表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/24

第十一話「『三ヶ島』と『錦戸』」

「覚悟と勇気は別物だ」ー藤原涙(23)ー



 僕は走り終わり、そのままクラスメイトの所に戻った。

 広川達が歓喜の声を上げている。


 「すげーじゃん!!奏多お前本当に速いんだなぁ!!」

 「運が良かっただけだ。武田と同じ疾走順じゃなかっただけ儲けもんだ」

 「3組の陸部エース武田かぁ。あいつは話にならんな」


 疾走順があと一つ後ろだったら武田と被っていた。


 そんな最中煽られて全力を出して負けたらたまったものじゃない。

 タイミングを見計らっていたのだな、白沢。流石だ。


 一息ついて椅子に座る僕に、矢田は飲み物を持ってきた。


 「遠出君、まさかそんな才能があったとはね、驚いたわ」


 「能ある鷹は爪を隠すって言うだろ?惚れるなよ」


 「残念。私じゃなくて惚れてるのはこの子よ」

 矢田と僕の間に、千歳が飛び込んできた。


 「すごいすごいぃ!!遠出君すごいね!!」

 「広川といい、くっつかないでくれ千歳。この猛暑で汗が・・・」

 「賞賛される汗だよ!!」


 気がつくと矢田は、どこかに去っていた。

 今の僕たちの空気感に耐えられなくなったのか。

 僕の椅子の近くに飲み物だけが残っていた。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 借り物競走では、2年1組と3年3組が手を組んでいた事により少しの点数しか獲得できなかった。現在僕らのクラスの順位は4位。

 騎馬戦開始前に僕たちはミーティングをした。


 「3位の1年5組との差は15点差だ。越せない点ではない。そのためには次の騎馬戦、落とすことはできないぞ」

 近元が言った。


 「騎馬戦の1位は25点。男女で取ると合計50点。大きくリードできるな」

 「最初は女子からだね。頑張ってね鷲尾さん、田子さん、古川さん、矢田さん!」


 クラス内から期待の目を向けられている四人。

 鷲尾は緊張で体が固まり、田子は照れながら小声で「頑張ります」と言っていた。

 後の二人は・・・・・


 「・・・・ねぇ、矢田さん」

 「何?古川さん」

 「・・・・ちょっと話できる?」


 矢田と古川は二人で体育館裏へと消えた。




 

 校庭とは違い、日陰だからか、少し涼しい。

 いや、寒気がするくらいだ。

 その環境で古川は口を開いた。


 「・・・私ね、ずっと疑問に思ってた。矢田さんなんかあった?」

 「特にないわ・・・・と、言っても納得してくれないわよね」


 古川は険しい表情を浮かべた。


 「今まで不登校だった矢田さんがいきなりクラスに現れて・・・・・私が過ごしていた『普通』が『普通』じゃなくなった感じがしたの・・・・最近その事ばかり私は気になるの。

 矢田さん、うちが感じてるこの『違和感』は何?あなたが遠出くんといるからなの?」


 「・・・矢田さん、私のこと嫌いでしょ」

 「嫌いとかそういうのわかんないよ!でもうちの中で何かが引っかかる・・・」


 古川文香は前世の『錦戸』の感情が現れ、今の心境に影響を及ぼしている。

 『錦戸』が抱えていた『三ヶ島』への罪悪感。

 そして今世の自分の恋心。

 様々な感情でいっぱいになり、ずっと苦しんでいたのだ。


 (そう・・・前世では私とあなたは親友だった。だけどその関係性は恋をしたことで破綻してしまった。今もあなたが遠出君に想いを寄せているなら私は・・)


 「・・古川さん、その感情は『嫉妬』って言うのよ?」


 魔女は不気味な笑みを浮かべ、古川の肩に手をやった。


 「えっ・・」

 「急にあなたの前に現れた女が、自分が好きな『遠出奏多』と仲良くなったら、憎いわよね?横取りされたってなるよね?」


 古川は驚愕した。

 

 「な・・んで・・」

 「見ればわかるもの。『広川大輝』と『古川文香』が実は付き合ってない事も、あなたが遠出君が好きなことも」

 「・・・・いつから知っていたの」

 「最近ね。この運動会準備週間で、放課後あなたを尾行していたわ。そこで見てたのよ」

 「・・・・・・」

 

 古川は下を向いて黙り込んだ。

 「・・・何だよ・・・私は矢田さんならこの『違和感」の正体を知ってると思ったのに・・・」

 「私はその『違和感』の正体を知ってるわ。少なからず嫉妬の感情が原因じゃない。でも教えない。」

 古川は顔を上げ、矢田を見下ろした。


 「・・どうしたら教えてくれるの・・?」

 「そうね、私と『友達』になりましょう・・・まずはそこからね」


 矢田は微笑みを見せ、手を差し述べた。その笑顔には嘘偽りない。


 「・・・・・・うちから言っといてなんだけど、少し時間をくんない?気持ちの整理をつけたい・・・・」


 古川は後ろを向き、戻っていった。

 彼女は暗い顔をしていた。


 (古川文香。恋から離れることで、きっとあなたは前を向ける。そうすることであなたは思い出すから。私のことをー)


 「ふーん青春だねぇ」

 後ろからタバコの煙がこちらに届いてる。

 矢田は振り返った。


 「藤原涙(ふじわらるい先生・・・校内は禁煙ですよ」

 「生徒も先生も今はみーんな、運動会に夢中さ。誰も煙草を吸ってる所なんて見ないよ」

 「私は見ました」

 「真面目ちゃんだね〜。誰が登校してきたあんたを世話したと思ってんだ?」


 その女は白く長い髪を束ねており、

 大きな胸は着ている白衣からはみ出ていた。


 「どこまで見てたんですか先生・・・」

 「んー全部かな。そこの曲がり角でふかしてたら話し声が聞こえてね・・・。

 んで、どうする気なんだ?恋心ってのは、すぐには踏ん切りつかないものだよ?」

  藤原は矢田に問いた。


 「私は導いただけです。あとは彼女自身です」

 「都乃果ちゃん、信じてるんだ。もう一度彼女と『友達』になれることを」

 「はい・・・。それが前世の私の心残りですから」

 「・・・・・前世か・・・初めて聞いた時は驚いたよそんな話・・・・」

 「それでも登校再開して居場所がない私の話を真剣に聞いてくれた。感謝しています」


 藤原は煙草のシケモクを空き缶に入れた。


 「んで・・・私が紹介したあいつとは話せたのか?」


 「遠出君・・・ですか。おかげさまで良い関係を保ててます」


 「それはよかった。あいつは都乃果ちゃんと似ているところがあるからな。すぐ仲良くなると思ってたぞ」


 

 騎馬戦開始まであと5分。集合の放送が鳴った。



 「それじゃ行ってきます。藤原先生」



 「頑張れよ。応援してる」



 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