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第一話「2年2組」

「青春は一度きりだ。だからこそ今を精一杯楽しむんだ」 ーとある理学教師による卒業生への贈る言葉ー


ー2年2組。6月。ー


 窓際の席はやはり特等席だ。

 この春過ぎの生ぬるい風が眠い身体に透き刺さる。

 それにクラスメイトの様子を眺めらる絶好のスポットでもある。

 おかげで授業中は、人間観察が捗る。

 他クラス生徒の話をする生徒。早弁をしている生徒。

 カップルで自撮りを送り合う生徒。様々だ。

 これだから授業を真面目に聞かない。生徒には呆れてしまう。

 自分で自分の将来の首を絞めている事に気が付かないなんて。

 4月下旬から登校していない彼女もそうだ。


 矢田都乃華やだとのか

 絵に書いたような、童顔文系少女。

 いつも孤独で、誰かと話している姿を見た事ない。

 噂では、カースト上位グループ女子群から酷いいじめを受けていたとか。

 そんな状況になったら、誰だって学校に行きたくなるか。


 そうか。彼女は『普通』なんだな。


 俺の中の”何か”には引っ掛からなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「今日の体育、シャトルランだよ?もー前髪崩れちゃうよねぇ〜」

 悪いな。剣崎。

 (今のご時世野暮な話題なんだろうけど、

お前のその身なりからは想像つかない口調そろそろやめたらどうだ?

 ジョ○ョに出てきそうな体格で、金髪オールバックの大男の人間のセリフか?)

 「剣崎、お前体格の割りに女々しいのな?なぁ、奏多。」

 (僕に振るな、広川。同じ事を思っていたが。)

 「広川君、そーゆの今の時代、チャケバやばいよ??」

 「まーた変なギャル語使いやがったな!文香!」

 「えーー?ウチ変なこと言ったかなぁあ〜?」

 うちの筆頭カップルの二人がまたイチャイチャを始めた。

 近くに剣崎がいるというのに、古川文香は彼の腕を組み、自分の胸を広川大輝に押し付けている。

 見るに堪えなくなったのか、剣崎はその場を後にした。

 (彼女は黒髪清楚系ギャルという分類に入るのか?)


 「そういえば奏多、俺今日やばいもの見ちまった。」

 「何だ」

 広川はニヤニヤしながら僕の肩に手を掛けた。

 「矢田だよ!覚えているか?矢田都乃果!学校に!職員室に!来てたんだよ!」

 「あぁ覚えてるよ、童顔文系メガネっ子だろ」

 「あはは!何そのあだ名!奏多君センスあるー!」

 大笑いしている古川の姿から「清楚」の文字がお世辞にも似合わない。

 「あ、でも眼鏡掛けてなかったな、コンタクトにしたのかな。」

 「『イメチェン』的な?」

 「そうそう!まるで冷徹さが更に磨き上がった感じ!あれはまるで『2組の魔女』だなぁ!!」

 「広川君はセンスなさすぎでしょー!!」

 また爆笑にふけこむ古川に叩かれながら、何故か誇らしげにする広川。

 (これだから、『W川CPカップル』は・・・・・)

 次の授業の始業チャイムと同時にため息が出た。

 しかし、僕の中では「普通」の女の子が変貌してるとは。

 「2組の魔女」か・・・・・・・・・。

 (入学してから話した事もがないし・・・会ってみたいかもな)

 


 

 5時間目が終わり、各々好きなように放課後を過ごす準備をしている。

 僕の席にダッシュでやって来た男、広川。

 「よう相棒!おはよう!今日も頑張ろうな!!」

 「大輝、ループネタ昨日もやったぞ」

 「あれそーだっけ??」

 「悪いな、今日は学級委員の集まりがある。」

 「なんだぁチキショーめぇ」

 明らかに不機嫌になった広川の背後に小さな人影が見えた。

 「ほら大輝。後ろ後ろ」

 「あっ・・・あのぉ」

 「うわぁぁあおおっつ!!」

 オーバーリアクションな広川に、小さい人影は怯えていた。

 「ち・・千歳さん・・ごめん。でも気配消して後ろに立たないでくれ・・。心臓に悪いゾ・・・」

 「あっ、ごめんねっ・・・楽しそうだったから声、掛けずらくて・・」

 うちのクラスの学級委員長・千歳渚。

 わざわざ副委員の僕を迎えに来てくれたのか。

 (ふっ・・・可愛らいしい子だな)

