第6話 魔界裁判中盤戦~犯人指名~
十五分くらいで即興で考えたトリックなので、粗いのは許して欲しい。
素人のミステリーにそこまで、期待していないだろうけど。
魔界裁判は続く。僕の発言に、多くの人が言葉を失って居た。
被害者は爆発の前に亡くなっていた。
「どういう事だ? 被害者は爆破に巻き込まれてのではないのか?」
ファウスト様の問いかけに、僕は首を振った。
「だとしたら。外傷がないのは不自然ですよ」
「爆発に巻き込まれたとしたら。何かしらの外傷があるはずですね」
アドさんが僕の言葉に、細くをしてくれた。
そうなのだ。被害者に外傷がないのは不自然だ。
まるで熱の影響しか受けていないように。実際そうなのだけど。
「被害者の位置も不自然です。爆発の直ぐ傍で、倒れていたなんて」
「む? 確かにそうだ。何故被害者は爆発で、吹き飛んでいない」
「答えは簡単です。被害者は爆発の際。立って居なかったんですから」
もしも爆発の瞬間。床に倒れていたとしたら。
一歩も動かないとまではいかなくても。
爆風の影響は、少なくて済む。
「ちょっと待てや! じゃあ、なんで犯人は爆発なんて、起こしたんだよ!」
コモリさんが、怒声を上げる。
「被害者を殺していたなら。停電と爆破を起こす理由はねえだろう!」
「いや。犯人は是が非でも、爆発を起こす必要があったんです」
そうだ。最初からあの爆発は不自然だった。
都合よく被害者が近くにいたなんて、考えられない。
あの爆発は、最初から僕たちを錯覚させる罠だったんだ。
「犯人は本当の殺害方法を隠すために、爆破を起こしたんです!」
「イヒヒ! ユウキ君には、もう分かっているんだろうね?」
ファー様の言葉に、僕は頷いた。答えは分かっている。
極所的に胸だけが濃い、焦げ跡。これがヒントだったんだ。
「坊主。会場に他の凶器らしきものは、見当たらなかったぞ」
「アドさん。犯人は見えない凶器を使ったんです」
「見えない凶器だと?」
会場に凶器を残すわけにはいかない。
だからと言って、爆破で殺害は運要素が多すぎる。
だから犯人は、この方法を使うしかなかったんだ。
「犯人は高出力のレーザーを、被害者に当てて殺害したんです!」
ルシェ様の説明では。レーザーは鉄さえも切れるらしい。
だったら、魔物の肉体を切り裂くなど容易い事だ。
「でもただレーザーを当てただけでは。焦げ跡で気づかれる」
レーザーは強い熱を帯びているらしい。
もし体を貫通するほどの威力なら。
被害者の体に焦げ跡が残るだろう。
でも犯人にとって、それは好ましくない状況だ。
殺害方法がバレれば、足がついてしまう。
「だから犯人は爆発を起こしたのです! 本当の殺害方法を隠すために!」
「なるほどなぁ。騎士団の目を誤魔化すつもりだったのか」
アドさんは髪の毛を、ポリポリと掻いた。
「まあ、実際騙されちまったわけだが」
「戯け者がぁ! そんなわけあるかぁ!」
「え?」
急にコモリさんが、キレ始めた。
僕は呆気に取られて、言葉を飲み込む。
「テメェ! レーザーの原理知ってのかよ!」
「い、いやぁ……。正直良く分かってませんが……」
「だったら説明してやらぁ! 耳かっぽじってきけやぁ!」
どうやらコモリさんは、僕の推理に不満があるようだ。
反論があるなら聞いて、それを突破しよう。
「良いか? レーザーって言うのは電磁波の一種なんだ」
それはルシェ様から聞いたな。
光もまた電磁波の一種だし。
「電磁波って言うのは、電場と磁場の重なりだ!」
電気的力が働く電場と、磁力が働く磁場。
この二つが合わさった時に、電磁波になる。
「更にこいつらを、ガラス管でちゃんと反射させる必要があるんだよ!」
