第二十四話「あらたなる可能性」
「敢えて波に乗るとするなら、俺は彼女を漕いでみせる」ーとある船乗りの言葉ー
僕は矢田に呼ばれ、放課後に喫茶・麦わら帽子に向かった。
ここの茶店は、オーナーが海外から取り寄せた豆を使用し、客にあったコーヒーを提供する事で有名な老舗だ。
僕は洋風の重い扉を引き、店内へ足を運んだ。
「意外と洒落た店を知ってるんだな、矢田」
一番奥のテーブル席に矢田が座っていた。
「学校に行きたくない時によく一人で来ていたわ。ここのコスタリカの豆が好きなの。軽くてクセの少ない風味で、良質な香気が心地良いの」
言いながら、ゆっくりとコーヒーを飲んでいた。
その様子を見ながら僕は矢田の向かいに着席した。
「一人で行くお気に入りのお店を紹介してくれる程、僕に信頼を置いてくれてるのか」
「そうかもね、あなたは私をどこまで信用しているか分からないけど」
「侵害だ。で、呼び出したということは、電話ではなく直接話さないといけない内容があるんだな?」
矢田がカップを置いた。
「鷲尾奈々子についてよ。彼女の母親はー」
彼女は昨晩の出来事を赤裸々に話した。
「ー以上が鷲尾奈々子とその母、そして『K』の存在についてよ。教団の関係者であるこの男の手がかりがこの先、情報戦の『鍵』になるわね」
「そうだな。それと同時に白沢の持つ鍵を一つ、手に入れれたな・・・」
「え・・・・・」
「僕たちは勘違いをしていた」
矢田が飲んでいたコーヒーカップから、水滴が落ちる。
「僕らは『クラス全員が転生している』と考え、各々が接触を試みていたがそうじゃない」
「まさか」
「『鷲尾奈々子は転生していない』」
これまでの経験から『記憶持ち』の特徴として、前世に関わるものに遭遇した際に前世の記憶の一部が蘇っていると考えられる。
人それぞれの差は見受けられるが、今まで出会った人間は『前世の人格が戻る者』や、『記憶の断片のみが思い出す者』のどちらかに属する。
異例としてその両方でもあるであろう『白沢』を除けば、鷲尾自体、前世に関わる人や場所が彼女の周りに散りばめられている環境から、何かしらを覚えていなければおかしい話。
鷲尾は矢田に対して『自分(鷲尾奈々子)の過去の話』しか語っていない。
仮に『記憶持ち』だとして、はたしてそこまで演技ができるものなのか。
前世の記憶を抱えながら、今世の母の罪を懺悔できるのだろうか。
「白沢は鷲尾恵美子の事を知っているからその娘である鷲尾を手中に収めた。そう読めるな」
「だとしたら、教団関連の全ての情報に関しては私たちより先に手をもう打っているわよね」
「そうだな。白沢の真意が不明な以上、手探りでの捜査は危険だ」
(『林原明日香』と『松浦芽衣』を探すんだ)
近元の言葉を思い出す。
白沢はこの二名にも、もう接触しているの可能性が高い。
(けれどもうすでに目星はついている。こちらからアクションを起こさないわけにはいかないな・・)
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「なぁ!決まったか!?」
昼食を食べ終わった午後。
一息つきたい時間でも騒がしい男が僕の席にやってきた。
「何をだ、広川」
「何をって、『ナニ』だよ『ナニ』!!班決めだよ!!」
そう言って広川はとあるパンフレットを僕に差し出した。
『勉強合宿』
来週に控えた、校内イベントだ。
各々、五人一組となり班を組む。
三日間授業を行い、四日目にテストが行われ、合計点数が高い班にのみ、『10月の学年特別行事の決定権』が与えられる。
少し変わった学校行事だが、生徒のやる気と勉強に対する気持ちを引き出す面白いものとなっている。
白沢は『10月の学年特別行事』に目を付け、ここで僕たちとけりを付けに来るだろう。
そう考えるなら、『勉強合宿』ではこの決定権を取られるわけにはいかない。
白沢に渡ったのなら、圧倒的に不利な勝負を挑まれる。
僕は席を立った。
「奏多は俺と組むだろう!?当たり前だよな!??」
となると、今回の人選は厳選しなければならない。
「かーなーたっ!なぁ!!!」
敢えて白沢の波に乗るとするなら・・・・・
「無視すんなよ~~~!!!!!!!!!!!」
俺は彼女を漕いでみせる。
「古川、俺と一緒の班になってくれないか?」




