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第六話「目覚めた獣」

「人を蹂躙するには、根本的な所から始めよう」ー白沢幸士(17)


 もう少しで0時になる。

 僕はシャワーを浴び、お気に入りのコーヒーを淹れて机に置いた。

 矢田からの電話を待っている間に、今日の集会の連絡事項をまとめた。


 日を超えた瞬間、電話が鳴った。


 「お疲れ様。色々忙しい中申し訳ないわね」

 「大丈夫だ。それより新しい情報はあるのか?」


 彼女は少し間を置いた後、大きく深呼吸をした。


 

 「遠出君、実はーーーーーー」



 時間は少し遡る。僕達が集会を終えた後の話だ。

 各自解散をし、僕は千歳と帰路についていた。

 千歳は近元に一緒に帰らないかと提案しようといた時には、近元の姿がなかった。


 時を同じく昨日の放課後、矢田は学年主任との面談が長引いたらしく、話が終わったのが18時だと語った。

 時間帯として、運動部が続々と練習を切り上げている時間だ。

 部活に属してない矢田は、教室にバッグを取りに行った。


 教室に一人の矢田。扉が開いた音が聞こえた。


 

 「やぁ、矢田都乃果さん。まだ残ってたんだ」

 

 「・・・誰かと思えばクラスリーダーさんじゃない」


 「やめてくれ。ザラにもない事を」


 近元学だ。彼は矢田に近づいた。


 「聞きたいことがあるんだ。君に」

 「何?」

 「不登校だった君はなんで学校に来るようになったんだ?」


 「・・・・なんでって、学生が学校に来るなんて理由は一つじゃない」

 「そう・・・・その態度だよ。俺が気になるのはその強気な態度」


 近元の形相が変わった。まるで般若の面だ。


 「一年前はそんな性格じゃなかった。雰囲気からして変わりすぎだ。垢が抜けるっていうレベルじゃない」


 (近元学・・・まさかこの男・・・)

 直感的に矢田は危機感を感じ取った。


 「虐められ続けてたらよかったものを・・・・」


 「近元君、君さっきから変よ?」


 近元は矢田に急接近し、彼女の両手を壁に押し付けた。


 「変?!変なのはお前だァ!!!!舐めやがってッ!!!!」

 

 力が強い。矢田は女の子だ。男の力には耐えられない。


 「色々思い出したんだ・・・・夢を見ている感覚から、一気に現実に引き込まれた感じさ・・・俺は周りの目を気にするようなちっぽけな男じゃないって事をよ・・・ 」



 『思い出した』。


 彼は今はっきりと口にした。

 この男、前世の記憶が戻ったのか。


 「あ?なんだ矢田都乃果。その目は?。・・・俺はなぁ、そんな目線を突きつけくる女を片っ端から分からせてやってたんだ」


 そんな事をする人間を一人知っている。なぜなら・・・・・・



 「昔、今のお前みたいな女を輪姦したんだ。あの女は最高だったなァァ・・・・やめてやめてって、泣きまくってたのに濡らしまくっててよぉ・・・・・」


 思い出したくもない記憶。野獣が吠えるかの如く語るその姿はとても気持ち悪い。


 「・・・あなた本当最低ね」


 「昔の話だ・・・時効だよな??」


 近元は掴んでいて腕を離した。

 何かを察したようだった。


 「・・・ん?・・昔の話?・・・そうかお前ももしかして『曰くつき』なのか??」

 

 この男にバレるのはまずい。

 

 「矢田都乃果・・・君、ひよっとして『前世の記憶』が蘇ってるよね?」


 人が変わったように見える。いつもの近元に戻った。


 「・・・・その根拠は」


 「君自身の心境の変化だ。今、俺自身が感じていた『違和感』の正体がわかった。」


 近元学。やはり重要人物だ。このままにしておくのは危険だ。


 「となると、最近裏でよく会っている遠出奏多。・・・・奴も何か隠しているな?

 さっき会った時に彼から感じた『違和感』は・・・」

 

 (遠出君。ごめんなさい。あなたの事バレてしまった。)


 「そうか。そうか!そうかァァァ!!!!

 いるんだな?『アイツ』もいるんだなァ!?待って居ろよ!俺のおもちゃ!!!!」

 

 笑いながら近元は帰って行った。

 一気に緊張が抜け、矢田はその場に座り込んだ。





 「ごめんなさい遠出君。私のミスよ謝るわ」

 「今回は仕方がなかった。近元はサッカー部だ。一部の部員は昼休みを練習の時間を当てているらしい。もしかしたらその時に俺たちを見ていたんだろう。」


 「・・そうなのね」

 「あぁ。遅かれ早かれバレていたんだ。これからは校内での立ち会いはやめよう」


 僕達の情報交換は、この時間だけにする事に決めた。  


 「話してくれてありがとうな矢田」

 「私はいいわ、問題はあなたよ」

 「近元学が『海原力』か。元猿山の大将が、熱血努力マンに生まれ変わるとはおかしな話だな」

 ふと笑った僕に対し、矢田がツッコミを入れた。


 「笑ってる場合?彼はあなたを狙ってくるわーーー」


 僕は少し冷めたコーヒーを一口飲んだ。


 「そうだな。奴は俺を『津神凛斗』だと完全に思い込んでいる」


 「策はあるの?」


 「無論だ。あいつは今後俺だけを狙ってくる筈だ。つまり、今あいつは、俺に『しか』手を出さないと読める。

 矢田の話から聞くに『近元学』と『海原力』の性格は真逆だ。もし近元がちょっとした事で、凶暴な『海原力』が出てしまい、その状況を誰かに見られてしまったら???・・・・」


 「噂が広まって彼の居場所がなくなる・・・・」


 「正解だ。その凶悪性が原因で今までの自分への人望が全て消えるだろう。その事から奴がアクションを起こす瞬間はかなり絞り込める。誰も見ていない『俺と二人きりの時』だ。」


 「私は大丈夫なのかしら?」

 「狙われる心配はないぞ、矢田。君は奴の正体をもう知っているからな。最も、近元が自分でバラしたようなもんだが・・・。下手に手を出せないだろう」


 こちら側も一手がないわけではない。

 『海原』が僕を狙うなら、逆に利用させてもらう。

 奴は貴重な『津神凛斗』の情報を持っている。

 僕の手札を増やすためにもまずはーーーーーーーーーー


 「協力者が必要だな」


 僕はとある人物に連絡を取った。

 

 「さてと・・・。運動会も近いんだ。早めに終わらせようか」

 

 


 


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