけられるなら、宙に浮いた状態で静止するってことですか?」

「その通りよ。その5秒間でレイスさんを救出できれば、後は──」



……


……



 ──0秒。

 能力が解除されると同時に、国王像は重力に従い、吸い込まれるように地面へと落ちていく。

 真っ直ぐ、エーデルブラウの乗っている馬車へと。

 アインスたちの背後から激しい衝突音と、岩の砕ける音、そして馬の悲鳴があがる。

 ヘンテコ『なんでも収納』と重力を利用した落石攻撃。単純なアイディアだが、環境さえ整えれば強力な奇襲攻撃だ。

 アインスは振り返り、バラバラに砕けた国王像の山を注視する。


「……1人でも倒せたら上々」


 次の瞬間、岩の隙間から赤色の電気が溢れだし、石像の破片が吹き飛ぶ。

 そしてそこから2人の男が飛び出してくる。

 ブラウとゲオルクだ。


「あれ〜? まさか2人も倒せちゃった?」


 アインスは大袈裟におどけて、2人の視線をこちらに集める。


「おいおい、ハンナとカールが伸びちまったぞ。こりゃ何のマネだ、女」

「不意打ちとは卑怯なマネを」


 2人は武器を取る。

 ブラウは細身の片手剣を、ゲオルクは大剣を。


「ふふっ。やめなよ、相手はか弱いヘンテコだよ」


 そう言って、アインスも双剣を構える。

 レイスを救出することはできたが、逃げるわけにはいかない。

 王国最強とまで(うた)われる冒険者ギルドがヘンテコ相手にいいようにされた。そんな事実を、彼らが許すはずがない。執念深く、どこまでも追ってくるだろう。

 だから、この襲撃作戦はエーデルブラウを殲滅(せんめつ)するまで終わらない。

 2人……それもヒーラーであるハンナを倒せたのは幸先がいい。

 どれだけ強いギフトを持っていても、まだ駆け出し冒険者。本来魔物を相手取らなければいけない彼らに、対人戦の心得はそうないはずだ。

 それに──

 アインスの視線の先、ブラウとゲオルクの後方で何かが動く。

 次の瞬間、石像の破片に隠れていた3人が飛び出す。

 フィアは明後日の方向に走り翻弄(ほんろう)

 ツヴァイは剣でゲオルクへと斬りかかる。

 ドライはブラウに向けて弓を放つ。


 二段構えの奇襲攻撃。


 まずは崖の上に3人が待機し、ツヴァイが『なんでも収納』で国王像を出現させた。

 その静止した国王像の上に崖から飛び乗ることで、真下にいるエーデルブラウからは完全な死角となる。

 つまり3人は国王像とともに落下してきていたのだ。

 あとは砕けた岩陰に身を潜めることで、簡単にブラウとゲオルクの背後を取ることができる。

 ここまでがナンバーズの用意した奇襲攻撃だった。

 しかし──

 鈍い金属音が響く。ゲオルクの剣がツヴァイの攻撃を受け止める。

 ブラウも軽々と矢をかわす。


「ほう、剣士か。それもオレと同じ大剣使いとは面白い。この金髪の少女はオレが相手しよう」

「ツヴァイよ。あたしはツヴァイ」

「そうか、ツヴァイ。オレはゲオルク。ここからは正々堂々、剣で勝負だ」

「望むところ!」


 その細腕で大剣を振るい、ツヴァイはゲオルクの剣を弾く。


「おそろしい筋力だな」

「あたしはヘンテコだけど、剣の腕ならA級冒険者にも負けないわよ」

「楽しみだ」


 ツヴァイ。大剣使い。純粋な戦闘能力であれば、ナンバーズ最強を誇る。

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