 「あ、今の奏多、厨二臭いべ」

 「・・・・」

 ついついニヤけてしまっていた。

 「遠出君・・・・遅れちゃうよ早く委員会室に急ごう」

 そう言いながら、千歳は下を向きながら僕の手を握りながら、僕らは教室を後にした。

 すれ違った広川の小声の文句が、僕を些細な優越感に浸してくれた。



 「これで本日の会議は終了します。」

 学年主任の一言で、やっと僕の今日1日が終わった。

 背伸びをし、窓越しに暮れて行く夕日を眺める。

 野球部のボールを打つ音が心地いい。

 「今日も疲れたね。遠出君」

 「本当だよ、千歳さん」

 委員会室に残る2人。まるで青春だ。

 「まるで青春みたいだね・・・」

 思っていた事と全く同じ事を言われて僕はドキッとした。

 「どっ・・どしたの千歳さん。

  まるでって・・・客観的みたいな言い方・・・」

 「・・・そうだね、変な言い方したねごめんね」

 「いやいいんだ・・僕も同じ事思ったから」

 ついぼそっと呟いてまった。恥ずかしい。

 恐る恐る千歳を見てみる。顔が真っ赤だ。

 愛くるしい小動物みたいだ。はっきり言って可愛い。


 「・・・・」

 「・・・・」

 「・・・ねぇ、私ね」

 沈黙を嫌がるように、彼女の小さな口が開いた。

 「私、古川さんって、遠出君の事好きなんじゃないかなって思うの」

 「・・え」

 僕も口が開いた。

 「いつも遠出君の近くにいて、いいなと思って、古川さんを見ると、古川さん、よく遠出君の顔見てる・・」

 ちょっと待ってくれ。言いがかりだ。 

 いきなり何を言い出すんだこの子は。

 「それは、彼氏の大輝と僕が友達で絡むから、そこに古川も引っ付いてくる形であって・・・」

 「多分遠出君に近づく理由づけだよ。」

 (思い込みが激しいぞ、千歳)

 鋭いのか、考え過ぎなのか分からないが、やはりこの子も「普通」じゃない。

 「・・私、自分に自信がないから・・・古川さんが羨ましい。私と違って明るいし、身長もあるし、おっぱいだって・・・」

 自分の小さく膨らんだ胸をもぎゅっと掴み落ち込む千歳。

 僕はどこを見ればいいんだ。童貞には刺激が強すぎる。

 「まっ、まぁ落ち込みすぎるのも良くないと思う・・よ・・」

 「・・・・・」

 黙って僕を見つめる彼女。後ろの夕日がやけに眩しい。

 「古川さんと何もなさそうだから言います・・・・遠出君の事が好きです・・・」

 「!?!?」 

 あまりにも完璧なシチュエーションに心が躍る。

 これを「ドキドキする」って言うのか。

 「え・・・・えっと・・・・」

 「あ!へ・・返事は後日で・・も・・いいかりゃ・・」

 オドオドしながら噛む千歳。

 「わ・・わかった。落ち着いたら返事する」

 「・・・うん」

 照れながら彼女は小さく会釈をし、教室から一目散に出ていった。

(マジでびびった・・・・まさか告白されるとは思わなかった)

 緊張がほぐれ、椅子に座り込む。

 野球部員の終わりの挨拶が聞こえ、心が無になった。

 (これが青春か・・恋愛も大事だよな将来には)


ガラっ・・・・・


 僕が黄昏れている所に、教室のドアを開ける音がして、はっとした。


「あなた、何が青春よ。いい加減にして」

 

 そこには、吊り目で童顔だけど、冷徹さを感じさせる「魔女」が立っていた。


 「・・・矢田都乃果・・?」

 「あら、話したこともないクラスメイトを覚えているのね。もしかして変態なの?」

 第一印象は「普通」だったが、第二印象は「性格が悪い」だ。

 「そっちこそ、関わったことのない同級生に随分と口が悪いな」

 「私の専売特許なの。悪い?」

 「すまない。実は君に会ってみたいと思っていたが取り消す。だから俺のさっきまでの「エモい」を返してくれないか?」

 矢田は目元をピクッとさせながら、髪を薙かせた。

 「ふーん。私に会ってみたかったんだ。さっき女の子に告られたばっかなのにぃ〜?」

 「だから取り消すと言ったんだ」

 彼女はニヤッとし、俺の方まで近寄ってきた。

 両手を僕の頬に当て顔を寄せた。


 「私も会いたかったよ。遠出奏多君」


 彼女の手は凄くひんやりと冷たかった。


 魔女は耳元で囁いた。


 「君・・・薄々気付いてたでしょ?」

 「・・・何を?」

 「私たち含め、クラスメイト達の『謎の違和感』に・・・・」

 


 


 







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