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Hold【汝は誰か】凛と颯雅


Hold ホールト(優しく愛らしく)(独)


目を開くと、畳の部屋だ。既に充分明るかった。なかなか切り替えが効かないが夢で良かった。本当に

だが、何だ、この変にリアルで嫌な感じの夢は

前世のようだが前世では無い。時代は現代だ。まさか、これが凛の言っていた繰り返しの人生の一つか。今まで何も覚えていなかったのに。凛が神の記憶を返してくれたから、自分も思い出すようになったのか…


あの妻という女性は、顔立ち違うけど、凛だな

それから、自分は嫌な性格だ。自己卑下して、劣等感あって、自信が無いのに妻の意見をちゃんと聞き入れない。あれが俺なのか…

三十代位かと思った。だから、もしあれが今に続く未来だと言われても、不思議に思わない

そう思うと怖ろしい。自分の奥にああいう考えや思いがあるのだろうかと



確かに寝る前に自分は願った。気づかせて欲しいと


昨夜、颯雅は自分の内側の逸彦と共に、凛と実穂高を抱き締めた

前回よりはずっと近付いたと思うが、それでもやはり壁を感じた。それは凛も同じだった

何が自分達を隔てているんだろう

前は逸彦だけの問題だと思っていた。自分が神だと知った後には、もっと複雑な理由があるとわかった。記憶には無い自分がやらかした事。それをどうすれば良い?自分では無い自分がやった事を、償うのか?責任取るのか?


凛は言った。幸せになりましょうと


そうする事が責任を取る方法であり、命の望む世界になると


だが颯雅は納得いかなかった

何が自分を怖れさせている?

それを気付かないと進めないと思ったのだ

その答えがこの夢で見せられた内容か…


もし、ここで夢の中で感じた愛への憎しみを手放すことが出来なかったら、二人の幸せは遅れることになる。もしくはまた同じことが起こるだろう。二人は夢と同じような道を歩むに違いない。颯雅は確信することが出来た。まだ結婚もしていないが、凛と別れて生活することなど考えられない



目覚ましのアラームが鳴り始めた。とにかく起きよう


颯雅は遅番だが凛は早番だった。シフトが同じなら凛の部屋に寄って夢の話を簡単にでも良いからしたかったが、凛は既に食堂で仕事をしている。颯雅は身だしなみを整えると、食堂へと向かった。すると廊下で丁度エンヤが部屋から出てくるところに出くわした


「おはようございます。今日もいい天気ですね」

「おはよう。そうだね。暑くなりそうだ」


二人は挨拶すると、そのまま階段を降りて食堂へと向かう。食堂は混雑していた。同じ時間帯でも混雑状況は毎日違う。朝食開始30分くらいで8割くらいの人が食堂へ来ることもあるし、その逆に終了30分前に混雑することもある。颯雅は不思議に思ってその理由をあれこれ考えてみたが、結局判らなかった。そして調理場はそれに合わせて料理を作っていく必要がある。作り置きをある程度するとはいえ、短時間に大量の食事を作るのはやはり大変だ。颯雅が調理場を覗くと、シロさんは既に戦鬼となって目が血走っていた


早番の凛とちひろは目まぐるしく働いていた。颯雅とエンヤは直ぐにその手伝いへと入り、食堂へ来た人を捌いていく。最後のお客さんへ提供が終わると、今度は片付けへと全員がシフトしていく。片付けと言ってもまだ食べている人はいる。周囲へ気を配りながら食器の片付けは勿論、テーブルの上にあるナプキンなどの補充をしつつ、バックヤードでは飲み物の棚卸しや補充、食器類の洗いや片付け、夕食に使用する食器類の用意などやることは多い。皆で分担しながら、最後のお客さんが食堂を去っていくと、やっと休憩になる


「食事にするよー」

シロさんの声に皆はお盆に自分の分を取って席に座る


「おはよう颯雅君。早い時間にお客さん集中して忙しかったね」

凛は颯雅の前に座りながら、笑顔で挨拶する。なんて素敵な笑顔なんだ。今朝見た夢の重苦しさが頭から吹き飛んでしまった

「そうだね。おはよう凛」

結婚したら毎日こんな風に凛の笑顔を見ながら食事ができるのか。夢のような世界だ。何か話さないといけない事があったような気がするが、まずは食事だ。それからで良いだろう



