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第十二話「因縁が辿り着いたもの」

「友を許せる事も、人はきっと『愛』と呼べるのだろう」ー卒業生・錦戸海夢ー



 各クラスの騎馬戦出場者が次々と集まってきた。


 「ねぇ私緊張してきたよぉ文香ぁ」

 「大丈夫!いつも通りの田子ちゃんならいけるよぉ!」

 「文香が言うのなら、頑張る!」


 田子と古川が張り切る横で、矢田と鷲尾は二人は変わらず落ち着いている様子だった。


 「・・・矢田さん、初めまして」

 「・・・・・・・・・初めまして」

 「・・・・あの・・・去年同じクラスだったの覚えてないよ・・・ね?」

 「覚えてないわ」

 「・・・・そうだよね・・・・・がっ、頑張ろうね・・・・・・」


 二人の会話はあまりにの乏しかった。



 

 「あら、これはこれは2組の皆さん」


 まとまりのない2組の間に一人の生徒が割り込んできた。


 「あなた・・・・2年4組の城ヶ崎雀じょうがさきすずめさんね」

 「古川文香さん、ごきげんよう。去年の期末テストでは残念だったわね。私に負けてしまって」

 「『学年2位』のお方が、わざわざ挑発ですか?ギザうざいんですけど」


 城ヶ崎は古川の肩をポンと叩き、矢田に近づいた。


 「ごめんなさいね。今回は負け犬のあなたじゃなくて、こちらさんに用があるの」

 

 「城ヶ崎・・・・」

 矢田は城ヶ崎を睨んだ。


 「ねぇ、いつからあなたは私の事を呼び捨てで呼ぶようになったの?私の『おもちゃ』の分際で」


 「私も変わったのよ。いつまでもあなたに屈せる私じゃないわ」

 

 「随分と性格が変わったみたいねッ・・・・・眼鏡も外しちゃって・・・・男でもできたのかしら」


 「そうね。幼馴染のおかげで、前に進めたのよ。あなたの事なんてどうでも良かったって」


 城ヶ崎は手に持っていた水筒の水を矢田にかけた。

 矢田はそれでも表情ひとつ変えてない。


 「生意気になったわね!!!友達になってあげた私に偉そうに!!!」


 「誰も友達になってとは頼んでないわ。それにあなたは私を今まで虐めていたのよ?

 そんなの友情でも何でもないわ」


 騒ぎを聞きつけた先生達が駆けつけてきた。


 「おい!競技前に何の騒ぎだ!!減点するぞ!!」

 「何でもないです」

 「・・・・・・何でも・・・ありませんわ」


 悔しい顔をした城ヶ崎は自分のクラスへと戻っていった。

 騒ぎが落ち着いた所に、田子がタオルを矢田に持ってきた。


 「矢田さん!!!ちょっと大丈夫?!これ使って!!」

 「ありがとう・・・拭かせてもらうわ」


 その様子を黙って見ていた古川。


 体をタオルで拭いた矢田は、靴紐を強く結び直した。


 「さぁ始まるわ。絶対に勝ちましょう」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 各学年各クラス、騎馬戦選抜メンバーが入場した。


 2組の騎馬は古川・鷲尾・田子。指揮を取るのは矢田。


 「それでは、クラス対抗騎馬戦女子の部を始めます。よーい、スタート!!」


 体育教師の一言で騎馬戦が始まった。

 どのクラスも一斉に動き出した。


 「あれ、奏多、うちのクラス動いてねぇぞ???」


 2組の応援席がざわめきだした。


 それもそのはず。2組の騎馬は一歩も動いていない。

 

 「うちの代表者達は、比較的体格も一般並で、言ったら悪いが運動も得意ではない方だ。だからこそ初手は動かない。と言うより『はちまきを取りに行かない』だろうな」


 「おいおいおいそんなんで勝てるのかぁ?!見ろよ!!!他のクラスから目つけられて、襲われてるぞ!!」


 「お前こそよく見ろ広川。向かってきた敵に対し、中央の古川を軸に180度回っているだろ。その反動を利用し、矢田が左右に体を倒している。そう動くことによって相手は突っ込んだ勢いで前に倒れていってる」


