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2-22 りんご

「うっ……」


「クロヴィス!?」


「ごめん、やっぱりまだ無理みたいだ……」


 ぐったりするクロヴィスを大きなクッションにもたれかけさせる。


 非公式な皇族の居室。大きなソファーに辛そうに座るクロヴィスの目の前には、美味しそうなりんご。突然りんごが食べたいと言い出したクロヴィスの為に、私が剥いたものだ。でも、この身体の状態だと食べられないのかもしれない。


「無理しないで。ベッドに戻る?」


「いや、大丈夫だよ。ごめんねアーシェ。りんご食べさせてくれる?」


「えっ?いいけど、食べられる?」


「口に入れてくれたら食べられそう」


「そう?」


 サクッとりんごにフォークを刺してクロヴィスの口元に持っていくと、クロヴィスは嬉しそうにパクリと食べた。もぐもぐと満足そうに頬張っている様子からして、果物を食べられるほどには回復したんだろう。元気になってきたようで良かったと、ホッと胸を撫で下ろした。


「……アーシェ」


「なんでしょう、皇帝陛下?」


 皇帝陛下が変な顔をしている。首を傾げると、皇帝陛下はより絶妙な顔をした。


「あのね……多分クロヴィスは普通にりんご食べれるよ?」


「そうですね、食欲が戻ってきたようで良かったです」


「そうじゃなくて……フォークぐらい、」


「余計なこと言わないで頂けますか父上」


 何故かクロヴィスが怒り始めた。良く分からず再び首を傾げると、お兄様が呆れたように笑った。


「俺の妹可愛い」


「は!?やめてくださいお兄様、気持ち悪い」


「酷くない……?」


 そのしょげた様子を見て、ドムさんがほっほっほと嬉しそうに笑う。そしてその隣には、目覚めたばかりのレオナルド殿下。レオナルド殿下は埋もれるようにぐったりとソファーにこしかけたまま、呆然と宙を見つめていた。


「私が寝ている間に色々ありすぎてついていけないんだけど」


「殿下が寝てから半年近いですからねぇ」


「とにかく……アーシェ嬢がクロヴィス殿下を従えるまでに成長したのがびっくりだよ」


「従えてませんよ!?」


 ギョッとしてレオナルド殿下を振り返る。レオナルド殿下は半年間も寝ていたせいでやせ細り体力がかなり落ちていた。一人がけのソファーに沈み込む姿が痛々しい。


「レオナルド殿下、体調はいかがですか?」


「ありがとう、体力の低下が甚だしいが、辛いところは特にないよ」


「良かったです。レオナルド殿下もりんご食べますか?」


 途端にその場の空気が変になった。えっ何か変なこと言ったかなとキョロキョロしていると、メリッサがサッとりんごを差し出した。


「こちらシェフに切らせたりんごでございます。エリック様、レオナルド殿下にお渡し下さいますか?」


「そっ……そうだね!任せて!!!」


 何故かお兄様が慌てながらレオナルド殿下にりんごを食べさせ始めた。何故か冷や汗をかいている。


 なんなんだ……


 状況が読み込みきれずにいると、皇帝陛下がごほんと咳払いをした。


「とにかく……満身創痍な者もいるが皆集まれて良かった。早速だが本題に入ろう。レオナルド殿、トルメアで何があったか説明してもらえるか」


「えぇ……もう半年も前のことになってしまうようですが。私は帝国を訪れた後、父上が倒れたと聞いて、急いで国に戻りました」


 レオナルド殿下は掠れた声で語り始めた。陛下が難しい表情で相槌を打つ。


「国王には会えたのか?」


「会えました。でも、父上は既に深い眠りについていました。急いで筆頭聖女に――アーシェに診てもらおうとしました。明らかに異常な状態でしたから、ただの毒や病気ではないと思ったのです。でも、父上の寝室を出る前に、私も気を失ったようです」