「それなら。ガラス管を用意しておけば良いだけです」
「バカが! この反射ってやつが、相当難しんだよ!」
そうなんだ。僕は正直詳しくないから、知らなかった。
「特に魔物を殺すほどのレーザーは、高出力だ。凄い扱い辛いんだよ!」
波動魔法の専門家だけあって。妙に詳しいな、コモリさん。
でも犯人がレーザーを使ったのは、間違いない。
「咄嗟にそんなレーザー、作れるはずないだろ!」
「その反論は、無効です!」
僕はコモリさんを指して叫んだ。
「だって今回の殺魔物事件は。計画犯罪なのですから!」
「な、なに!?」
「考えてくださいよ。鏡の位置や爆破花は咄嗟に用意できません」
それだけじゃない。停電の用意をするのも。
被害者を事前に殺害しておくのも。
突発的犯行では不可能だ。
「計画犯罪なら。事前にガラス管くらい、用意できます」
「だ、だがよ! レーザーなんて、実験していたら、そこら中に焦げ跡が出来るぞ!」
魔物を殺すほどのレーザーだから。
床や壁に当たれば、焦げ跡が残るだろう。
「魔王城に焦げ跡なんて、なかっただろうが!」
「でしょうね。だってガラス管自体は、外部から持ち込まれたんですから」
「はあ!? このパーティに外部の魔物は参加できねぇ! ましてや持ち込みなんてしたら……」
事前に誰かから物を受け取ったとしても。
すぐにバレるだろう。普通だったら。
「僕は一言も。最近持ち込まれたとは言ってませんよ」
「んだと!? テメェは何年も前から、計画された殺魔物だとでも言いたいのか?」
「良いや。計画は最近のものでしょう。でもガラス管が持ち込まれたのは。八年前のはずです」
僕は図書館で呼んだばかりの事件を、思い出した。
事故として処理された、爆破花爆発事件。
ルシェ様の呪いと言われた、忌まわしき事件だが。
内容は今回の事件と、酷似していた。
爆破花の爆発して、被害者が亡くなった事など。
「犯人は。八年前に使ったトリックと、同じものを今回も使ったんです!」
「やはり。アレは事故ではなかったのか……」
ファウスト様は、薄々考えていたようだ。
これが意味することは、たった一つの真実だ。
「つまり犯人は。八年前の事件と同一犯ってことです!」
「な……。なんだとおおおおお!?」
「犯人は八年前に用意していた道具を使って。今回の被害者を殺害したんだ!」
やっぱり最初から呪いなんて、なかったんだ。
ルシェ様の近辺で起きていた事件は。悪意のある誰かが仕組んだことだ。
僕は怒りで思わず、拳を握りしめる。
「この事実から。犯人の動機が自ずと見えてきます」
「ちなみにだが。私は被害者にある命令をしていた」
ファウスト様が側近に命令していた事。
それが今回の事件の動機となっている。
「ルシェの周りで起きた事件を、調べ直す事だ」
「万が一真相に近づかれたら。犯人にとって、不都合ですよね?」
「ああ。それにこれは私への警告でもあるな」
魔王の息子を直接殺せはしないけど。
真相を探るなら容赦しないという、警告か。
「だ、だが! 肝心の犯人が分かってないじゃないか!?」
「ん? 何言ってんの、コモリさん。あなた以外、大体みんな分かっているよ?」
ファー様が怒れるコモリさんに、茶々入れた。
そうだ。犯人は既に分かっている。
「この際だから、ユウキ君。ちゃっちゃと、指名しちゃいなよ」
犯人はレーザーを使って、被害者を殺害した。
それだけじゃない。爆破花を鏡を使って爆発させた。
更に静電気を使って、停電まで引き起こした。
つまり犯人は。配電に詳しくて、尚且つ電磁波を操れる魔物。
どうやら余計なことをして、墓穴を掘り過ぎたみたいだな。
「犯人は……。貴方だ。コモリさん」
僕は人差し指を使って、犯人を指名した。