第四話「3人目の転生者」
「憎悪を向けられた時、人は偽善ではいられなくなる」ー卒業生・海原力(17)
犯人がこの教室にいる可能性ー
その存在を忘れてはいけない。そいつは20年前に大勢の命を奪った人間だ。
仮に僕らと同じく転生し、僕らの存在を知ったとしたら、何を仕掛けてくるかわからない。
『普通』の犯人なら、過去を知る者を排除しなけらばと考えつくだろうー
「ねぇ、遠出君。私たちが生まれ変わった理由が、過去の因縁にケリをつけることだとしたら、あなたはどう思う?」
「言いたいことは分かってる。俺は気が進まんぞ。」
大体察しがつく。
「私はそれでも今、こうして君と巡り会ったのも運命だと思ってるわ。私たちは犯人を見つけ、奴と同じ立場の転生者が裁く必要がある。」
「一体何の為に」
「この2周目の青春を素晴らしいものにするために。」
前世なんて全て忘れて楽しんだ方が良いと思うのだが、きっとそれだと彼女は有意義に過ごせないと思ったのだろう。
矢田は、2周目の人生に生きる使命を見つけたいのだ。
『三ヶ島』を合わせて2度、死を意識した人間だ。
(勇気あるじゃないか・・・)
「仕方ない。乗り掛かった船だ。協力しよう。」
彼女は優しく微笑んだ。
「ありがとう。遠出君」
素直に笑った魔女は、初めて僕に心を開いた気がする。
「約束事を決めましょう。」
彼女の提案は次の通りだ。
・引き続き、僕らの関係性を悟られないよう、幼馴染設定を続行する。
・情報伝達は日に2回。昼休み開始30分後に校庭水飲み場での立ち会いと深夜0時過ぎ通話で行う事。
「まずはこの二つから始めましょう。現段階で情報が頓挫されてる中、手当たり次第探るしかないわ」
「最善の準備だな。事件に対する情報が淘汰されてる状況で、ヘタな手は打てない。情報手段を絞る案は賛成だ」
「決まりね、クラスメイトに尋ねる時は、お互い注意しましょう。明日から実行でいいかしら」
「あぁ、宜しく頼む」
僕らは、その場から離れた。
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今日も僕は特等席からクラスを眺める。
変わらない景色のはずが少し違って見える。
相変わらず矢田は登校しても尚教室の端で読書している。
掛けている眼鏡が異質を放っている。
(おいおい、完全に『矢田都乃果』モードだな・・・)
何人かが話しかけに行ってるが無視しされている。
可哀想に。頼むからこれからもめげずに声を掛けてやってくれ。
「つーんつーん」
自分の毛先を摘んで、僕の肩に当てて遊んでいる少女がひとり。
「何してんだ古川」
「やーっぱずーっと見てるなーと思ってさ。矢田さんの事」
一人で休み時間を過ごしている僕に話しかけてきた古川。
きっと広川が休みでつるむ相手がいないのだろう。
「いや、そういえば矢田って同性の友達いるのかなって」
「やっさしーーー!!流石幼馴染ぃーーー!!」
古川はへらへらしながら何度も背中を叩いてきた。
(意外と痛いぞ・・・・)
彼女はニヤニヤしつつ、僕の前の席に座り、顔を近づけてきた。
「うちらは友達ー?それとも何か特別な関係なのかなぁー?」
「おちょくるのはよせよ」
「うっわぁ!ノリギザわるじゃん!!」
古川文香。『錦戸海夢』の転生者の疑いがある人物。
見た目とは裏腹に随所にギャル口調になっている点が見受けられる。もちろん彼女は無意識。
本人が勘づく前に、何か決定打が欲しい。
そして『錦戸海夢』を自分の手元に置いておきたい。
「そうだな。それなら僕の言う事を一つ聞いてくれたら、マブ友進呈してやるよ」
