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Unverziert【世界の眺望】


Unverziert ウンフェルツィールト(装飾音無しで)(独)


灯台の参観チケットを買い、二人は螺旋階段を登る。ぐるぐる回って目が回りそうだ。先を登る凛が少し息が切れてきた位にようやく一番上だ


「わあー」

凛が挙げる歓声を聴いて、後に続く颯雅も声を挙げる

「おー凄いな、これは。確かに絶景」

「ね!」


目の前に広がるのは空と海の青、その中に遠く白いさざ波が走る

それからエメラルドグリーンの珊瑚礁

正面もさることながら、右を見ても左を見ても海だ


「こっち側も良い眺めよー」

ぐるりと後ろ側に廻った凛が叫ぶ声が聞こえる

着いて行くと、島側を望む側からは、あたかも船の先頭から船を振り返ったかのように、海に浮かぶ島を見渡せる。本当に、ここは島の突き出た端っこの端なのだ


「凄いね。飛行機から見えた丸い珊瑚礁も見えるわ」

「ああ、あれね」

「綺麗…」

凛は無言でその景色を見詰める。その様子を見て颯雅は感じる


凛がその景色の美しさに感動し、心が歓喜で震えているのをわかる。だがそれは凛の心が純粋で美しいからだ。影が出来ない程に透明な心だからだ。俺だって美しいと思っているが、俺の目に映るこの景色は凛が見る程に美しいのだろうか

颯雅は自分をもどかしく思う


「薔薇の都を思い出すわ」

「そう?」

「ええ。真ん中に高い塔があってね、そこが私達の居る場所だったの。そこからその世界は一望出来て…」

凛は言葉に詰まった。望郷の想いが胸を占めた


凛は颯雅を振り返って、その身体に抱きついて言った

「ねえ、あなたの作った世界はなんて美しいの」

「僕の作った世界?」

「そうよ。神が作った世界。ここから世界の全てを見渡せるわ。言ってみて。自分が作った世界だって」

「言わなきゃダメ?」

「ええ」

颯雅は少し躊躇っていたが、海を見つめる

「神がこの世界を作り出した…」


この世界の何が。凛を生き辛くさせ、逸彦を自害に追い込み、命が狙われ、双青の都の人々を全滅させた。己自身を無力にし、対共々死に追い込んだ。それの何が、凛に美しいだなんて言わせるんだ…


”美しさは愛への献身である

そのものがそのものであるのは

あなたの思いである

愛はそれを受け取る

言いなさい

あなたが作り出した世界は美しいと

それを受け入れなさい”



「神がこの世界を作り出した、それは美しい」


颯雅は急に涙が出てきた


まさか己の作り出した世界が美しいなどと思ったことはなかった。どう足掻いても愛が創り出すものに叶わなかった。

どんなに頑張っても無理だった。これ程までに愛が自分の願いを叶えてくれていたのに、己は何も愛に応えられないと思っていた


神の想いが内側に溢れ、その慟哭が確かに自分のものだと知らしめる


”愛は常にあなたと共にある

あなたが何を思ってこの世界を作り出したのかも知っている

愛への献身こそが、この世界の美のしょうである

出来事や現象ではない

愛はあなたを愛してやまない”


「そうよ、作り出したあなたの心が美しいから、世界は美しい。醜いものが無いとか汚いものが無いからではない。あなたが一生懸命に力を尽くして知ろうとして、探して見つけて、表現した。それを美しいと言わずになんて言うの。あなたの在り方をこそ、美しいと言うのよ」


颯雅は凛の顔を見た。その向こうの、全てを受け容れ、果てないほどの深い愛を見た

それに対して、なんて己はちっぽけなんだろうと思った

悔しかった

神は全知全能だ

それでさえこの程度だ


颯雅は両手で手摺りに掴まったまま、しゃがみ込んで声なく泣いた。その颯雅を後ろから凛が抱き締める


”悔しいと思う気持ちさえ美しい

それは愛への献身がなければ生み出されなかった

あなたの想いは輝き螺旋へと繋がる”


「螺旋?」

“螺旋は進化の螺旋、命の情動、神の見る先”


「あなたはその為にやったの。だから、次に行きましょう。その先へ。完全なる幸せに」

「完全なる幸せ…」


凛は立ち、颯雅の両手を取って、颯雅を立ち上がらせた

「だから、幸せになりましょう。あなたの作った世界を満足して」

凛は景色を両手で示す

「ほら、この世界はあなたのものよ」



神は我が世界をその(かいな)に抱き、愛はその神を抱き締めた




凛と颯雅が螺旋階段を降りて行くと、すれ違うカップルがいた。二人が灯台に居る間誰も上がって来なかったのは、愛が調整してくれていたのだろう。

颯雅は黙っていた。でも心はここに向かっていた時よりもずっと晴れやかだった


「これで終わり?」

颯雅が問うと凛は振り返って笑った

「まだまだこれから。始まったばかりよ、世界の創生は」




颯雅は駐車場近くの屋台でミントチョコのアイスを買うと凛に渡した

「車で食べて」

「颯雅君は?」

颯雅は首を横に振った。すっかり暑くなった車内を冷房で冷やしながら、颯雅はー車を走らせた。灯台は少しずつ遠ざかる


凛はミントチョコのカップの蓋を剥がすと、食べ始める

「美味しい」

「良かった」

だが颯雅は凛がミントを好きではない事を知っていた。それでもこれを買う必要があると思って敢えて選んだのだ


「ミントは空を指す。空は(はやて)をもって(みやび)となす。それが颯雅、だって。空の理が言ってるわよ。はい、ご褒美、あーん」

凛は木の匙でアイスを掬うと、颯雅の口の前に差し出す。もちろん!


口の中ですうっと甘く溶けるアイスが、こんなに美味しかった事はない


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