第4話 捜査終盤~最後の聞き込み~
僕達はコモリさんを見つけた。
この城にヴァンパイア族は殆どいないし。
彼は特徴的な性格だから、分かり易かった。
「ここの衛兵共はたるんどる! 良いか! ワシが指揮を執れば……」
「相変らず騒がしいですね。コモリさん」
「おお! ユウキか! お前からもビシッと言ってやれ!」
こんな風に言っているが。コモリさんは只の執事だ。
ハッキリ言おう。衛兵の経験などない。
何より魔王城で事件が起きても、この魔物に捜査権はない。
正直のこの人と話すのは、骨が折れるが。
重要な事を聞いているかもしれない。
「コモリさん。お話伺ってもよろしいですか?」
「ワシを疑うのか!? これだから若造は!」
なんで僕が話しかける人は、みんな疑われると思っているんだ?
それに僕を若造扱いされるほど。歳も取っていないだろう!
「コモリさん。耳が良いですよね?」
「おう! ワシの手にかかれば! 30キロ先の音も聞こえるぞ!」
それは嘘だろうな。
「停電前に変な音を聞いたと、ユキが言っていたんですけど。何か聞いていませんか?」
「おう! 聞いたとも! 結構大きな音だったからな!」
う~ん。そうなると。余計僕が聞いていない事が、不自然な様な。
いや、この人の大きな音は当てにならないな。耳が良いから。
「アレは間違いねえ! 安全装置が落ちた音だ!」
「安全装置?」
「あ~。お前さん。ブレーカーが落ちる原理知っているか?」
僕は頷いた。強い電圧がかかった時。
電球とかが壊れなくするために。電線の動きを遮断する。
そのため全ての電気へ供給がなくなる。だった気がする。
「魔王城にはヒューズ以外にも。安全装置が存在する」
「なんで二段構えを?」
「雷が落ちた時に備えてだ! 何せ魔王城付近はいつも、雷が降っているからな! 雰囲気のために!」
あの雷、いつも降っているなと思ったら。
特に意味はなかったのか。
「アレは魔法でコントロールされたものだから、普通は落ちないが。偶にミスで落ちる」
「迷惑な雰囲気作りですね」
「毎回ヒューズを飛ばされたら叶わんからな。まず安全装置が作動するようになっている!」
それは偶になのか? しょっちゅう落ちているのでは?
「特定以上の電圧がかかった時。それ以降の電気の流れを遮断する仕組みだ」
「へえ。何ボルトくらい、平気なのですか?」
「大体二万ボルトだな」
二万ボルト。微妙な数字だな。
「ああ! テメェ今、静電気が流れたら、一発アウトと思っただろ!」
「一瞬思いましたね」
静電気は最大で三万ボルトまで到達するからなぁ。
もっとも導電率の良いものに、静電気が起きるとは思えないけど。
「良いか! 安全装置は、静電気が流れないように! 常に湿度を保っているんだよ!」
湿度が高ければ、空気で放電するからか。
逆に言えば。湿度が無ければ、静電気が流れるのか?
一体どんな仕組みなのやら。
「安全装置が作動したってことは。飛んでもねえ電圧がかかったってことだよ!」
二万ボルト以上の電圧がかかった。
そのせいで安全装置が作動して、停電したと。
「犯人はとんでもねえ、電気魔法を使えるってことだ!」
本当にそうなのか? 確かに二万ボルト使うと、それなりの魔力は必要だが。
そもそもそんな高電圧を、魔法で作ったのか?
「そういえば。停電になってから、誰も会場を出ていないのに、電気が付きましたね」
「おう! 安全装置は、電圧がかからなくなってから。十分ほどで再び電気を流す」
誰かがブレーカーを上げた訳じゃない。
となると。やはりユキが聞いたのは、安全装置が作動した音なのだろう。
「他に妙な音は聞きませんでしたか?」
僕は音魔法について、気になった。
変な音は特に聞こえなかったはずだ。
「いいや。"何も聞こえなかった"ぜ」
「そうですか……」
超音波も聞けるコモリさんでも、聞こえない音か。
もしかしたら。音を出すこと自体が目的ではないのかもしれない。
音波だけなら。何か利用法があるはずだ。
あるいは。コモリさんが嘘をついているか。
証拠がない以上、これ以上は詰められないけど。
「ありがとうございます。コモリさん」
「ふん! 普段頼りないくせに。こういう時は積極的なんだな!」
「うっ……」
やっぱり普段は、頼りないと思われていたのか……。
まあ、昔から悪魔っぽくないとは言われていたけど……。
「魔界裁判でも、それくらい積極的にしろよ。じゃなきゃ、ワシが苦労する!」
「まあ、善処しま……。ええ!? コモリさんも魔界裁判に出るんですか!?」
「あたぼうよ! ユキの奴にも参加させてやる!」
うわぁ。面倒だな。この人を黙らせるのは、難しい。
他に誰が参加するのだろうか?
アドさんは当然として。言い出しっぺのファー様は出るだろう。
それと。停電前に僕に話があると言って、ファウスト様。
あの魔物はこの事件を、どう捉えているのだろうか?
「若造。色々考える時間が欲しいだろうが。時間切れのようだぜ」
「え?」
コモリさんの宣告に、僕は情けない声を出した。
「知らねえのかよ。魔界裁判は事件後、一時間後に行われるんだよ」
「そんなルールがあったんですね」
「ああ。万が一犯人を自由にして、証拠を消されたらいけないようにな」
一時間の縛りをして、行動を制限している訳か。
捜査時間が一時間しかないって、大丈夫なのか?
「勿論一回の裁判で、判決が出ない時がある」
「その時はどうするんですか?」
「もう一時間、捜査の猶予が与えられる。これの繰り返しだ」
うわぁ。結構ハードスケジュールなんだなぁ。
だから誰も魔界裁判をやりたがらない訳か。
衛兵に任せれば、事件は解決してくれるもんな。
それをファー様は、自らやろうと言い出した。
その意図は。あの魔物の事だから、きっと。
面白いと思ったからなんだろうなぁ。
「あと五分で一時間だ。そろそろ俺達も移動せにゃならん」
五分か。これ以上調査を続けるのは、難しそうだな。
正直な話。まだ分かっていない事実は多い。
魔界裁判では、捜査に参加した全員の意見が聞ける。
そこで新しい事実が分かれば良いのだけど。
僕の情報だけじゃ、犯人までたどり着けそうにない。
「ユウキ君……。大丈夫?」
不安そうに僕を見つめる、ルシェ様。
僕は彼女と約束をした。これは呪いなんかじゃない。
僕がこの事件の真相を解き明かすって。
だから僕は笑顔で、彼女に応えた。
今はまだ分からなくても。この裁判で明らかにするしかない。
「大丈夫です。やってやりますよ!」
僕は深呼吸をして、魔界裁判の場へ向かった。
場所はホールの中央。全員が見渡せる場所だ。
既に魔界裁判に参加するメンバーが集まっている。
ファー様とファウスト様。ファウスト様が出るのは意外だったな。
ルシェ様が僕の補助のために参加している。
これで魔王族は全員参加することとなったのか。
後は初動捜査に参加したアドさん。
意気揚々と挑むコモリさん。彼に無理矢理連れてこられたユキが参加している。
このメンバーで話し合って、犯人となる人物を考える。
「すんなり話が進む。なんてことはないよなぁ」