「気を失った?」


「えぇ……気がつけば、目の前には濃い霧がかかっていました。今思えば、それが私を深い眠りに誘う何かだったのでしょう。そこからはもう、記憶がありません。……エリック、続きを」


「承知しました。その先は私が話しましょう」


 レオナルド殿下に促され、お兄様が普段とは違う落ち着いた表情で語りだした。


「レオナルド殿下はその場で倒れたと聞いています。ただし、近くにはレオナルド殿下専属の護衛も潜んでいましたから、すぐにその場から連れ出したそうです。霧の術を生み出した術者は、同じように霧を吸い込むことを恐れすぐ近くにはいなかったようです。数人同じように倒れましたが、術者が近くにはいなかったため、なんとか殿下を部屋から連れ出せたそうです」


 お兄様の顔が暗く曇る。恐らく、倒れた者は既に行方不明に――殺されているのだろう。


 ぐっと手を握る。きっと、その中には聖女が――私の後輩たちも含まれているはずだ。


「アーシェ」


 握りしめた手にそっと手が乗せられた。ハッとして隣を見ると、クロヴィスがこちらを見ていた。


「握るなら俺の手にしなって言ったでしょ。傷つくよ」


「っ、ご、めん……」


「大丈夫。エリック殿、ごめんね、続きをお願い」


「はい……ありがとうございます」


 お兄様は予想外にも優しく目を細めた。からかわれると思ったのに、そうではないみたいだった。お兄様はそのまま真面目な顔で話を続けた。


「――その後は悲惨なものでした。元々レオナルド様のことはそのまま殺すつもりだったのでしょう。次々と刺客が襲ってきたそうです。護衛たちは眠るレオナルド殿下と共にすぐに身を潜めました。とにかく暫くは身動きが取れなかったそうです。……筆頭聖女アーシェが追放されたのを知ったのは、アーシェを逃がした後の私と合流してからだったそうです」


「……その術を解ける私は、本当に都合が悪かったのね」


 呪印が刻まれていた腕をさする。レオナルド殿下にも、ロマネリコ卿と同じ固定化の光魔法が使われていた。それを解けるのはおそらく今は私だけだ。つまり、唯一治癒できる私を確実に殺すために、無理矢理に冤罪を作り上げ、呪印で国外逃亡を防いで国に縛り付けた上で確実に殺したかったのだ。


「……アーシェ嬢にこうして会うことができて、本当に良かったよ」


「レオナルド殿下……お助けするのが遅くなり、申し訳ごさいません」


「何言ってるんだい、君は想像以上に私を助けてくれただろう。光魔法もだけど……今は帝国の次期皇太子妃として、私を助けてくれている」


 レオナルド殿下はそう言って優しく微笑んだ。ほんのりからかうような雰囲気も感じ取って思わず赤くなる。


「っ、それは、そう……です、が……」


「ふふ、本当は君に敬語を使わないといけないんだけどね」


「それは結婚してからにしてください!」


 真っ赤になってそう言うと、隣でクロヴィスが嬉しそうに笑った。


「早くしないとね?」


「えっ?そ……そうね……?」


「うちの妹ちょろすぎるけど大丈夫かな」


 今度はお兄様がひっひっひとからかうように笑い始めた。それを赤い顔でにらみつける。


「ちょろくなんてありません!ただクロヴィスが格好良すぎるだけで……」


 言ってからより恥ずかしい事を言っているのが分かって言葉がしりすぼみになる。やってしまった。人前で何言ってるんだ。次期皇太子妃として不適切な振る舞いをしていまい、怒っていないだろうかと恐る恐るクロヴィスの方を見る。


 ばふ、と顔にクッションが押し付けられた。


「んぐ!?」


「……ごめん、エリック。話し続けて」


「ふふふふふ、いいんですよそちらも続けて頂いて」


「いいから」


 暗闇の中でお兄様とクロヴィスの会話を聞く。もごもごとクッションをどけようとしたけどうまくいかず、結局ぐいっとクロヴィスの胸に抱き寄せられてしまった。とてつもなく恥ずかしいのに、それでも邪険にできず、そのまま胸の中に落ち着く。


