第九話「選抜メンバー」
「バカになるには、常に全力でいなければいけない」ー広川大輝(16)ー
運動会が二週間後に迫り、各競技の代表を決めなくてはいけない。
今日のLHRではその話し合いを行う。
「まずは競技種目の確認だ。50m走・借り物競走・騎馬戦・棒倒し。これら+クラス指定競技の計5競技を行う」
古川が聞いてきた。
「クラス指定競技は決まったんだよね?何になったの?」
「えーっと、2学年のクラス指定競技は、私たちが提案した『クラス対抗リレー』になりました」
「よかったぁ、変なものにならなくて。これなら私たちでも勝てるかもね」
教室内で安堵の声が広がる。
噂で他クラスから「ハーフマラソン」や「空手」という案が出ていると聞いていたからな。
「よっしゃ!!俺たちの競技になった以上、絶対に勝ちにいくぞぉぉ!!」
「おおおおおうううう!!!!!!」
広川の一言によってクラスが活気ついた。
「それじゃ、勝つ為に色々作戦を決めていこう。まずは50m走だ。これは2組の足の速い順でいいだろう。騎馬戦はフィジカルや体格差を重点に考えて、僕たち三人で考えてみた。今から渡すプリントを見て欲しい」
僕はみんなに配り、説明を続けた。
「騎馬戦は男女各代表クラス1チームずつだ。男子はガタイの良い剣崎を軸に、広川・田野畑が馬になり、頭の切れる人間を司令塔に置きたい」
「それなら白沢じゃねー?学年1の秀才の」
「・・・・白沢幸志か。白沢、頼んでもいいか?」
「ふん、いいだろう。俺が一役買ってやる」
白沢は自慢のメガネをクイっとあげた。
「男子は決まりましたね。女子は私が一応考えてみました・・・。古川さん、鷲尾さん、田子さんにお願いしたいです・・・・」
千歳の提案に食いついた古川。
「私はいいけど・・・鷲尾さんと田子さんは大丈夫なの?」
見て分かる不安そうな顔を浮かべた。
「わたしたち、役に立てるのかな・・・・・ね、田子さん」
「え?!あ、うん!!頑張るよぉ!!!」
鷲尾菜々子の一言にびっくりし、勢いよく立ち上がった田子忍。
しかし勢い付いて椅子を倒してしまった。
「・・・・本当に大丈夫なのかな」
ぼそっと古川がつぶやいた。
「えっと、・・・・・・女子の司令塔は矢田さんに任せたいです」
「私?」
全員の目線が彼女に集まった。
これは作戦会議の事だ。
「・・・で、棒倒しは男子はこのメンバーで攻めよう。次は騎馬戦についてだが、これは代表戦になる。メンバーを選定しよう」
「あの・・・遠出君。騎馬戦なんだけど、女子は矢田さんを出したい」
「矢田か・・・。どうしてそう思った千歳」
「矢田さん。クラスにうまく馴染めてないと思うの・・・・それに矢田さん意外と頭がキレそうだし・・・・」
千歳は、彼女を2組という名のコミニュティの輪に入れてあげたいと考えたのだろう。
「俺はやめた方がいいと思うよ・・・・彼女じゃ他生徒と連携が取れないだろ?」
近元は否定的だった。もしこれがクラス内での話し合いなら誰もが彼と同じ意見だ。
だが俺は千歳と同意見だ。矢田には前世の分も含め、2周目の青春を思いっきり満喫して欲しい。
「古川文香を入れよう。彼女はクラスの中ではある程度ではあるが、矢田の理解者だ。他馬には、中和性として矢田に似る雰囲気を持つ鷲尾と、活気をつける為元気が取り柄の田子を加えよう。うまく循環する筈だ」
「矢田さんと仲のいい遠出君が言うのならいいのかも・・・・」
納得する千歳。その逆に、頭を抱える近元。
「いいのか?メンバーの基礎能力を考えると勝ち筋が見えないぞ?」
「もし負けたのなら、その時は男子が勝てばいいだけだ」
この競技ばかりは僕は負けてもいいと考えている。
矢田とクラスの仲を深められるいい機会だ。
あわよくば古川とも親しくなってもらいたい。
矢田には、クラスの輪に入ってもらわなければこっちも困る。情報収集には必要なのだ。
(それに面白くなりそうだしな・・・・・)
それから、クラス内では着々と競技メンバーが決まっていった。
「・・・・・・棒倒しはこのメンバーで戦う。
最後にクラス対抗リレーだが、これは全員参加だ。疾走順はこれからみんなで話し合って決めるんだが、僕たちから一つだけお願いがある・・・・近元」
近元が前に出た。
「疾走順、ラスト二番目は遠出君、アンカーを俺にやらせてくれ!!」
クラス内でざわめきが起こった。
予想できていた。このざわめきは僕に向けられたものだ。
その中で一人、冷静な魔女がいた。
「いいんじゃないかしら。彼は元陸上部だし」
「えぇぇぇぇ奏多って元陸だったのかよ?!!」
魔女め。変なデタラメを言いやがって。
きっと矢田は自分を騎馬戦に推薦した仕返しのつもりなのだ。
でもまぁ感謝するよ。流れを変えてくれのだから。
「ありがとう矢田さん」
「ん−ん。どういたしまして」
作り笑顔でこっちに手を振った矢田。
「頑張るさ、僕たちは絶対優勝する。エアコンを使うために」
「よし!!!!奏多と近元だけに、おいしいところはやらせんぞ!!」
クラスは優勝に向けて気合いを入れた。
「・・・・・・これでいいんだな?」
「あぁ。上出来だ」
屋上にいた僕に、近元が会いに来た。
「『僕と近元がクラス対抗競技で目立った上、運動会で優勝する事』、『運動会が終わるまでは僕の指示を聞く事』・・・・。前言った通り、この二つの条件が終わったら契約完了だ」
「約束は守れよ??写真は消して・・・・」
「もちろんだ」
「・・・・本当だろうなぁ」
信じてない様子だ。
「案外疑い深いな。単純ばかだと思っていたのだが」
「何言ってんだお前。俺は意外と真面目に勉強してんだぞ?テストでも上位をキープしてるし・・・・」
「俺は『前世』のお前の事を言ったんだ」
「なっ?・・・なんだ・・やんのかこらぁ」
からかいがいのある奴だ。
どうやら『海原』は話せば分かるタイプらしい。
「おいおもちゃ。一つ聞きたい」
「なんだ」
「お前は本当に『津神凛斗』なのか?」
「・・・・・・・・・・さあな」
運動会は来週に迫っていた。