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第二十六話「古川文香」


 「よし、それじゃ始めましょうか!・・・・」


 どうも落ち着かない。

 古川はともかく、ほぼ初対面の二人と近元。

 判明してる中で一番、どちら側か分からない人物なのだから。

 少なくともこっちの情報を持っているのは定かだ。

 

 

 (迂闊に接近するのも得策ではないか・・・)


 しかし同じ班になった以上、こいつと動くしかない・・・・。


 「まずは改めて自己紹介しましょう!私は古川文香。まぁ、四人とも知ってるもんね」


 照れながら古川は自分の髪をなでる。


 「俺は森戸部和樹です。趣味は盆栽です。よろしくね奏多君」


 そう言って隣の席に座っていた僕に握手を求めてきた。


 「あ・・・よろしく・・・」

 (それにしても趣味が盆栽って、こいつは本当に高校生か・・・?」


 「んと・・・森戸部はその、雪城?さんとは面識があるのか?」

 「あー、雪城さんは小学校入学からの中で、高校あがるまでずっとクラスが一緒なんだよね」

 「今が二年生だから・・・・大体10年連続同じクラス!?」


 ・・・・・そんな奇跡あるもんなのか?

 いやぁ、まぁ、転生っていう奇跡もあるしな・・・・。


 「えーっと、ゴホン、雪城さん・・・。初めまして、遠出奏多です」


 雪城の方を向いて挨拶をする。


 彼女は変わらず見向きもしない。

 

 「うんと、雪城さん?・・遠出君が挨拶して・」


 ガタンッ!!


 静かな店内に大きな音が響き渡る。

 徐々に静けさを取り戻す店内で、彼女がゆっくりと口を開いた。


 「・・・・・興味ないって言ってるのが聞こえないの?」


 「え、絶対言ってない・・・」


 雪城は言ったつもりなのか?

 だとしたら唇が動かなすぎる。


 「気にしないで奏多君。雪城さん普段から誰に対してもこーだから」


 彼女は矢田より接しにくいな。

 見てくれだけはいいのだが・・・。

 それよりも、気になる点はそこじゃない。


 「どうしてお前がこの班にいるんだ?近元」

 「・・・・古川に誘われたんだよ」


 僕は古川の方を見る。

 彼女は今回の合宿の栞が出しながら説明を始めた。


 「まず今回の『勉強合宿』、最後のテストの教科が発表されていない以上、どの教科が対象でも対策できないと話にならないと考えたの。クラス内トップの運動神経を持つ遠出君・近元君が居れば体を動かす科目はある程度私たちをカバーできる。

 森戸部君は手先が器用だから裁縫や工作の面で優秀。

 雪城さんはピアノを習っていた過去もあるし、音楽科目で学年上位。

 このメンバーなら何が来ても柔軟に補えると思ったわ」


 ・・・なるほど。バランス特化を意識した班編成と言えるな。


 「・・・ちょっといいかしら」


 黙っていた氷の女王が口を開いた。


 「あなたが私と森戸部君を誘ったのは分かった。でも私達からしたらこのグループにいるメリットがない。古川さん、このメンバーを集めて最終的にどうしていきたいのかしら」


 本心を突いた。僕も雪城とは同意見だ。

 メンバーは文句がない人選だ。

 しかし古川自身、本気で勝ちに行く人員を揃えたという事は、『決定権』を狙っているに違いない。

 彼女は『決定権』をどうするつもりなのだろうか。


 「最終的にね・・・・・とある疑惑を晴らしたいと思ってるわ」

 「疑惑?」


 立て続けに説明を続けた。


 「みんな、仮にね・・・・?。『もしも前世の記憶を持っていた』としたらどうする?」

 「前世の記憶?くだらいわ」

 「くだらないと言ってるけどさ、ゆっきー。薄々あなたも感じてる事があるんじゃないの?」

 「だったら何?それとその『ゆっきー』って呼び方やめてくれる?」

 「みんな何か隠して、誰かのふりをしてる・・・・。それは誰か分からない。だけど!それは、私自身もそうなんじゃないかって。もう一人の自分の記憶が混合しているみたいでさ・・・・」


 古川は今にも気が狂いそうになっている。

 対して雪城はいたって冷静に聞いていた。

 この気の迷いは間違いない。彼女は違和感の正体に近づいている。

 (だからこそなのか。このメンバーを集めた理由・・・・)


 「自分の中で最も仮説に近い人物・・・・それがこのメンバーという事か」

 「・・・・・そうだよ。私の中にいるもう一人の私が持つ謎の記憶。その断片的な映像に出てくる人物に該当してるのがあなた達・・・・」


 近元・雪城・森戸部、そして僕の『前世』を、彼女の中にいる『錦戸海夢』が存在に気付いている。

 『前世』と関わりが深かった矢田と接する事で長く感じていた疑問が確証に変わったのだ。


 「私の中にある正体不明の違和感の正体を握ってるかもしれない人達を集めれば、何かを思い出せる・・・それが本当の狙い」


 情報を敢えて開示することは今現在の僕の状況では得策ではない。

 が、しかし彼女はここまでさらけ出している。

 自分でも訳が分からないまま正直に。

 

 暫くの沈黙を破ったのは意外な人物だった。


 「『記憶持ち』。前世の自分の記憶の断片を持っている人をそう呼んでる。古川、そして俺もそうだ」

 

 「近元君、その話し方は・・・」

 口調が荒い。『海原力』の話し方だ。


 「俺には『海原力』としての記憶を持っている。少なからず教室内の数名は何らかの形で『記憶持ち』である事に間違いはない。きっかけは様ざまだ。それぞれの『記憶の断片』にはそれが正しいと言える確証はねぇ。だが一貫してることがある。それは『なぜ前世の記憶があるのか』という点だ」

 「近元」

 「前世ではある出来事によって俺たちの死が共通しているものだとしたら、どう思う古川。」

 「近元」

 「それが宿命だとしたら・・・・」

 「近本、そこまでにしとけ。周りを見てみろ」


 僕の一言で我に戻った近元は周りを見渡した。

 雪城と森戸部は勿論、古川までもが引いている。


 「・・・すまん。忘れてくれ」


 熱が冷め、顔を下に向ける。

 「大丈夫だよ」と森戸部は声をかけていたが、声が震えていた。


 「・・・・・何を言ってるのかさっぱり分からかったわ。時間の無駄。漫画の読みすぎ」


 雪城は顔を歪みながら立ち上がった。

 

 「やはり私、あなた達とはそりが合わないみたい・・・・さようなら」


 レジで自分の飲んだコーヒー分を支払い、店を後にした。

 去る彼女を追いながら森戸部もこちらに頭を下げ、出ていった。

 仕方がないことだ。

 そもそもまだ『記憶持ち』ではない人間からしたら、絵空事なのだから。


 二人が出ていってしばらくして虫の居所が悪いのか、近元も帰っていった。

 「正直に話す事は良いんだが、話す場合は人を見極めないとだな・・・古川」

 僕は2杯目のコーヒーを頼んだ。

 「ありがとう遠出君。だけど・・・・これでいいんだよ」

 「何が良かったんだ?」

 店員がガムシロップを付けるか聞き忘れたようで、再度僕らの席に来た。

 ふと彼女の方を見ると、古川は微かに笑っていた。

 

 

 



 

 

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