第8話 魔界裁判クライマックス~最後の追及~
ここまで来たら、あと一息だ。コモリさんの犯行を全て明らかにしよう。
今までの推理は間違っていないはず。
僕の推理に穴があるなら。そこに見落としがあるはずだ!
もう一度、事件の事を振り返ってみよう。
今問題になっているのは、被害者を持ち上げるほどの電力がない事だ。
だけど逆に考えるのはどうだ?
被害者魔王城の電力で持ち上がった方法を考えるのではなく。
魔王城の電力を、どうすれば磁石になるほど上げられるかを考える。
まだ明らかになっていない、事実があるはずだ!
「まず、魔王城の電力供給について考えてみよう」
魔王城の灯かり。電圧や電流は高くない。
被害者を持ち上げるほどの、磁力を発生させられないはずだ。
でも実際、被害者は電磁石で隠されていた。
被害者を持ち上げるために、犯人は何かを使ったのか?
だとしたら何を使った? 僕はその証拠を持っているのではないのか?
「そうか。あの電線だ」
現場に落ちていた電線。アレは電磁力を良く通すものだ。
それだけじゃない。ある方法を使えば。
電圧を一気に上げることが出来るんだ。
「コイルだ。コイルを使えば、変圧器の原理を利用できる」
左右にコイルを巻いて、片方の電線に電気が流れた場合。
コイルから磁力が発生する。その磁力がもう片方のコイルに影響を与え。
巻き数の分だけ強力になった、磁力が発生する。
犯人はこのトリックを使って、被害者を持ち上げたんだ。
電源が切れると同時に、被害者の死体が落下するように。
「コモリさん。もう終わりです。貴方の仕掛けたトリックは、全て分かりました」
「なんだと!? テメェみたいな若造が、調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「なら聞いてください。僕がこの事件で起きた、全容を解き明かします」
トリックは全て暴けた。後はそれを明らかにするだけだ!
「まずコモリさんはパーティ前。被害者と遭遇していたんだ」
みんなが準備している裏で、コモリさんは殺魔物をしていた。
過去に自分が行った、トリックを思いついていたんだ。
「ガラス管に高出力の電磁波を流して、レーザーを発射した」
被害者の焦げ跡から、背後から狙われたはずだ。
「見えない凶器が被害者の胴体を貫き、殺害した」
電磁波を操る事が出来れば、レーザーの照準も合わせる事が出来る。
波動魔法が得意なコモリさんなら、可能なトリックだ。
「でもこれだけじゃ、焦げ跡が原因で。凶器を見破れられる可能性がある」
特に局所的な焦げ跡では、十分見破る事が可能だ。
レーザーが疑われれば、当然その研究をしていたコモリさんが疑われる。
「そこでコモリさんは。会場にある罠を仕掛けていたんだ。爆破花をね」
罠は事前に準備していたものだろう。
爆破花なんて、咄嗟に用意できないだろうから。
「コモリさんは。みんなが見ている前で、爆破事件を起こす必要があった」
そのためにパーティ会場はうってつけだろう。
光があれば、みんなそちらに目が行くのだから。
「爆発現場の近くで、死体が発見されれば。焦げ跡は爆破によるものだと錯覚するからね」
実際爆破の影響で、別の焦げ跡も存在していた。
そのせいで、僕も危うく見逃しそうになったものだ。
「でもそのためには、死体を爆破花の近くに置く必要があった」
パーティには人が大勢いるため。
下手な場所に隠すことは出来なかっただろう。
「そこで犯人は、天井に被害者を吊り下げて。幕で隠したんだ」
幕の裏側なんて、誰も気にしない。
パーティの飾りつけとしても不自然じゃない。
「この時、被害者を吊るしていたのは、電磁石。電源と繋いで、電気を流していたんだろうね」
爆破の時が来るまで、被害者を落とすわけにはいかない。
そのために魔法じゃない、電力供給が必要だったはずだ。
「でもこれだけじゃ、電磁力は足りない。そこでコモリさんは、変圧器を使ったんだ」
事前に用意したコイルがあれば。後は左右の電線にセットするだけ。
変圧器を用いて、電磁石に流れる電気を強くした。
多分全く同じ巻き数のコイルを巻いて、反対側にも用意していただろうね。
「こうして天井に吊るされた被害者は、停電と同時に地面に落下した」
電力の供給が無くなれば、電磁石はなくなる。
磁力が無くなれば、当然被害者は落下するだろう。
「そして、ルシェ様が話そうとしたタイミング見て。コンセントに静電気を流した」
今回の事件も呪いのせいにするために。
ルシェ様が話すタイミングを見計らう必要があったのだろう。
「本来なら落下時に音が鳴るけど。この時はコモリさんが、逆音波で音を打ち消していたんだ」
全く逆波形の音がなれば、音同士がかき消し合う。
「でもコモリさんが、停電を起こしたのは、被害者を落下させるだけが目的じゃなかった」
コモリさんはここで。さらに二つの仕掛けを施したのだ。
「一つはわざとウェイターとぶつかって、印象を残した。停電中のアリバイ作りのために」
ウェイターがソースのある料理を運んでいたのも、好都合だった。
スーツにソースが付いたせいで、ぶつかったのがコモリさんだと確信された。
「この時コモリさんは。音の反響で、周囲の状況を把握できたはずだよ」
コウモリと同じ特性を持つ、コモリさんになら。
音を聞き分けて、反射から距離を測定できるはずだ。
「第二の仕掛けとして。会場に特定の角度を向いた鏡を用意した」
会場のセッティングを頼まれていたのは、コモリさんだ。
鏡の位置を変更するくらい、出来るだろう。
「停電が起きれば、当然明かりを灯そうとする魔物が現れるはずだよ」
現にユキが灯かりをつけた。コモリさんの思惑通りにね。
「この時、周囲に拡散した光が鏡に反射して。一点に集まった」
鏡の角度を調整したのは、その一点に強い光を当てるためだ。
「その先にあるのは、爆破花。光を吸収して、爆発する花」
光が拡散したと同時に、爆破花は爆発した。
大勢がそれを目撃して、被害者の死体を発見する。
あたかも被害者が、爆破花に巻き込まれて死んだように見えるように。
「一連のトリックを仕掛けられたのは。魔王城のパーティに参加出来て。配電に詳しく……」
僕はコモリさんを指した。
「波動魔法の達人で、トリックを用意出来た貴方だけだ。コモリさん」
「ぐっ……!」
「そう。これが事件の全貌。最初から呪いなんてなかったんだ」
ルシェ様の呪いは、最初から悪意ある魔物により引き起こされていたものだったんだ。
彼がその全てに関わっているかは、定かではないけど。
少なくても一件には関わっているはずだ。
「反論があるなら。お願いしますよ」
「ぐぐぐ……。がああああ!」
コモリさんは翼を広げた。あちこちに魔法を放ちながら。
波動が壁に反射して、彼の耳へ届く。
彼はもがき苦しみながら、首を左右に振った。
「アイツが悪いんだ……。ルシェの呪いは作為的なものだと、気づきやがったから……」
コモリさんは体を回しながら、発狂を始めた。
「真実に近づこうとしたから、悪いんだ!」
コモリさんは天井に向かって、音波を放った。
「バレる訳にはいかねぇ……。魔王の娘を、呪いの子に仕立て上げたなんて……」
音波の影響で落ちたシャンデリアが、コモリさんに直撃した。
「うがあああああああ!」
シャンデリアが電気を放ちながら、コモリさんを感電させる。
真相が暴かれたショックか。電流の影響か。
コモリさんはその場で白目を剥いて、気絶した。