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Unverziert【遺志】凛と颯雅


Unverziert ウンフェルツィールト(装飾音無しで)(独)



「エンヤさんて、副隊長かしら」

昼ご飯を食べながら、凛が言い出す。カーフェリーで渡った島で思い出した記憶と出来事が二人を暫く沈黙させていた。二人は黙々と宮古そばを食べていたところだ。颯雅は胸が一杯で味も何もあったものでは無い。多分美味しいのだろうが


「不完全な命は転生出来なかったんじゃ無いの?」

「そうだけど、欠片が入っているって事もあるわ。逸彦も自害した後そうだったみたいだし」

「でもそうしたら、エンヤさんは、本当の人生を送れないの?」

「多分、対が現れれば、命が入るの」

「そうなんだ。副隊長の愛する人って、神殿の女官だったかな。夢でその彼女の事を話していた。そういえば、最後ネックレス渡されて、彼女に渡してくれって」

「ええ。私と共に生き残りの船に居た、女官だわ」

凛は答え、深い意識と共に言う


「エンヤさんが宮古の海に潜る事を求めるのは、愛の大元に還りたいからだった。でも本州に実家があって何故か宮古に落ち着く事も出来ない。還りたくても還る事が出来ない葛藤が、彼の状況を作り出していた

彼は愛する人を一人にしてしまうからって、愛する人を求める事を避けているの。でも命が還ったのなら、もう一度愛する人と共に生きたいと望んでくれれば、彼は対に出会える筈よ」


「そうなったら良いね」

颯雅はその話を聞きながら、逸彦の姿を重ねていた。逸彦も自害し、その時に留まりながらも、本当は実穂高に会いたいと願っていた筈だ。愛する者と共に生きる事を求めた筈だ。副隊長の想いを心して抱き締めた


もう良いんだ。幸せになっても構わないんだよ。今は戦いの世では無い。もう終わったんだ


副隊長に語りかけながら、自分と、自分の中の逸彦に語りかけている気がした

また目に涙が滲んで、鼻水が溜まって来る

凛は黙ってポシェットからティッシュを取り出し、テーブルに置いた

「熱い汁物食べると鼻水出るわよね」

その言葉が思いやりだとわかって、益々鼻水が出る


鼻をかむ様子を見て凛は言った

「鼻が泣いているのよ」

「え?」

「颯雅君が無意識に感情を抑える癖があるから、鼻が代わりに泣いてるの」

「あは、そうかも」

「あれだけの事があったんだもの、当然よ」

「うん…」

颯雅は俯き、また鼻をかむ


「でもどうして二人は、ラズワードと姫王は死んだの。敵にやられた訳では無かったのに」

「離れている期間が限界を越えたからよ」

「対だから?でもその後、逸彦と実穂高だって、僕らだってずっと離れていたよ」

「そうね。でも教えてくれないわ」

「まだ知るべき時では無いと言う事?」

「多分…」

凛が全部話してくれていない気がした。だがなぜかそれを言及したくないという自分も居た


思い出す程に、後ろめたくなるような記憶ばかりだ。実穂高を残して自害したり、姫王を残して互いを死なせるとか。まだ出て来るんだろうか


内側の騒がしい(やから)も何も言わない。祖のくそ爺い、都合悪い時は出て来ないんだな


「彼らの、宮古で亡くなった隊員の想いを無駄にしてはいけないと思ったわ」

「副隊長は二人が幸せならば国は再興出来るというような事を言ってた」

「そうよ。私達、幸せになりましょう」

颯雅は凛を見詰める

「僕は今凛と出会えて、こうして居られるのを幸せだと思うよ」

「ええ、私もよ。でももっとよ。もっと幸せになりましょう」

「もっとってどう言う意味?どうなったら幸せなんだ?お金があるとか、好きな仕事をするとか?」

「妥協の無い、完全なる幸せよ」


颯雅は反射的に答えた

「そんなのある訳ない。誰だって、多少我慢しながら生きている。ましてや君はこの世を生き辛いと感じる位なのに」

「ええ、だからよ。私、過去の気になる事、辛い事が一切無くて、ずっと幸せと喜びを感じているのが通常なのでは無いかと思い始めたの。原因が外れると、少しずつでも苦しみは減っている。だから全部取れる事がある、そう言う時が来るのは可能だと思うの」

「それはそうだけどさ、何万年単位の記憶があるのに、それを全部思い出して解決するの?」


凛は頷く

「それでも構わないわ。この胸がいつもいつも重苦しくて、必ず何かしら心配事があるなんて、神なのにおかしいと思わない?」

「それはそうだけどさ」

颯雅はその凛の言葉の先に膨大な課題の山が積まれるのだろう事を考えてげんなりした


「だけど、苦しみ悲しみが無いなんて、感情が無いみたいだ。ロボットみたいになってしまわないのかな」

凛はじっと颯雅を見詰め、確信したように言った

「違うわ。負の感情は頭脳が作り出した幻想よ」

「なぜそう言い切れるの。薔薇(そうび)が言った?」

凛は首を振る

「体験したもの。初めてコンサートで颯雅君に会って、泣き尽くした後、心が静かになったの。そうしたら、ずっと根底に喜びがあった。それから、個展で話した後、私素晴らしい感じだったの」

「素晴らしい感じ?」

「うん。心が生まれたての赤ちゃんみたいに、全てに新鮮さを感じて、いちいち感動して、何も余計な考えや過去が浮かんで来なかったの、しばらく。その間ずっと今のこの瞬間を生きていると感じていたわ。次に何が起こるのかを知っているような感覚だった」


颯雅は無言で凛を見詰めた。その目が奥から輝いて、それは確かに本当の事を言っていると語っていた


「それこそ、記憶の音楽の只中に入って、愛に満たされたかのように。でもそれを普通だと思えたの」

「普通?」

「本当の自分はこういう状態が常なんだって。それを思い出させてくれたのは颯雅君なんだって」


「でも凛、付き合い始めてからは凄く不安がっていて…」

「うん。離れているのが異常だとわかって来たのよ。それに、それで何かが阻んでその状態で居られないってわかったから、こうして課題に取り組んでいるし、実穂高や姫王の事を知れたのでしょう?それらはきっと完全無欠の私に戻る道しるべなんだわ」

「完全無欠の自分?それって神に戻ろうと言うの」

凛は言葉にせず颯雅の目を見て頷いた。その目には強い決意があった


「それが彼らの遺した意思でしょう?」


その言葉は颯雅に重く胸にこたえた。また副隊長、隊員達の気持ちを思い出した。彼らの命を捧げて守りたかったもの。それは確かに自分達だろう


「わかった。僕らが出逢い、こうやって取り組んで知って来た事の先に何があるのか、正直分からないし、怖い気持ちもある。でも道を進もう。僕は後に引く気は無いよ。凛と生きる事を決意しているから」

その時凛が浮かべた笑みを至上のものだと颯雅は思った


「そう言えば」

凛の笑顔を見て思い出した。颯雅は夢で話していた大君と姫君の事を話した

凛はそれを聴くと、突然目に涙を浮かべた

薔薇(そうび)だわ。その時、薔薇(ばら)の都と呼んでいたそうよ」

「緑の都の後に移動した国?」

「ええ。私、帰りたいの。そこへ、そこへ帰りたいの」

凛は顔を伏せて泣き出した。涙を堪えられなくなったようだった


颯雅は慌てる

テーブルの上のティッシュを凛の方に押し戻しながら言う

「えっと、出る?食べ終わったよね」

凛はティッシュで顔を押さえながら頷く

颯雅は会計をすませると凛と一緒に店を出た


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