第二十二話「今宵の青春をかける者たち」
「すべては貴方と来世のためにー」ーとあるカルト教団教祖ー
「なんだよ、久々に顔見たからと言って、間違っても飯なんて誘うんじゃねーぞ?気持ちわりぃ」
「元気そうだな、近元」
家庭の事情で休学していた近元が登校してきたので、僕は校庭裏に呼び出した。
「んで、今度は何の様だ遠出奏多。もう『契約』とやらは終わった筈だ」
「状況が変わった。次は『契約』ではなく『取引』をしたい」
「『取引』だと?笑わせるなよ。俺はお前と関わりたくはない。話すことも何もない。じゃあな」
背を向けて帰ろうとした。
「『黒場啓』が僕に接触してきた」
「何?」
近元が振り返った。
「『黒場』・・・やっぱり奴もこのクラスにいるのか・・・」
「あぁ。僕に接触してきた。『黒場』は犯人は探している」
「犯人・・・・あの爆発の事か」
「やはり覚えているのか」
近元は頭を抱えた。
「当たり前だろ。自分の死因を知らない奴がどこにいる」
「確かにそうかもな・・・・なぁ、近元。取引の内容だが、お前が求める条件次第では、こちらも有意義な情報をやる。どうだ?」
近元学は『海原力』の記憶が、徐々に戻りつつある。
この男も少なからず『記憶の断片』を握ってるはずだ。
「そうだな・・・・一つだけ。一握りの『記憶の断片』なら、交換できる」
人差し指を突き出した近元は微かに微笑んでいた。
「その『記憶の断片』はお前の・・『海原力』としての記憶か?」
「もちろんだ。信用しろ・・・・」
矢田が前回の件の後に思い出した『記憶の断片』がある。
『海原力』と『黒場啓』の関係性だ。
彼らの中は犬猿の仲らしいーーーーーーー。
白沢(黒場)が近元(海原)に近づくとは考えにくい。
元々、今世の二人もそこまで親しくはない。
「良いだろう。近元、お前の持つその一握りとやらを教えてくれ」
「・・・・っふ、ならこっちから要求するのは二つだ。『藤原涙』の前世。それとお前の目的だ、遠出奏多」
「藤原涙・・・気付いていたのか。あの先生も『転生』していることを」
この男、やはり洞察力が優れている。いや、もしかしたら・・・・・。
「・・・・・藤原先生か。彼女に直接聞いたわけではないから、これから話すのは僕の推測だ。彼女は言動から見て『倉坂愛』だ。『三ヶ島咲』の親友だった生徒だ」
「『倉坂』・・・センコーと妙に親しかったアイツか」
「近元はなんで藤原先生が『記憶持ち』だと気が付いたんだ?」
「よせ。今回質問する側なのはこっちだ。もう一つの質問だけど」
「僕の目的だろ?」
『僕』自信の目的ーーーーーーーーーーーーー。
それは『僕』が前世での自分を踏まえての夢でもある。
「僕はもう一度、みんなと青春をやり直す。・・・・いや、『選び直す』ためにここにいる」
「選び直すため・・・?」
「前世で壊れた教室を、今度こそ壊さずに生きる。それが僕の使命でもあり、導くのが役割だ」
近元は驚きながらも、込み上げてくる笑いに耐えきれなかった。
「はっはっは!!!!使命感が強いことでなぁ!?遠出!!そこまでバカだったとはなぁ!??」
「・・・笑いすぎだ」
まさかここまで小馬鹿にされるとは。格好つけて言った少し自分が恥ずかしい。
笑い過ぎて涙が出た近元は、目を擦りながら話した。
「お前は本当にバカな夢を見てんなぁ?だが最近、お前に興味が湧いていきたのも事実だ。面白い、教えてやるよ。俺の、『海原力』の断片を」
近元はポケットに手を入れ、教えてくれた。
「いいかよく聞け。『犯人は教室の関係者じゃない』。『実行犯は外部の人間』だ」
「外部・・・教団の人間だな」
「流石だ、よく調べてるな。ついでだから教えてやる。前世の人間、『林原明日香』と『松裏芽衣』を探すんだ」
どちらも初めて聞いた名前だ。
「『林原明日香』、『松裏芽衣』。何故その二人なんだ?」
「さぁな。それを追い求めるのが今のお前の課題かもな。使命のためにも」
「・・・・・わかった」
「それじゃ、俺は部活に行く。もう関わってくんなよ?俺がおもちゃにされるのはごめんだ」
そう言って近元はその場を後にした。
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誰もいないはずの二組の教室。
そこに一人、外を見つめる者がいた。
「で、彼と話はできたのか?」
「まだ残っていたのか・・・・」
「勿論。君の報告を待っていたからね、近元君」
眼鏡をあげる男・白沢。
「出待ちとは趣味が悪いんだが、良いんだか・・・」
「で?彼は、生徒Aから情報は割れたのかい?」
近元は手にしていた部活鞄を肩にかけた。
「藤原涙は『記憶持ち』だ。誤魔化しているつもりだろうけど、遠出はすでに裏で糸を引いてるだろうな」
「なるほど。やはり藤原にはもう奴の手が回っていると考えられるか・・・・面白い」
白沢が微笑んだ。
「それで・・・・こちらは何の情報を提示したんだ?」
「『実行犯』についてだ。白沢、これであいつも動くんだろうな?」
「その通りだ。遠出の側にいる人間はいずれ俺につく」
夕暮れが教室内を照らす。
「ありがとう近元君。これで舞台装置は整った。まずは期末テスト。第一ラウンドだ」
「・・・・俺はお前にも、遠出にもつかねぇ。頑張ることだな」
そう言って近元は部活へと足を運んだ。




