第二十一話「対峙する二つの役目」
「更なる人格者への進化は、人を物だと認識する必要がある」ー鷲尾恵子(?)ー
暗い青紫の髪色で、切れ長の目をしているこの女。
千歳ほどではないがそれなりに背も小さい。
「こんな廃墟に1人・・・・で、ある訳ないな?」
「随分と察しがいいんだね。私は会いに来たんだよ?君に」
「僕が孤立する所を狙っていたのか。それで何の用だ」
鷲尾は制服のスカートのポケットから鍵を取り出した。
「そこの部屋、入りたいんでしょ?ついておいで」
彼女は例の部屋を指差した。
まるで目的が見破られている様に感じた。
誘導されるがままに僕は彼女の跡を付けた。
どうやら入り口は裏側からでは無さそうだ。
来た道を戻り、裏口の脇にある階段にたどり着いた。
鷲尾は階段下の壁を押し当てた。
するとまるで忍者の隠し扉の様に、壁が回転した。
「どうぞ、入って」
中は暗い。
鷲尾と共にスマートフォンで道を照らしながら歩いていく。
するとある一定の場所に着いた途端、目の前に扉が現れた。
鷲尾は鍵を取り出しドアノブに手を掛ける。
ガチャ
扉が開いた。
部屋に入ると、入り口側が牢屋になっており目の前に柵が設けられていた。
柵を跨いで一つのテーブルと椅子がある。
例えるなら、刑務官と囚人が話せる独房だ。
そして、僕の目の前に1人の男がその椅子に座っていた。
「案内ありがとう、鷲尾さん。そして、ある意味で初めましてかな?遠出奏多。いや、『津神凛斗』。」
「まさかお前から会わせてくれるなんて思いもしなかったぞ」
この男の事は勿論知っている。
「白沢幸志。やっぱりお前か」
白沢はメガネをくいっと上げ、ニヤけていた。
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「君とは一度、面と見て話をするべきだとずっと思っていた・・・・」
「残念ながら話す事なんてないな。運動会の時から挑発をしてきた奴が何を言ってんだ」
「でも遠出はちゃんと乗ってきてくれただろ?そのおかげで俺と『徹底的に』戦い、勝利した」
「戦ったつもりはない。悪魔でも優勝が目的だったからな」
「その『優勝』も、俺を狙ってだろ?」
僕は疑っていた。
白沢幸志が『記憶持ち』の可能性を。
『クラス全員が転生している』なら、学年一の秀才が動かない訳がない。
それも前世の天才としての頭脳と、現世での天才の頭脳の2つを兼ね備えている人間が。
「お前の前世は予想できている。『黒場啓』だろ?」
「・・・正解だ。俺の前世は『黒場啓』さ。」
「やはりな。どうりで頭の切れる奴だと思った」
「それを言うなら、君もだろ?」
白沢は足を組んだ。
「近元からの情報で俺は君が『津神凛斗』と聞いている。
しかし、俺は君が『彼じゃない』と見ている・・」
「その根拠はあるのか?本人が断言してるんだが・・」
「『黒場啓』(おれ)と『津神凛斗』は親友だったからな・・・。分かるんだよ、『津神』の性格と一致しないって」
「・・・・・証明としては大分アバウトだな。お前こそそれが本当だとは言い切れない」
「良い事を教えてやろう。俺の思い出した『記憶の断片』、
それは・・・『全部』だ」
白沢幸志。こいつは前世の記憶を全て思い出している。
この事件の真相をこの男は知っているんだ。
「遠出、君はこれを聞いてこう思っただろ?
『真相を知っているなら何故黙っているのか。何故『記憶持ち』を集めているのか』・・・。
簡単な事だ。それは『真相を知っている』からだ」
白沢は椅子から立ち上がり僕に近寄った。
「真相とは、すなわち『犯人を知っている』という事になるが、勿論その通りだ。
だがこうしてコソコソとバレないように行動している理由はその犯人が、如何に凶暴かつ危険な人物か、身を持って知っているからだ。
奴が仮に『記憶持ち』としてクラスに溶け込んでいる場合、過去を知っている人間に何を仕掛けて来るか分からない。
俺はそんな奴から記憶が蘇った人間を守っているんだ」
「そんな事、僕にべらべら話していいのか?
仮に僕が犯人だとしたらお前の行動理念が筒抜けになるぞ」
「俺はな、君が『津神凛斗』だという確信が欲しいんだ。
この話を聞いて、『津神』ならどんなアクションを起こすのか予想は出来る。
そして遠出。君が『津神』だと自信を持って証明出来るから、俺が望む通りに行動してみろ」
「それが僕への果たし状ってわけか・・・」
「おーい遠出くーん」
どこからか僕を呼ぶ声が聞こえる。
「お呼ばれされているな・・・今日はここまでにしとこうか」
「随分とあっさり引いてくれるものだな」
「焦ることでもないからさ。なにせこちら側が有利なのは変わらないからね」
白沢は立ち上がった。
「俺たちは君の事を『津神』とは呼ばない。これからは『生徒A』と呼ばせて貰おう。分かったかな?」
「どう呼ぼうが構わない。が、最後に質問をしたい。
この場所・・・お前らは何故知っている?」
空気感の変化を肌に感じた。
歪な存在感を醸し出す白沢に、背後にいた鷲尾は冷や汗をかいた。
「・・・・この場所は鷲尾の母親がいた場所だ。とある教団の施設だと知っているのなら、分かるだろ?・・・それ以外は教えない」
「そうか。わかった」
「鷲尾。生徒Aを開放しろ」
僕は鷲尾に連れられ、外に出た。
白沢幸志は敵意をむき出している。
この先、更なる死角を送ってくる筈だ。
俺の『過去』を暴くために。
だが、誰にも俺は解かせない。
それが、俺のー『津神凛斗』としての役目だ。
ポケットのスマホを取り出し、僕は電話をした。
「俺だ。話がある」




