第5話 魔界裁判序章 ~開廷、停電と爆破の原因~
「さて。開廷したわけだけど。君達状況が良く分かっていないでしょ?」
魔界裁判を言い出した。ファー様がこの場を仕切る。
流石魔王様の息子だけあってか、手慣れている。
「アドさん。現場で分かった事を、適当に話しちゃって」
「う~む。しかし……。素人に事件情報を聴かせるには……」
「この俺が良いって言ってるんだ。速く話してよ」
無邪気な笑顔で、ファー様は威圧するように言った。
アドさんも圧倒されて、渋々メモを取り出す。
「被害者はグロリアス。ファウスト様の側近です」
「へえ! お兄様の側近がねぇ。それから、それから?」
「被害者には目立った外傷はありませんでした」
外傷がないだって? じゃあ被害者はどうやって死んだんだ?
爆発で死ぬにしたって。体に傷くらい出来るだろう。
「全身が焦げているので、これが死因と思われます」
「きっとあの爆発で死んじゃったんだろうね。で?」
「気になる事として。被害者は胸だけが、極所的に焦げておりました」
爆発で一部だけが焦げるなんて、ありるのだろうか?
この情報。覚えた方が良さそうだな。
「以上の事から。我々は爆発と殺魔物が、同一犯だと考えている」
「まあ、ちょっと考えれば分かることだよね!」
ファー様。一々茶々入れているなぁ……。
この状況を楽しんでいるようだ。
「じゃあ、誰が爆発を起こしたのか。考えたいところだけど」
「どうかしたのか?」
突然言葉を止めてたファー様に、ファウスト様が語り掛ける。
ファー様はニヤリと笑って、彼に返す。
「まずは停電の理由を明らかにした方が良いんじゃない?」
「おっしゃる通りです。停電も犯人の仕業だと、我々は考えています」
「んじゃあ。ここにいる魔物達で、議論開始と行こうか!」
停電の理由か。確かに爆発の前に、話し合っていた方が良さそうだ。
あの停電が事件の始まりなのだから。
「普通に考えたら、誰かがブレーカーを下げたってことになるが……」
「お兄様はバカだな! 下げたら上げないと、電気が点かないでしょ!」
「ならば、安全装置が稼働したか……」
安全装置はしばらくすると、電気を流す。
直ぐに復旧した以上。ブレーカーが落ちた訳じゃない。
「ワシは聞いたぞ! 安全装置が作動する音をな!」
「わ、私も聞きました……。そんな音を……」
「誰かが高圧をかけたんだ! 安全装置が作動するほどのな!」
二万ボルトで、安全装置は作動するはずだ。
それだけの電圧を、魔法で作るのは魔力が居る。
「つまり犯人は! 電気魔法に精通した奴に違いねぇ!」
「それは違うと思いますよ」
僕はコモリさんの発言に、反論した。
彼は怪訝そうに僕を睨みつける。
「ああ!? 若造がワシに口答えする気か!?」
「二万ボルトなら、静電気でも作れますよ」
「だぁかぁら! 静電気は起きねえように、湿度をコントロールしてるつったろ!」
魔王城が停電するのは、僕が知る限りだと珍しい。
誤作動で安全装置が作動していないのは明らかだ。でも。
「湿度をコントロールする装置を、事前に壊せばいいだけでしょ」
「確かにその通りだがな! お前静電気の原理知てんのか! 電線に静電気が流れるなんて……」
「コンセントに、帯電した棒を近づければ良いんです」
あの不自然に真ん中だけ開いていたコンセント。
アレは元々刺さっていたものが、抜かれた後じゃないか?