 2組の騎馬ははちまきこそ取ってはない。

 そもそも騎馬戦において『はちまきを奪う』の勝利条件は極めて難しいのだ。

 騎馬同士の組み合いで相手との体格差がある程、こちらのリスクが大きくなる。

 それならもう一つの勝利方法『相手の騎馬が崩れる』の方が難易度は低い。

 団結力が欠けているからこそ、あえて極力動かないで冷静に対応しているのだ。

 いわば持久戦。勝負をかけられるタイミングがあれば、動けばいい話。


(よく自分のチームメイトと、現状を分析できたな矢田。だが、まだだ。

 俺が『わざと』その面子を推薦した意図が読めていない。もっとも、『古川文香』を選んだのには意味がある)




 「次は鷲尾さん!!!右くるわ!!!田子さん、90度旋回して!!」

 「ちょっと待って!!今そっち動かれると大勢が・・・」 

 「私も限界かも!!流石に腰がやばい!!」


 合気道の様に受け流すのも限度がある。

 そう。騎馬の人間がほぼ動いてないからこそ、常に重心が固定されている。

 一般的な女子にとって、同じ体制を維持し続けるのは、至難の業だ。


 「矢田さん!!そろそろ攻めに行かない!?動かないと押し潰れちゃおうよぉ!!」


 「そうね。潮時ね」


 そう言い放つ矢田達の前に、2年4組の騎馬が目の前に立ち尽くしていた。

 4組の指揮官は城ヶ崎だ。


 「まさか、友達のいないあなたが、ここまで連携を取れるとは、驚きましたわ」

 

 城ヶ崎は矢田を睨みながら、はちまきを強く締め直した。


 「私は、もうあなたを恐れない。それを証明させる」

 

 「もう一度、あなたで『遊んであげる』わ!!!」


 2組と4組の騎馬が、お互い目掛けて突っ込んでいった。

 2組に比べて4組の代表者は、ガタイが良い人材で固めている。

 無論、フィジカルの差は明白だ。


 「あっ」

 鷲尾が押し負け、2組の騎馬が右に傾いた。

 「大丈夫!まだいけるよっ!」

 鷲尾に合わせ、中心の古川と田子が下がった。

 「体勢は治ったよ、もう一度決めよう!矢田さん!」

 「えぇ、行きましょう!」

 2組は再度4組に立ち向かった。


 

 矢田と城ヶ崎が手を組み合った。


 「意外とッ・・力が強いのねッ・・・」

 「納得した?自分より弱いと思っていた人間が、力をつけてきてッ・・・!」

 「ふざけるのもここまでよッ・・・!!」


 城ヶ崎が矢田の額を目掛けて、手を伸ばす。

 それを防ぎながら、矢田も体重を前に起こす。

 手を伸ばし、はちまきを目指すが、城ヶ崎は体を後ろに傾けた。


 (あと少し・・・あと少しで届く・・・・)




 「矢田さァァんん!!!!」




 古川が叫んだ。

 

 「さっきうち傷ついた!!あんな態度されて誰が友達になるかよ!!そう思った!!

 でも・・・・でも!今はそれでいい!!うちの『違和感』なんてもう・・どうでもいいぃぃ!!だから、だからぁ!!今は勝って!!!!

 じゃないと・・・じゃないと私、あなたのことほんとにきらいになるからァァっァァ!!!!」


 矢田は勢いよく前鏡になり、支えていた矢田の足を押し上げた。




 ーー(私は様々な因縁の中で、生きている。それでも私は)ーー




 一瞬の出来事だった。

 2組の騎馬は崩れていた。

 



 しかし、倒れている矢田の手の中には、城ヶ崎のはちまきがあった。


 

 

 

 

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