第十話「開幕」
「勝負は勝ち負けだ。努力や道のりは関係ない。最後に立っていた者だけが勝利を名乗れる」ー遠出奏多(16)ー
照りつける太陽は、校庭へと赴く僕たちの足枷となっている。
今日が運動会当日というのに、開会式で倒れてしまいそうだ。
この中で、全校生徒が考えることは一つ。
『エアコン』!!!!!!!!!
(これは、かなりの接戦になるな・・・・・)
生徒たちの目つきがギラついている。
重い足を引き摺りながらも、その目は死んでいない。
うちのクラスも同様だ。
「おい・・・・これ、本気で優勝しないとわかってるよなぁ?実行委員さんよぉ〜」
「くっつくなよ広川。僕だって暑いんだ」
「うるせ!!俺からの気合い闘魂だ!!!我慢しろ!!!」
このやりとりを見て、千歳と古川は微笑んだ。
僕たち2学年は、黄色のはちまきをつける。
矢田は眼鏡を外し、はちまきを額に巻きつけた。
一部の生徒から視線が集まっていた。
僕は彼女に近づいた。
「・・・矢田、あまり目立つなよ」
「あなたよりは目立つつもりはないわ」
僕に小さくデコピンをし、彼女は颯爽と校庭に出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
全校生徒が集合し、開会式が始まった。
全体を見渡すと、やはり生徒数が多い。
ふと、矢田と出会った当初のことを思い出した。
彼女は一番最初に僕に声をかけてきた。
そこから転生の話を聞いて、僕は今こうして矢田と関係を築いている。
この広い校内で、最初に。
世界も同じだ。何千分の確率で、人と人は出会っている。
『クラス全員転生者ー』。天文学的な数字なんて話じゃない。
これは神様がもたらした復讐劇だ。
『今世』という名の檻の中で小さく唸る、獣なのだ。
(お前は一体、どう生きていたんだ。『津神凛斗』・・・)
「『津神凛斗』の情報が欲しいだと?」
「あぁ。僕は前世の記憶は断片的でしか覚えてない。だからこそ自分のことを知っている人間を探しているんだ」
屋上で近元に聞いてみた。こいつなら知っているはずだ。
「『海原力』・・・・。前世で僕をいじめていたお前は知っているだろ?『津神凛斗』がどんな人間だったのか」
「それを答えるのは、契約外だが・・・?」
「そうか。それなら情報交換といこう。知っている範囲で良ければだが、聞きたいことはあるか?」
「ほう・・おもしれぇ」
近元は笑みを浮かべた。どうやら気にいって貰えた様子だ。
「『古川文香』。俺はこの女も転生者だと踏んでいる。それについて答えろ。
それともう一つだ。お前の協力者は『矢田都乃果』で間違いないか?」
順当だな。こいつも色々と探っていたのだろう。
「・・・わかった。それらについては分かる範囲で答える。
『古川文香』は転生者で間違いない。言動からして前世は『錦戸海夢』だ。その事に気が付いたのは、僕の協力者・・・・・矢田だ」
「・・・・・やっぱりか」
「確証は得られたか?」
「あー。おかげさまでな」
納得して貰えたようだ。
「遠出。お前は前世について知りたいんだよな?俺も覚えている範囲で教えてやる。『津神凛斗』はクラスでも中心人物だ。文武両道でモテる奴だった。俺はそんなあいつが羨ましくもあり、心底憎かったよ・・・」
「それでいじめていたのか・・・・・」
「俺にいじめられるだけなら良かったかもな。でも奴は裏では何か企んでやがったんだ。その証拠に、予告通り実行しやがったんだ・・・・」
「・・・・・一体何をしたんだ・・」
「『爆破』だよ・・・・『教室爆破』」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
開会式も終わり、各クラスはそれぞれの待機場に移動した。
今回の運動会はポイント制だ。合計の多いクラスが優勝となる。
「よしみんな!準備はいいか?エアコンを手にするのは俺たちだ!!!!」
「おおおぉぉおううう!!!!」
クラスメイトも気合いは十分だ。この暑さを吹き飛ばせるくらいだ。
「頑張ろうねっ!遠出君っ!」
千歳が僕にガッツポーズを決めた。
「あぁ。そうだな」
僕は千歳に拳を突き出した。
すると彼女は笑顔で拳を返した。
第1種目は50m走。
これは個人競技だ。全員参加で、1・2位の生徒のクラスには5Pが入る。
付与されるポイント数が上位二人5Pで固定なら、体力を削ってまで一位を目指す必要はない。
上手く2位に滑り込めばいい。
ここでは温存するのが目標だ。
「すげぇぇ1位だァァ!!!」
うちのクラスの誰かが叫んでいた。
ふと見ると、天才児・白沢が周りと差をつけてゴールしていた。
歓喜の声が上がる中、彼は眼鏡を上げた。
「ふ・・・優勝するなら徹底的にだ」
僕の方を見つめ、こちらに笑いながらハンドシグナルを送る白沢。
(なるほど・・・徹底的にか・・・・・)
分かりやすく煽っているな。
ポイント数を意識して行動しようと考えていたが、これは悪魔で運動会だ。
仮にも僕は実行委員だ。僕が本気を出さないと示しがつかない。
僕は、位置についた。
わかったよ、白沢。
(何もかも『徹底的』に潰してるッ・・・!!!)
僕は1位でゴールした。