「では、砂糖吐きそうなんで、苦い話続けますね。……その後、眠るレオナルド様と合流した私は、聖女達にレオナルド殿下の身体を隈なく調べてもらいました。しかし、何も出てこなかった。追手も差し迫り、このまま留まっていても危険なだけであると判断し、私たちはトルメアを出ることにしました」


「眠るレオナルド殿下をお連れしての移動は大変そうでしたぞ。儂が合流した時には、レオナルド殿下は荷車の樽の中におりましたな」


 顔をしわくちゃにして、ほっほっほとドムさんが笑った。レオナルド殿下は少し恥ずかしそうにドムさんの方を見た。


「そうか……賢者ドムに会えたのはどこでだった?」


「帝国の下町でしたな。ちょうどお見かけしたものですから」


「えぇ。逃れる先は、最初からトルメアが手を出しづらい帝国に逃げると決めていました。もしかしたら帝国の助けも借りられるかもしれませんし。そして、複数国経由してやっと帝国に落ち着きました。離島のアーシェに使いを出したのもその頃です。……離島にアーシェがいないと便りが来て真っ青でしたよ。居ても立ってもいられないと立ち上がったら、新聞を持ったドム爺が突然現れました。島を出ない隠居した賢者がなんでと驚いて、まさかドム爺に託した妹に何かあったのかと呆然と新聞を手に取ったら……妹が次期皇太子妃になっていました。あやうく叫び声で刺客に見つかるところでしたよ」


「ほっほっほ、いやぁ、死ぬほど驚いたエリック殿が見れて儂は大満足じゃったぞ?」


「ほんと意地悪だよねドム爺……昔から人を驚かせるのが好きだから」


「そうでしたかなぁ」


 にこにこと笑ったドムさんは、一息ついてから私の方に目を向けた。優しいその目に、何か真剣なものが宿って、はっと息を詰める。


 ドムさんは、目を細めると静かに口を開いた。


「――では、この先は儂が話そう。アーシェお嬢様が解いた固定化の光魔法は、トルメア王国初代聖女……儂の妻、大聖女エレナが生み出した禁術じゃ」


「禁、術……」


「よろしいか、レオナルド殿下」


 レオナルド殿下が促すようにそっと頷く。それを確認したドム爺は、静かに話を続けた。


「レオナルド殿下が眠り続けていたのは、アーシェお嬢様が解読した通り、睡眠薬の効果を固定化する光魔法によるものじゃ。元々この固定化の光魔法は、大聖女エレナが難病の治癒のために生み出したもの。ただし、その危険性を加味してすぐに禁術としたものだった。――当時、固定化の光魔法を覚えたエレナの弟子が悪用し、固定化され、認識阻害を付与した睡眠薬を開発して悪用してしまったからじゃ」


「っ、それって」


「そう、それが今回のレオナルド殿下や――恐らくトルメア国王が臥せっておられる原因だ。他にも悪用された光魔法薬はつくられたが、この眠りの光魔法薬が最も危なかった。誰も光魔法に気づけず、体に悪いところも見つからない」