「犯人はコンセントから。安全装置に向けて静電気を放ったんです」
「ふむ。それなら、高位な魔術師でなくても、可能だな」
「もっと言えば。犯人は配電に詳しい魔物ってことになります」
安全装置の位置を知らないと。
どのコンセントを利用すれば良いか分からない。
犯人は装置の配電を、完璧に把握している魔物だろう。
「へえ。姉さまの腰巾着だと思っていたけど。少しはやるようだね」
ファー様。きっとこの事実に気付いていたんだろうな。
だからまず停電の原因をなどと、言ったのだろう。
「議論も進んだ事だし。次は爆発の原因を特定しようか」
「ですが。現場で熱魔法を使われて形跡はありません」
現場捜査担当の、アドさんが言うんだ。
本当に熱魔法は、使用されていないのだろう。
「何か別の物を使って、爆発させたのかもね」
ファー様は、ニヤリと笑って僕を見つめた。
「ユウキ君にはもう、分かっているんじゃないかな?」
「え?」
「だって君。爆発の話をした途端、あるところをチラ見したじゃん」
ファー様。どこまで事件の事を掴んでいるのだろうか?
全員の注目が集まって緊張するが。
僕は深呼吸をして、発言をする。
「爆破花ですよね? 光に反応して爆発する」
「だろうね。でもさぁ。俺がステージに立った時。爆破花なんて、なかったけどなぁ」
確かに爆破花なんてあったら、誰か気づくだろう。
停電の最中に置かれた可能性が高いな。
「ワシには無理だぞ!」
「えぇ……。いきなりなんですか、コモリさん……」
「ワシは停電中、ウェイターとぶつかったからな!」
コモリさんは上着をめくり、インナーを見せた。
見事にソースが上着にかかっている。
「おかげで、インナーが台無しだ!」
「まあ、良いですけど。そうなると、ユキにも無理ですね」
あの時光魔法を真っ先に使ったのだから。
暗闇の中、短時間で行き来するのは不可能だろう。
「犯人が俺らの中にいるとは限らないよ?」
確かにみんな無実を訴えているが。
犯人が裁判に参加しているとは限らない。
「いや、魔物であるとも限らないかもよ」
「え?」
「例えば魔物に紛れて、光の者が紛れているとかさぁ!」
ファー様の発言で、周囲がざわつき始めた。
魔物は闇の者。光を扱うのは苦手だ。
一方で人間は光の者。光魔法など、お手の物だろう。
「だって! 魔物の魔法で、爆破花を爆発させる光を出すのは、不可能なんだから!」
確かに人間なら、基礎魔法で爆破花を爆発させることも可能だ。
だけど……。
「いや。それはないと思いますよ」
「おっと、また君が発言! どうぞ、どうぞ!」
「さっきも言いましたが。犯人は魔王城の配電に詳しい者です」
人間だって、魔物に擬態することは可能だろう。
でも配電まで知るとなると。かなり長い年月が必要となる。
逸れこそ魔王城の設計図を渡されるような信頼が必要だ。
「それに人間の仕業なら。真っ先に魔王様を狙うだろうからね」
「そうだね! こんな仕掛けをしてまで。魔王の息子の側近を殺さないもんね!」
「だから爆発させたのは。間違いなく魔王城の魔物のはず」
ファー様の発言で荒れる前に、沈静化できた。
彼だけは何を考えているか分からない。裁判の空気を、握られないようにしなければ。
「ふむ。だが、そうなると、一つ問題だな」
ファウスト様は直ぐに気が付いたようだ。
「どうやって、光を作り出しのだ? 我々には、強い光を作れんぞ」
「光源自体は、弱い光でも十分です。でもそれを一カ所に集中させたら?」
「なるほど。鏡を使ったわけか」
流石ファウスト様だ。良く見ていらっしゃる。
鏡は全て同じ方向を向いていた。
そう。爆破花が爆発した位置に!
「地上で拡散した光が。鏡で反射されて一点に向かった」
「一カ所に集まれば。強い光を浴びせれらるか」
「え? じゃ、じゃあ……」
ユキが不安そうに声を上げた。
「わ、私が光を放ったせいで……?」
「停電が起きれば、誰かが光をつける。君のせいじゃない」
「で、でも……。私が被害者を殺しちゃったの?」
ユキの問いかけに、僕は首を振った。
「それも違うよ。だって被害者は爆発前に、既に亡くなっていたんだからね」