今日の掃除はエンヤさんと一緒だ。それとなくワカナさんの事も聞いてみたい


二人は分担して部屋の掃除を始める。今日は掃除のパートさんが一人お休みなので、二人で布団上げだけでなく部屋とトイレ浴室を掃除していく。颯雅はエンヤにどうやって話を振ろうと考えていたが、どう切り出して良いのか判らない。するとエンヤから尋ねてきた


「颯雅君達は休みの日何処かへ遊びに行った?」

「ええ、レンタカー借りて南の島にフェリーで渡ってきました」

「もう一つの空港がある島?」

「そうです。あの近くの海岸沿いの海と、こっち戻って東平安名崎灯台へ」

「初めて宮古来たのにあの島まで行ったんだ。あの海岸沿いにもダイビングスポットあってね。ワカナさん誘って二人でシュノーケリングしてきた」

エンヤはその景色でも思い出したのか、楽しそうに話している

「昨日のお休みの時ですか」

エンヤは頷く

「ワカナさんは初めてで感動して泣いてたよ。僕も釣られて泣いてしまって。一人で何度も行った事があるけど、あんなに美しいと思ったことはなかったなぁー」

颯雅は二人で行ったから感動したのでは?と言おうかと思ったが黙っていた


「僕たちは海に潜っていませんが、僕もあの景色を見て泣いてしまいました」

「そうなんだ。なんだか懐かしいというか、以前から知っているような、と思うよね」

「ええ、僕もそうです」

エンヤは改めて颯雅の顔を見た


「僕らは何かここで縁があるのかな?」

エンヤは颯雅に話を振った

「きっとあったのだと思いますよ。ずっと遠い昔に」

「ははは、確かにそうだ。颯雅君と凛さんを初めて見た時、どこかで会った事があるような気がしていたんだ。ワカナさんは君達が仲良くしてるのを見ていると、胸の奥から喜びが溢れてくるようだ、と言ってたよ」

颯雅は何と答えるべきか迷っていた。だが、確実にエンヤとワカナの記憶が織られている、そう感じた



休憩に部屋に戻ると、凛が待っていた

「お帰り」

出迎えてくれた凛に、エンヤとワカナの事を報告する。凛は嬉しそうに笑みを浮かべ言う

「付き合い始めると良いね」

「雰囲気的にはもう付き合ってるみたいに見えるよね。今日ワカナさん夕方の便で帰るから、休憩時間二人で過ごすらしいよ」


二人はエンヤとワカナのカップルへの祝福に満たされたが、ひとしきりそれに浸ると、凛は颯雅の顔を覗き込む

「今朝、大丈夫だった?颯雅君」

「あ、いや、何とも無いよ…と、そうだった。話あったんだ。どうしてわかった?」

「朝食の時顔曇ってたから。何だか違う人みたいに見えたし」

「そう、違う人に見えたんだ。違う人なら良いんだけど…夢見たんだ」

「夢?どんな」


颯雅は夢の話をした

「見た後、凄く嫌な気持ちになって。同じ事をしてしまったらどうしようって不安になった。これは凛が以前に言ってた、繰り返していた人生?僕は凛だけがそれをやったのかと思ってたから…」

凛は少し考え込むような表情で目を閉じていたが、やがて言った

「そうよ。私にも同じ時の記憶があるようだわ。私の中に居た神が一緒に体験していて、それを颯雅君に返したから思い出せるようになったのね。颯雅君が思っていたので間違いないと思うわ」