 コト、といくつかのガラス瓶がテーブルに置かれる。仄かに光るそれらは、少しづつ色が違うようだった。キラキラと金粉をまぶしたような光が薬の中に見え隠れする。


「これがイザーク殿下の居室から見つかった睡眠薬。そして、これが港の娼館で手に入れた惚れ薬だ。どちらも同じ光魔法の魔力が宿っている」


「同じ魔力?」


「そう。光魔法は術者の魔力により、少しずつ光の色が違うだろう?」


 ドムさんはもうひとつガラス瓶を取り出して並べた。ただ白く光る魔法薬が金粉をまぶしたような魔法薬の隣に並ぶ。


「ドムさん、それ……」


「そう、砂浜でアーシェお嬢様に光魔法を付与してもらった解毒薬じゃよ」


 ドムさんは優しく笑った。もう一度三つの瓶に視線を戻す。


 美しい金粉をまぶしたような魔力をまとった魔法薬。その隣で、見栄えが悪いとローランド殿下に罵られたただの白い魔力が並び、視線を床に落とす。


「アーシェ?」


「っ、ごめん、なんでもないの……その、あまり綺麗な魔力じゃなくて恥ずかしいなって」


「綺麗な魔力……?」


 クロヴィスがまた薬瓶に視線を戻した。あまり見ないで欲しいと、不安に思ってクロヴィスの顔を見ると、クロヴィスは不思議そうに首を傾げていた。


「潔くて凛とした色で、綺麗だよ?本当に、アーシェそのまんまの色って感じだよね」


 その言葉に息を呑む。クロヴィスは、愛おしそうに目を細めた。


「確かに隣の金粉の魔力も綺麗だろうけど。好みの問題かもしれないけど、とにかく俺は白い方が好きだな。混じり気のない清々しい朝の光みたいで」


 そう言ったクロヴィスの言葉に、ふわりと目を見開いた。


 混じり気のない、清々しい色。ローランド殿下に、ロザンデの光と比べて色気がないと言われた、まっさらな光。なんの魅力もない光だと思っていたのに、そんな風に言ってくれるなんて。


「ほっほっほ、さすがクロヴィス殿下じゃなぁ」


 愉快そうにドムさんが笑った。


「あまり知られていないがな。エレナの魔力もあっさりしたこんな色の光じゃったよ?――混じり気のない、まさに光そのものの色じゃ。アーシェお嬢様の魔力は、一番上等な光じゃて」


「さっすが俺の妹。だと思ったよ」


「そうじゃろう?」


「――賢者ドム」


 クロヴィスが重みのある声を出した。その声に、ドムさんがゆっくりと意味深な視線をクロヴィスに向ける。


「……気づきましたかな」


「あぁ……つまり、魔法薬に交じる魔力の色で、この術をかけたものが誰なのかわかるということだね」


「御名答。――これでアーシェお嬢様の自作自演だと騒ぎ立てる輩は黙らせられましょう」


 満足そうに答えたドムさんは、ゆっくりと頷いた。それから、遠くの敵を見定めるように、皺に囲まれた穏やかな瞳に、鋭い光を宿らせた。


「実は、クロヴィス殿下とアーシェお嬢様が旅立った後で、島では別の禁術の薬が使われたのです。――光魔法で固定化された、狂化の薬です」


「――っ、それって、まさか狂化の違法薬を固定化したもの!?」


「あぁ、そうですじゃアーシェお嬢様」


「みんなは!?島のみんなは無事なの!?」


「大丈夫、アーシェお嬢様の光魔法を付与した解毒薬で、みんなケロッと元気になりましたわい。むしろ前より元気になったってタニアは笑っておったよ?」


 優しく微笑むドムさんに、ほっと胸を撫で下ろす。


 でも、まさかこんなに禁術の薬が出回っているなんて。狂化の薬、そして、惚れ薬と、睡眠薬。その悪意のある薬に、ぐっと顔をしかめる。


「……この三つが古くから禁術とされていた光魔法薬なのか?」


 クロヴィスがドムさんに静かにそう言った。ドムさんは穏やかな表情で――でも、強い感情の宿る瞳をクロヴィスに向けた。


「……それが違うんですじゃ、クロヴィス殿下。惚れ薬と睡眠薬は確かに過去も作られ、固定化の光魔法そのものと共に禁術とされました。だが、狂化の薬は、その薬自体が新しい。つまり、新しく悪意を持ってつくられたもの」


「新しく、つくられたもの……?」


「えぇ。確かなことは言えません。だが、確実に言えるのは、『禁術の書』を閲覧できるのは厳重に管理されたトルメアの禁書庫の最奥の棚を開けられる王族だけ。そして、新しく狂化の魔法薬を作るのなら、筆頭聖女に近い光魔法の実力が必要です」


