第十七話「現れた僕らの敵」
「障壁がある敵はまず内側から壊すべし」ー剣崎守(16)ー
「よし始めよう」
運動会も終わり、僕は矢田との情報交換を再開した。
「ちゃんと集めていたか?」
「あなたこそ。ちゃんと有益な情報持ってるでしょうね?」
「俺を誰だと思っている」
「さすがね。お互い、温めていた物がありそうね」
「そうだな・・・・」
この一週間程で僕たちはそれぞれ環境の変化が現れている。
だからこそ状況を整理し、お互いがお互いを理解しておかないといけない。
「矢田、お前はその後古川とはどうなんだ?」
「どうと聞かれても、私はあの日の放課後、会っていない・・。何もないわ」
「何もないだと?」
古川は僕と会った時、『矢田と友達になった』と話していた。
相互に食い違いがある。
「僕は古川に会ったぞ。『矢田と友達になった』と話してくれた」
「変ね。私は・・・・・・」
矢田は話してくれた。運動会が終わった後の話だ。
矢田は古川を呼び出していた。彼女は了承してくれた。
放課後、喫茶ムラージュで話す予定を立てた。
そこで矢田は改めて運動会で手を貸してくれた事、友人として今後関わっていきたい事を伝えようとしていたらしい。
しかし、彼女は現れなかった・・・・。
「だが、僕の前には姿を見せた・・・・・・・。矢田、何時頃会う予定だった?」
「夕方5時頃ね。広川君たちと軽い打ち上げをしてからその後に行くって・・・・」
「僕と会ったのは僕が校門にいた時だ。となると、予定より前に、僕と会ってるという事だな」
「ちょっと待って遠出君。それならなんで彼女はあなたに『友達になった』と言ったの?私との話が終わってもないのに・・・・・・」
「読めないな・・・・・。古川文香。あいつの心情をもっと知る必要がある」
言動と行動に一貫性が見受けられない以上、下手に矢田と友人関係を持ち越すのは危ないだろう。
『三ヶ島』と『錦戸』。二人の因縁はもしかしたらまだ、続いてるのかもしれない・・・・・。
「矢田、迂闊に接触をしない方がいいかもしれない。古川文香は観察対象だ」
「わかったわ。私からも一ついいかしら。近元君の事で」
「なんだ」
「遠出君もこれ以上、近元君に関わらない方がいいかもしれない」
「その理由は?」
「近元君、とある人物がバックに付いている可能性がある。多分、あなたと契約を交わす前から・・・・・」
とある人物。五人目の転生者。
「矢田。それは○○○の事か?」
「え、なんで」
矢田は驚いた。
「あなた、最初から知っていたの・・・・?」
「近元・・『海原』と会う以前は○○○の存在を不審に思い、伺っていただけだ。だが、奴は『海原』をエサとして僕に近づけさせた。あっちもより僕を観察するために。
だから僕はあえて奴の手の上で泳いで見せた。無論、ただ馬鹿みたく泳ぐわけにはいかない。
近元を運動会期間は、そちら側に戻させない。そのために『運動会が終わるまでは僕の指示を聞く事』を提示した」
「それが遠出君が近元君に協力させた理由・・・」
「○○○は元々、運動会で『優勝する』気はなかった。だから近元を使い、試していたんだ。言うことの聞かない『じゃじゃ馬』に邪魔させようとな。だけど僕は『海原』の性格を利用し、『契約』させて逆に近元を使い、運動会で優勝した」
「あなたが優勝するには、彼の描いていたシナリオを壊す意図があったのね」
「僕たちが奴の様子を伺っている段階で、奴はすでに僕たちが『誰』なのか候補を絞っていたと思う。それに関しては僕たちより一枚上手だ。証拠に、もしもの場合を考えてあらゆる手段を用意していた」
「遠出君それって」
「あぁそうだ。城ヶ崎も奴の刺客の一人だろうな。騎馬戦前にそそのかして、城ヶ崎を攻撃させた。そして古川もその一人だったかもな・・・。人身掌握の上手い奴だ」
「褒めてる場合?もしかしたら、奴はもう私たちの事を知っている可能性があるわよ」
「いや、確定だろうな。もうこちら側の私情は把握されていると見た方が良い。近元が矢田を『三ヶ島』、僕を『津神』だと気が付いた時点でそう言える。だからこそ、このままだと必要な情報は全て奴に持っていかれる」
○○○は近元を僕より先に手をつけていた。
近元が矢田を襲った後に、接触したと思われる。
そして情報を知った。
そう考えると○○○の側には、もうすでに数名の『記憶持ち』がいる筈だ。
「矢田、今回で○○○は僕たちの敵だと見た。
そこでだが、こなった以上、僕たち二人で奴に直接アクションを仕掛けよう」
「メリットがないように見えるけど、いいの?」
「あっちがこちらの存在を認知してる以上、こそこそ動いても仕方がない。宣戦布告といこう」
奴はきっと、僕たち以上に沢山の情報、『前世の記憶』を持っている。
目的こそ不明だが、こちらに敵意を持っているのは確かだ。
僕たちが握る武器はまだ少ない。
早急に仕掛け、奴から情報を奪うしかないーーーーーーーーーーー
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振替休日が終わっての登校日。
太陽に照らされたせいか、生徒の中には、日焼けしている者もいた。
僕と矢田は教室に入った。妙にクラス内がザワめいている。
「何事だ。エアコンはまだ付かないぞ?」
「遠出君・・・・これ・・・・・・・」
千歳が指差している方を見る。
そこには黒板で大きくこう書かれていた。
『遠出奏多は爆弾魔ー。全員ヤツとは関わるなー。』