「ふ〜ん、なあぁにぃぃい〜?」
前かがみになり、自慢であろう胸元を僕にちらつかせなが言ってきた。
(僕はちっぱい派だ・・・・)
目線に注意しながら言った。
「矢田と友達になってやってくれないか?」
古川は胸元をしまい、体を後ろに倒した。
「ごめんね。ちっとそれはできないかなぁ」
訳がありそうだ。聞くのはやめておこう。
「そうか、分かった」
「あ、いやいざこざとか、そーゆ何かじゃないからね?・・・ただ・・・なんか・・受け付けないんだよねぇ、うちの中で矢田さんを」
きっと彼女の中の『錦戸海夢』が拒否しているのだ。
前世で『三ヶ島咲』と接点があったのかもしれない。
「なるほどな。気にするなよ」
古川は立ち上がり去ろうとした。
「ありがとう遠出君。でも残念だよ、友達になれなくてー」
そう言って彼女は少し寂しい顔をして教室から出ていった。
昼休みになり、売店で焼きそばパンを買って校庭に走った。
水飲み場にはもう矢田が立っていた。
「遅かったわね。ご飯もゆっくり食べる時間なかったの?」
手に持った焼きそばパンが目に入ったのか。
「こう見えて俺は学級委員だ。運動会が近いだろ?その資料をクラスに配布する為に藤原先生の所に行ってた」
「藤原先生って保健室の先生じゃない」
「新米教師だからって、実行委員を押し付けられたらしい」
「同情するわ、可哀想に」
「まー仕方ないよな。気持ち分かる」
僕は深くうなづいた。
「何か情報は掴めた?」
「古川文香と会話をした。有益になりそうな情報はなかったが、一つ興味深い事があった」
「何?」
「古川に『矢田と友達になってくれないか』と頼んでみたら断られてなー」
「・・・・」
「・・・あなたそれ、無自覚?遠回しに人を傷つけてるの分かってんの?」
(何故矢田むすっとしているんだ???)
「すっぽけた顔して、本当に理解してなさそうね。もういいわ・・・」
最近僕はデリカシーが欠けてるかもしれない。気をつけよう。
「んで、それがどうかしたのかしら?」
「断った理由として、特に深い意味はないようだが、『自分の中の何かが矢田を拒絶している』様子だった。・・・・
きっと『錦戸』が『三ヶ島』を受け付けないのだろうと俺は読んでいる。矢田、何か思い出した事はないか?」
矢田は答えた。
「今回この場で遠出君に教えたかったのは二つ。一つはその問いのアンサーになるわ。昨晩、少しばかり『三ヶ島』の記憶が戻ったの。」
「どんな記憶だ?」
「一つ目は『錦戸海夢は三ヶ島咲と喧嘩離れしている事』ー。元々仲のいい友達だったのが、訳あって関係に亀裂が入ったわ。」
「その訳は言えるか?」
「えぇ。好きだった『津神凛斗』を『錦戸海夢』に取られたのが原因」
驚いた。まさか『俺』が原因だったとは。他人事だが他人事じゃない。複雑だ。
「『津神』・『三ヶ島』・『錦戸』は三角関係だったみたいね。最後は『津神』(あなた)と『錦戸』が付き合って終わった。『三ヶ島』は吹っ切れたっぽいけど」
「『錦戸』が後ろ目ている感じか・・・・」
古川の言葉と紐付けられる。
彼女が引っかかってるのは『錦戸海夢』としての蟠り(わだかまり)だ。
「古川文香は『錦戸海夢』で確定したな。」
三人目の転生者が明らかになった。
これでも小さい一歩だ。あとはこの歩幅を大きくしていけばいい。
昼休み終了まであと5分。
矢田は口を開いた。
「問題は二つ目よ。『海原力』の存在を思い出したの」
「初耳だ。どんな奴だ」
「『超』が付く程の問題児で彼は当時、あなたをいじめていたの」