第三話「僕らの『死因』と僕らの『関係』」
「愛する関係がゴールじゃない」ー卒業生・倉坂愛(16)ー
朝の目覚ましは我ながら鬱陶しい。
かと言って小鳥の囀りくらいでは到底起きれない。
「ピンポーン」
家のチャイムが鳴り響いた。
僕は眠い目を擦りながら、玄関へと足を運んだ。
「おはよう。早く行くわよ遠出君。」
起床できたが、 鬱陶しさが増したような気がした。
きっとこの女子生徒のせいだろう。
「どうした矢田。昨日と引き続き迎えに来るなんて」
「私と登校する事に不満?大概ね」
「変な噂でも広まったらどうするんだ」
「そういえば、あなた意外とモテるものね」
(意外とは余計だ、矢田。)
「今支度中だ。終わるまで部屋で待ってくれ」
僕は矢田を部屋に入れた。
殺風景な1人部屋。
一般的な男子高校生の部屋には、きっとフィギュアや推しのアイドルのポスターなどを貼ってるだろう。
この無個性な部屋に今時の女の子はどういう感覚を感じるのだろうか。
「つまらない部屋ね。男臭い。0点。よくも上がらせたわね」
知っていた。この女が気の利いた事を言える筈もない。
ストレートに本音を伝えるタイプだ。
「お前・・確かにその通りなんだが、もう少し気を遣える一言は言えないのか?『三ヶ島』の性格抑えろよ」
矢田はむすっとした。
「それを言い始めたらあなただって、前回の一人称「俺」だなんてカッコつけてるつもり?」
「・・言われるまで気にしてなかった・・」
「はぁ〜??!」
僕に呆れたらしい。さっきまで正座だった体制が崩れていた。
準備が終わり、学校へと二人は向かった。
あの放課後ーそう、僕の『前世の記憶』が少し戻った次の日から、矢田と絡む事が多くなった。
僕が彼女にとって自分と同等な人間、もしくは自分の理解者になったおかげか定かではないが、矢田は登校するようになった。
無論、クラス内では孤立している。僕以外基本話していないだろう。
だけど教室内でも、よそよそしくしている連中もいる。
それもそうだ。他者からしたらいきなり不登校生が学校に来る様になったら、興味の一つも湧いてくるだろう。
今までずっと、いないという事実が、「普通」だったのだから。
「なぁ、奏多。お前、あの魔女と付き合ってるのか?」
「野暮な質問するな。誰が付き合うか」
「ふーん珍しくはっきり答えたね奏多くん」
(つい発してしまった・・・)
どこからか物凄く痛い視線を感じる。
それが矢田なのか、千歳なのか詮索するのはよそう。
「でもなんでそんな仲いいんだ?接点なんてなかっただろうに」
接点か。あると言えばあるんだが・・・・
「特にはないが強いて言うなら、実は幼馴染でな。親同士の付き合いでよく昔から遊んでいたんだ」
「へーそうなんだ!でもあれ??一年の頃そんなに話してる所見てないような・・・」
僕と古川、矢田は一年時同じクラスだった。
「去年は気づかなかったんだ。矢田の転校で疎遠になってたし、忘れていた。」
我ながらなんと都合の良い言い訳を述べているのだろう。
それも僕らの関係性を隠す為だーーーーー
僕はとある体育の時間に一人で休憩していた矢田を水飲み場に呼び出した。
「乙女の一人の時間になんの用?」
怪しがっている。魔女を自分の都合で呼び出すのも悪くない気分だ。
「古川に問い詰められたよ、僕らの関係性。」
「上手く誤魔化せれたでしょうね?」
「あぁ。幼馴染だと答えたぞ」
それを聞いた矢田は険悪な顔になった。
「はぁ!?普通に友達になったって言えばよかったのに!!そんな大袈裟な嘘ついてどうするの??」
「俺たちは友達じゃないだろう?」
声に出してしまった。
瞬間、耳元の近くでバチンと音がした。頬も痛い。
『最低ッーーー』
どこからか小さく声が聞こえた。
今日はよく口が滑る。
「ところで前回話した私のもう一つの記憶の断片、覚えてるかしら」
「あぁ。『前世の自分の死因』だろ?」
ヒリヒリする頬をさすりながら僕は答えた。
「矢田、それについて聞きたい。お前はどこまで覚えてる?」
彼女は手に持っていたタオルを肩に掛けた。
「教室に居て、死んだのは一瞬だった。光に包まれるみたいに」
「そうか。奇遇だな。『津神凛斗』も同じ経験をしたことを覚えている」
「待って。あなたもなの?」
「そうだ。僕が持つ記憶の断片は、
お前と同じ『前世の自分の名前・死因』と『何かと対立してた』というものだ」
「・・私とあなた。二つの手札が当てはまってるのね」
矢田は納得した表情をした。
「『三ヶ島』と『津神』の死因が同じか。奇妙な一致ね。少なからず、自殺の線は考えられないー」
(20年前なんて直近に戦争は起きてないし、勿論、核が落とされるわけがない。ここから考えられる結論は・・・・)
「『私たちは何者かに一瞬で殺されたーーー』」
クラスの誰かが、僕たちを呼んでいる声が聞こえる。
だが矢田の顔を見るに聞こえてないだろうな。
「そんな・・・誰がなんのために・・・」
「思い出せるか?その時の記憶」
暫く黙り込んだ矢田は告げた。
「ダメ。思い出せない」
「人は嫌な思い出を無意識に消す生き物だ。前世の記憶なら尚更そうだろうな。矢田が思い出せないのなら俺も無理だろう」
僕は一日中ポケットに折り畳んでいた入れていた紙を矢田に渡した。
「だから調べた。約20年前に全国区で高等学校で起きた事件。
そしたら一件見つかった。」
矢田は受け取った紙を広げて読み上げた。
『校内で爆破事故。身元判明した者は学校関係者であり、死者38名ー。負傷者23名ー』
『尚、現行犯は不明。現在捜索中とのことー』
「当時の新聞のコピーだ。図書館等に足を運んでみたが、それ以降の事件に関する情報は探してみたがどこにも無かった。」
「遠出君、これって・・・・」
「あぁ。記事の通りなら、死傷者は全員学校関係者。多分犯人は第三者が絡んでいない、学校側の人間だ。新聞以外の情報を見るに事件解決の発展がなかったと結論づけれる。となると、そいつも爆破で死んでいる可能性が高い。つまり未解決事件ってことだ。」
「私たちは死んだけど記憶を持って『転生』した・・・奇妙な事だろうけど本当の出来事。
そして昨日判明したもう一つの事実、
『現クラスメイトも同等に転生し、記憶の断片を持っている場合がある』件を結び付けると・・・・」
(矢田、お前はやっぱり察しがいいー)
「犯人も『転生』して記憶が蘇ってる可能性があるって事よね」
体育教師の怒号が聞こえたー。
「そして最悪、『この2年2組の中にいる』かもしれないなー」