Hold【行方】実穂高と水師、天鷲
Hold ホールト(優しく愛らしく)(独)
実穂高と水師は天鷲の邸に来ていた。水師は急ぎ京を出る事を勧めたが、実穂高は通りがかりに天鷲を訪ね現状知っている事を報告したいと望んだのだ
通された間の上座を天鷲は実穂高に譲った。天鷲は従妹の榮の病についての恩義があった。
「実穂高殿、先程榮の霊障についての文を貰ったばかりだが、早急なお話とは何であろうか」
天鷲はこの二人のただならぬ様子を感じていた。これから旅に出ると言うが、二人とも旅装ではない。実穂高は素足だった。荷物も少な過ぎる。実穂高は答える
「霊視した内容を伝えに参った。鬼討伐に参加した隊の者が、全滅したと思われる」
「それは誠か。鬼討伐は成し得なかったのか」
「いや、鬼は殲滅したと思われる。この地上にはもう鬼は居ないであろう…。だが戦った彼等ももう帰って来ぬだろう。鬼と戦って亡くなったか、鬼化したか」
「それならば、どうやって鬼を退治できたのだ」
「逸彦殿だ…恐らく最後はほぼ逸彦一人になったと思われる」
「では逸彦殿お一人は生き残って居られよう」
「それが、自害したようだ」
「何故…」
「生きる意欲を失ったようだ。これらは全て遠隔で霊視したこと故、麻呂はその地を訪れてみようと思う。そうなら供養せねばならぬ」
「左様か…玉記殿もか」
「心中お察し致す。力及ばず済まぬ」
天鷲は目を閉じる。その心の内では親友を失った深い悲しみが去来していた。榮に引き続き玉記、天鷲も辛かろうと実穂高はぼんやりそれを見ていた
だが天鷲は突然目を開けると、実穂高の近くに歩み寄り、その肩を両手で掴んで支えた。水師は思わず身構える
「しっかりされよ、実穂高殿」
「何を…」
実穂高はかなり驚いたが、天鷲との会話の間己は身が入っていなかった事に気づいた。気が抜けたままに現実が現実に見えていなかった。全てが空事で、霧の中に居るかのように感じていた
「実穂高殿は大事無いのか」
「ああ、大事無い…」
そう言い、天鷲の手を避けようとその手に触れた時、何か感じた。一瞬何か開いたような気がする。あれ、今何か…
実穂高は天鷲の顔を見詰める
「誠か。実穂高殿自身の方が、かなりこたえているように見受けられるが」
「…ああ、そう見えるのか」
実穂高は視線を逸らした
水師は気が気で無かった。天鷲が実穂高の肩を掴んだ仕草、その眼差し、実穂高を女として見ているのだ。天鷲は実穂高が女と知って、その上で好意を抱いている…
「供養に行かれるのならば、麻呂も供をしたいのだが…」
「いや、本当に…」
「我が実穂様をお連れする故、気遣い無用です」
水師が介入する。実穂高は思わず水師の顔を見た。決して口を挟んだ事など無かったのに
「天鷲殿、お気遣い感謝する。だが祈祷は麻呂の仕事故、天鷲殿の手を煩わせる必要はあらぬ」
実穂高がそう言うと、天鷲も渋々引き退がった
「そこまで言うならば。だがくれぐれもお身体大事にされよ。何か必要あらば文で知らせてくれ」
実穂高は頭を下げた