「じゃあ、リスのいる動物園での暗殺された記憶も、二重橋での記憶も、思い出せる?」

凛は頷く

「多分、思い出そうとすれば。この前の、もう一つ颯雅君を毒殺して、立場を乗っ取って私が言い寄られたのも」

「そうだった。その時の人生、凛は詳しく話さなかった」

「うん。私もまだ消化出来てないし、他に考えること一杯あって忙しかったから」

凛は少し目がぼんやりしていた。何か引っかかるのだ、何があるんだろう

「今朝その夢を見て目が覚めた時は、昨夜寝る時に願った答えかと思った」

「何を願ったの」


「逸彦と実穂高の間の壁が何か気づかせてくれって」

「すごいのね。それで何だと思った?」

「うん…。夢の中の自分は、愛への憎しみを感じていた」

凛は少しぎょっとしたように颯雅を見た

「何が彼をそう追い込んだかわからないけれど、彼は最後妻に別れると言ってた。その後、家を出た妻は亡くなったのかも知れない。わからない。そこまでしか見なかった」

「そうなの…」

凛は俯いて目をまた瞑った。颯雅はまた不安が再燃する


「ねえ、それは僕らの未来ではない事は確かなんだよね。一応、顔とか違う感じはしたけど」

「未来ではないわ。ある意味過去よ」

「そうか、良かった」

颯雅はふうと息を吐く

「でも、また起こる可能性はあるわ」

「そうなの?」

「颯雅君が今言った事をクリアしなければ」

「愛への憎しみ?僕には有り得ないよ。過去は過ぎた事で、今の僕の人生って訳でも無い」


「別人だけど他人て言う訳でも無い。だって颯雅君がそれを他人事に言う時点で、認めていないって事だと思うわ」

そう言った凛が自分を直視しないのが颯雅は気になった

「僕が凛を追い出す?愛を憎んで?こんなに一緒に居たいと望んでいるのに」

凛は颯雅の顔を見てもう一度言った

「そうよね。そんな事する筈無いわね」

凛が言い直してくれてほっとする。だがどうなんだろう。なんだか凛にそう言われると安堵と共に急にまた自信が無くなる。なんだかさっぱりよく分からない。内側に尋ねてみようと思うが、誰も何も答えてくれない


少しして声が聴こえる

”汝は誰だ、颯雅”

実穂高分体の声だ

「えっ?僕は僕だけど?」

”左様、颯雅だな。して汝は誰だ?”

颯雅は問われている意味が判らない

「今、実穂高の声で僕は誰だと言われたけど?僕は僕ではないのかな?」


凛は少し考えていたが、答えた

「いつ、どこの颯雅君なのか、という事だと思う」

「?」

「判らない?実穂高が言っているのは、今朝夢の中にいた颯雅君なのか、その前の颯雅君なのか、一体どの颯雅君なのか?ということだと思うわ」

「僕が沢山いるということ?」

「そうであって、そうではないのよ。あなたは神、だけど様々な人格があって、その時々によって視点が変わるでしょ?今の颯雅君はいつのどの人格なのか?と聞いているの。颯雅君は祖をあまり好んでないけど、祖も神だから、颯雅君は祖であるとも言えるよ」

颯雅は頭を抱えた。神は唯一無二だが、それを表す人格は数多いることなんだな


「なら、凛を遠ざけようとするのも、一緒にいたいと望んでいるのも僕だ、ということか」

「そう、だから颯雅君が夢の中に出てきた颯雅君を他人だと思っているのは、間違ってもいないけど正しくもない」

「そうか、だから実穂高が僕が誰だと聞いたのか」

「そうだと思うよ」


颯雅は理解はできるが、直ぐにそれを受け入れられるとは思えなかった。特に祖が僕であるとは絶対認めたくない

「今直ぐに受け入れなくても良いと思う。そうなんだとわかれば」

「うん、努力する」


颯雅は頭をぶんぶんと振った

人格って難しいな。一体何を信じれば良いんだ。夢の中の人物も同じ悩みを抱えていたんだろう

「寝た方が良いのかな」

颯雅は言った。寝ながら整理できるかも知れない

「そうなの。わかったわ。部屋に戻るね」

凛が部屋から出ると颯雅は布団を敷いて、横になった


凛は自分の部屋で座り込むと、顔を覆って考え込んだ

強く言えない。自分だってそうなんだ。先ずは自分が愛される事への怖れを手放さなければ、颯雅に強く言えない

凛は自分の内面の感覚に焦点を当てる

その不安と怖れは何処から来るんだろう。何を思い出せば良いんだろう


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