第7話 魔界裁判後半~犯人の反証~
「このワシが犯人だと?」
彼を指した僕を、コモリさんは睨んできた。
「若造が! 何故ワシが、殺魔物などしなければならんのだ!」
「でも筋は通っているぜ」
僕の横から、アドさんが言ってくれた。
光もレーザーも。全て波動によるものだ。
波動魔法が得意な、コモリさんにしかこの犯行は行う事ができない。
「ふざけんなや! そんなの全部状況証拠だろうが!」
「状況証拠でも、貴方を疑うには十分なものです」
僕は再びコモリさんを指した。
「反論があるなら。証言でお願いします」
「良いだろう。お前の穴だらけな推理を、破壊してやるぜ!」
ここまで来たらあと一歩。犯人を追い詰めるのみ!
まだ明かされていない謎を解き明かし。彼の犯行を証明する!
「良いか? ワシは事件発生時、パニックになったウェイターと、ぶつかっている」
ウェイターの証言と、ソースからそれは間違いないだろう。
「つまり、停電時。ワシにはアリバイがあるという事だ」
ウェイターとはぶつかった後、軽い会話をしているとも証言された。
ウェイターが共犯とは考えにくい。恐らく本当の事なのだろう。
「焦げ跡を作るには、死体を爆破場所の近くに置かなきゃならなねえ!」
熱の影響を作るには、近距離で爆発させる必要がある。
だけどパーティの最中、死体なんて置いてなかった。
「停電中にアリバイがある俺には、死体を爆破場所に置くなんて。無理なんだよ!」
「それはどうでしょうか?」
僕はコモリさんの発言に、反論をした。
確かにコモリさんは、停電中に移動することが不可能だ。
だからと言って、被害者を現場に置くことが不可能ではない。
「現場には。完全に処分できていない導線がありました」
「そ、それがなんだよ?」
現場付近の幕を支えていたのは、鉄の棒だ。
それを考えると。被害者の遺体がどこに隠されていたのか分かる。
「コイルを巻いて、電流を流せば。鉄の棒は電磁石になりますよね?」
「ぐっ!」
「コンセントから供給されていたとしたら。停電を起こせば電力供給が無くなり。磁力も消えます」
そう。死体は幕の内側に隠されていたんだ。
正確にはそれを支える鉄の棒の裏側に。
だから誰も気づくことが出来なかった。
「だ、だが! だったら誰かが落下音を聞いてるはずだろ!」
「貴方は落下音が聞こえないように、ある仕掛けを施しましたね?」
音とと言うのは、波を作る。つまり波動の一種だ。
防音技術の一つを、僕は知っている。
「貴方は被害者が落下する音と。逆の音波を同時に流したんだ」
波動の残留魔力はその時使われたものだろう。
逆波長の音が同時に流れれば。音は互いに打ち消し合う。
その影響で音は響かなくなるんだ。
「貴方は動かずに、死体だけを移動させたんだ!」
停電は爆発させるだけじゃなく。死体の移動も加味してだ。
「貴方はわざとウェイターとぶつかり。アリバイを作ったんだ!」
「バカかテメェは! 停電中は真っ暗だったつってんだろ!」
コモリさんは声を荒げ始めた。
大分追い詰められているのだろう。
「どうやって、わざと人とぶつかるんだよ! 適当に走ったとでもいうのか!?」
「いや! 貴方は停電中でも周囲の様子が分かったはずだ!」
コモリさんはコウモリと同じ特性を持った、魔物である。
更に波動魔法を自由に操れる。だとしたら。
音波の使い道は一つじゃないはずだ。
「コモリさんなら。出来るはずですよ。音の反響で距離感を掴むことが」
僕の耳じゃ、音だけで距離感は完全に掴めないけど。
コモリさんの耳は違う。超音波まで聞き分ける耳なのだから。
「音の反響から、貴方は周囲の様子が分かったはずだ!」
「ぐっ! 坊主風情がああああああ!」
コモリさんは完全に取り乱している。
僕の推理が間違っていないってことだ。
「貴方は相当焦ったはずだ。過去の事件の真相が、バレそうになって」
全ての呪いをこの魔物一人で仕組んだとは限らないけど。
少なくてもこの爆破事件に関しては、コモリさんが関わっているはずだ。
「貴方は今回と全く同じ方法で。爆破花を爆発させたんだ!」
「ぐっ!」
「その真相が暴かれそうになったから。被害者を殺した! 違いますか?」
被害者も犯人までは分からなかったのだろう。
だがそれも時間の問題だ。コモリさんはずっと被害者を警戒していた。
そしてこの魔王誕生祭を利用して。被害者の殺害計画を立てたんだ。
今回の事件もルシェの呪いとすることで。
彼女に全てを押し付けようとした。
「本当なの……? 本当に私は呪われてなんかいないの?」
ルシェ様が不安そうに。同時にどこかホッとしたように呟いた。
僕は目を瞑り、ゆっくりと頷いた。
「君の呪いは。悪意を持った第三者による、作為的なものだったんだ」
その内の一人がコモリさんと言う事になるだろう。
何のために呪いなんて演出したのか。そこまでは分からないけど。
最初から呪いなんてなかった。それだけは確かだ。
「だから君は何も悪くない。みんなと一緒に居て良いんだ」
僕は出来るだけ優しく見えるように。微笑んだ。
ルシェ様も少しだけ、口角があがる。
「へ、へへへ……。アハハ!」
コモリさんが不気味な笑い声をあげた。
瞳を大きく開きながら、息を切らしている。
「小童が! お前の推理には一つだけ穴があるぜ!」
「穴?」
「魔王城に供給される、電力を思い出してみろよ」
魔王城に供給される電力か。確かコンセントに繋いだ時。
電圧は百ボルト程度のはずだ。
「お前の推理では、停電と同時に被害者が落下しただろ?」
「ええ。それは間違いありません」
「だったらよ! 電磁石の電力は! 魔王城のコンセントから供給していたはずだ!」
確かに。他の方法で電力供給をしていたら。
停電と同時に被害者を落下させる事は出来ない。
「だがよ! コンセントから流れる電圧で! 被害者を持ち上げられるのか?」
コンセントは感電防止のため。
強い電気は流れないだろう。
被害者を持ち上げるには、ちょっと電流が足りないかな?
「つまりお前の推理には! 致命的な欠陥があるわけだ!」
「果たしてそうでしょうか?」
全ての証拠がこのトリックを示している。
推理が成立しないという事は、どこかに見落としがあるはずだ。
つまりその見落としさえ見つければ。全てが繋がるんだ。
「電力が足りないというなら。一時的に電力を上げれば良んです」
まだ僕は完全な真実にたどり着いていない。
でもあと一歩だ! 今までの状況を振り返り。
明らかになっていない事実を振り返るんだ!
「コモリさん。これでトドメです!」