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Hold【狂気】オブとレオノラ


Hold ホールト(優しく愛らしく)(独)


男は森の中を歩いている。気分は破れかぶれって言う感じだ。森の奥で黄色い屋根の小屋を見つける。懐かしさで胸が一杯だ。駆け出したいと思うのに、反面マントを後ろで誰かが引っ張っているかのように足が重くなる

ああ、辿り着いてしまった。どうすれば良い?自問するが、結局は勝手に頭が行動を制御する。急に何事も無いかのように歩き出す

わかっている。何をすれば良いのか。何人もこの手にかけてきた。それらと変わりない。かつて妻だったから、だから何だ。所詮は人間だ。彼女が魔女では無い事くらいわかっている


なぜだ。なぜ魔女では無いのに命を奪わなければならない

だからだろう。だから、苦しませない為だ。拷問にかけられて苦しむよりもあっさり死んだ方が遥かに慈悲だろう

何を言っている、今更。生き方を変えられない。俺は変われない。だから離れたんだ。あれ以上傷つける前に…


もう何度自分と問答を繰り返しただろう。どんなに自分を責めたろう。だが仕方ない。俺自身が生きる事が全てだ。何が重要かって?食べるものがあって、金があって、俺が生きる事が保証される事だ。それには文句無いだろう?

頭の中で繰り返される声は沈黙する

そうとも。それが一番正しい


男は小屋の扉を叩く

「オブ。オブでしょう」

駆け寄って来て己の冷たい手を温かい両手が包む。その指に自分が贈った指輪がまだ着いているのを認める

彼女の纏う細やかな空気に触れると、自分の周囲の空気が冷たく荒々しいのが対比されて良くわかった


「寒いの?何か飲む?」

離れていた時間も変化も無かったかのように普通に接するレオノラの美しい笑顔を見ると、複雑な気持ちになる。出て行った事が嘘のようだ。その暖かで包み込む甘美な香りに引き込まれる。心の奥でそれをずっと思い、求めていた自分を見い出す。だがそれは俺に与えられるべきではない。もう一度足を踏み入れたら決して戻れはしない。だがそれこそ破滅の道だ。俺を甘やかし、軟弱にし、生きる為に戦う気力を奪うだろう…。ハシリの様に。違う、俺は奴とは違う

だからそれを破壊しなければいけない。何故ならそれが俺だから。多くの命をあやめておきながら、今更自分がを受け取れるなんて思うほど思い上がってはいない。当たり前だな。俺がされた側なら、決してそうはさせないだろうよ



レオノラが引いてくれた椅子に座りながら言った

「レオノラ…相変わらずだな。指輪、まだ着けているのか」

指輪を着けていなければ、きっと捨てたに違いないと思えた。俺のことを諦め忘れてくれたと思えた。だがそれは未だレオノラの指に収まっていた


レオノラと会話をしながら、頭の中ではさっき区切りがついた筈の問答がまた始まる


だからこそ俺がやるべきだ

彼女と共に逃げればいいじゃないか、お前が守ればいい

幾度となく繰り返された俺の頭の中の言い合いだ


またレオノラを傷つけるような事を言う。彼女の悲しそうな顔見ては自己嫌悪に陥る


もううんざりだ。俺の勘は実行せよと言っていた。だがその結論に違和感を覚える俺も同時に居た。だからずっと迷った。

こんな自分では生きていけない。全ての原因はレオノラなんだ。この女が、俺に教えたんだ、絶望の本当の意味を


レオノラに慰めの接吻をする。自分の命を奪おうとする相手に身を任せるなんて、気が知れない。なぜ怖れないんだ、この俺を。命を乞わないんだ。レオノラの無防備さが腹立たしい。それなのに、その身体の温かさを抱き締めてそれに溺れていたい自分も、もっと腹立たしいんだ


レオノラは突然身を離した

「どうした」

「貴方はどうなの。貴方は私に死んで欲しいの?」

「ああ、死んで欲しいんだ」

俺は腰の剣に手を添える。すると今まで思い悩んでいた心のモヤが一気に晴れた。そうだ、やれば良いんだ。いつもそうじゃないか。生きている事で誰もが飢え、失い、苦しんでいるんだ。見せかけの希望なんて何の役にも立たない。これでレオノラを苦しみから救う事ができる。俺への期待も、これから起こる残酷な運命からも。悩むことなど何もない。命を解放することこそ、命に対して俺ができる唯一の正しい道だ。そこには美が存在する


俺は一気に剣を鞘から抜いた。剣は美しく煌めく。そうだ。これに委ねてしまえば、気付いたら終わっているんだ


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