「……ドムさん」


 ドムさんに声を掛けると、ドムさんは静かに私の方に顔を向けた。その表情を見て、私の予想が正しいことを悟る。


「――禁書庫を開けたのはローランド殿下で、禁術を使ったのは、ロザンデなのね」


「そうでしょうなぁ。ただ、あの者たちではいささか役不足だ。恐らく、悪知恵を働かせたのは、宰相ドラコスなのでしょう。奴なら、戦時中に使われた狂化の薬を悪用するという頭が働くでしょうからなぁ」


 優しい口調とは裏腹に、部屋の空気が重くなる。クロヴィスは、忌々しげに目を細めた。


「……下劣な真似をする」


「えぇ……儂は、これを作り出したものを赦す事はできない」


 そう言ったドムさんは、島で見た穏やかな様子とは違う、意志の有る賢者の表情で立ち上がった。


「――大聖女エレナは最後まで己の生み出した禁術の行く末を案じていた。それはトルメア王家により固く守られているはずじゃった。この金粉の交じる光魔法薬は、明らかに悪質な目的を持って作られたもの。隠居をした身だが、今一度四大国の戦を鎮めた賢者として、もう一度表舞台に戻ろう」


 そう言い切ったドムさんの声に応えるように、陛下もゆらりと立ち上がった。


「恩に着る、賢者ドム。帝国も全力を出そう。この魔法薬の悪用は絶対に避けねばならない――多くの臣下達を眠らせ、アーシェを……私の可愛い娘を蔑ろにした者達を一掃しなければな」


「えぇ……帝国とトルメアを乱し聖女の任を汚し――そして俺の妹の努力を踏みにじり、雑に捨てた挙げ句に傷付け命を狙った事、万死に値する」


 お兄様も、目にギラリと殺意を宿した表情で立ち上がった。一気に殺気立った空気に、慌ててクロヴィスに助けを求めて隣を見て――私はひゅっと息を呑み込んだ。


 クロヴィスは、恐ろしく美しい顔で、冷たく微笑んでいた。


「そうだね。万死に値する。でも、楽に死ぬ前に、たくさん反省してもらわないと。――死ぬよりも恐ろしいことなんて、この世には沢山あるからね」


「なるほど……それはいいですね」


 お兄様がクロヴィスと同じような恐ろしい顔で頷いた。それに呼応するようにクロヴィスもゆっくりと頷く。


「あぁ。――俺の周りの者達とアーシェを傷つけたこと、地獄の果てまで後悔させてやる」


 凍てつく空気が周りを満たす。クロヴィスの氷のような表情にぞっとして、助けを求めるようにアイゼン陛下に目を向けると、陛下は嗜虐的な表情でニヤリと笑っていた。


「なら、その方法もちゃんと考えないとな。そうだ、島流しなんてどうだ?」


「それじゃあご褒美になりませんかな?」


 ドムさんが笑ってない目で笑いながらそう答えた。確かに、とクロヴィスがまた頷く。


「離島のバカンスなんてさせてあげないよ……まずは捕らえ次第、地にめり込むまで永遠に土下座させてやる」


 そうして、クロヴィスはゆらりと立ち上がった。


「禁術をこのまま蔓延らせて置くわけには行かない。これ以上の被害の拡大はなんとしても抑える。体制を整えすぐに――っ、」


「クロヴィス!」


 ぐら、と倒れるクロヴィスを支える。


「大丈夫!?無理しないで!」


「っ、早くトルメアに行こう」


「それはそうだけど!あと数日は寝てないと駄目よ!」


「……光魔法で立たせて」


「だめに決まってるでしょう!」


 バタバタと駆けつけたジョセフさんがクロヴィスを支えてベッドの方へ連れて行ってくれる。それを慌てて追いかけた。


 ぱたんと奥に続く扉が閉まる少し前。背後から、「父上よりアーシェ嬢の仇か……そうだよね、次期皇太子妃だったわ」「っ!レオナルド殿下!申し訳ごさいません!」というお兄様の焦った声が聞こえた。

 

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